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「懐かしい?」
「はい。修業時代に追加された初めてのメニューでして」
「そうなんですね。それは思い入れもあるんじゃないですか?」
若大将は当時の話しを嬉しそうに話してくれた。修業時代、それは大変な事もあっただろうけど、彼の歯に噛んだ笑顔を見ていると、一つ一つがまるで宝石のように輝いていたんだろうなと感じた。
「ん? 聞き覚えのある声と思ったら“仁”じゃないか」
奥から大将が厨房に来た。
「ご無沙汰しております」
「お中元ありがとうな」
「いえいえ、つまらないものですが。大将から頂いた色紙、大切に飾ってあります」
「そうか。いい顔してるな。順調か?」
「はい。コロナ禍で大変ですが、それは何処も同じですし」
人気店“上海楼”の若大将も、大将の前では弟子の顔になっているように見えた。こんなに恐縮している若大将を目の当たりにして、いかに北京飯店の大将が偉大であるかを部外者ながら感じている。
「大将、お知り合いですか?」
「お前の先輩だよ。今は自分の店をやっている」
「そうなんですね。初めまして。テツと言います」
「噂はこの方から聞いているよ。今日は君の料理を食べたくてご一緒して頂いたんだ」
「そっそんな。緊張します」
大将がテツ君の肩の手を乗せた。
「テツ、兄弟子に食べてもらえるなんて最高じゃないか。楽しめ」
「はっはい」
大将の一言で、こわばっているように見えたテツ君が、いつものテツ君の戻ったように感じた。
「何しましょ?」
「日替わり定食を」
「えっ、えっと、エビチリとライスで」
「はいよ」
大将は蕎麦の段取りで奥へと消えていった。私は、アジフライと最後まで迷ったが、予定通りエビチリとライスにした。
「北京飯店で一番好きなメニューって何ですか?」
若大将がいきなり質問してきた。全て最高すぎるが、一番好きなと言うならあれしかないだろう。
「中華丼ですかね。連続で五回以上注文した時があります」
「そっそれは凄いっ! 確かに大将の中華丼は最高ですからね」
「野菜の色と味が濃いというか……。上手く言えませんが」
「いや、そうだと思います。どの料理でも素材を活かすのが大将の流儀ですし」
上海楼の料理も、全て生き生きとしてるように感じた。『素材を活かす』というのが、弟子達にも受け継がれているんだろう。
若大将がテツ君の動きを、私と喋りながら観察していた。時折小さく頷いたりしている姿が印象的だった。
「はいよ! 日替わり定食です」
「ありがとう」
若大将の目の前に置かれたアジフライ定食をまじまじと見てしまった。自分の注文したものではないが、アジフライの肉厚の凄さに目を奪われたのだ。
「これは美味そうです」
「凄い肉厚ですよね」
「そうですね。キャベツの千切りもみずみずしい」
「はいよ! エビチリとライスです」
「ありがとう」




