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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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エビチリとライス

 

 月曜日──青空駐車場の北京飯店専用スペースで、上海楼の若大将と待ち合わせをしている。11時に待ち合わせだが、十分早く着いた。



「この間はどうもありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ」



 既に若大将が駐車スペースで待っていた。二つあるスペースの片方に国産の最高級ミニバンがとまっている。夏の終わりを感じさせる日差しが、黒のミニバンをピカピカに輝かせていた。



「少し緊張します」


「そうなんですか。以前に働いていたのに」


「大将にお会いするのは久しぶりでして」



 私服の若大将は、同じ男として嫉妬するのも恐縮するぐらいスタイリッシュだった。黒のTシャツとジーンズとシンプルだが、何処かのブランド品である事はそういった類いに疎い私でも分かるぐらい高級感に溢れていた。



「テツ君は知らないんですね?」


「はい。初めてです」


「そうなんですね。今日の日替わりは何だろう?」



 私達は、お店の中に入った。まだ開店五分前だが、いつものように赤い暖簾が出ていた。



「いらっしゃい!」



 今日は赤いバンダナのテツ君が迎えてくれた。店内はまだ他のお客さんはいない。



「懐かしいです」



 入り口に近い席に座った。若大将は店内を見渡して、『懐かしい』を連呼していた。



「前失礼します」


「ありがとう」



 テツ君が、おしぼりとお水を置いてくれた。



「今日はお連れさんと一緒なんですね」


「はい。今日の日替わりは何ですか?」


「今日はアジフライ定食です」



 仕事中、何を食べるか考えていた。まだ食べていない中華の王道って何だろうと──。そして、たどり着いた答えは、“エビチリ”だった。前から北京飯店のメニュー表にもある事は確認済みで、口の中もエビチリになっていた。ところが、今日の日替わりが“アジフライ”と聞いて、それも吹っ飛んでしまった。町中華で、アジフライ定食とか聞いた事がない。探せばあるかもしれないが、少なくとも私はお目にかかった事はない。



「アジフライ定食ですか……」


「日替わりにします?」


「そうですね。炒飯を頼もうと思っていたのですが、アジフライと聞いて食べたくなりました」


「分かります。私もアジフライと聞いて……」



 生粋の日本人だからだろうか──アジフライって妙にテンションが上がる。何故だか分からないが。子供の頃は、今日の晩御飯はアジフライと聞いたら、そんなに嬉しくなかったのに、大人になってアジフライというワードを聞くと食べたくてしょうがなくなる。私だけかもしれないが──。



「どうしようかな……」


「ちなみに、何を注文するか決めていたんですか?」


「はい。一応」


「ちなみに何を?」


「エビチリとライスにしようかと……」


「エビチリですかっ! 懐かしいです」



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