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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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7

 

 注文したのは、クラゲの酢の物、冷やし坦々麺、竹そうめん胡麻ダレつゆ──タブレットで確認したら、1950円だった。



「2000円いかないんだけど……」


「そうなの? あり得ないよ」



 気分的にフルコースを味わった感覚に近い。最後のデザートが効いているのかもしれない。替え玉なる替えそうめんも無料だった。



「高級中華だよね?」


「多分、そういう位置付けのはずよ。世間的には」



 店内を見渡しても、他のお客さんはいない。



「時間的にもまだ5時半過ぎだしね」


「6時ぐらいから予約テーブルも埋まるんでしょうね」


「時短で8時までだし、お酒も出せないから、売り上げも相当厳しいでしょうね」


「それなのに、サービスまでしてもらって……」



 お店を経営した事がないから、所詮は他人事だし想像の域を超えない。だが、仮に遠くに引っ越したとしても、ここに食べに来たいと思わせる場所だ。



「北京飯店に似てるよ。やっぱり」


「お弟子さんですもんね。あの大将、ただのお爺さんじゃないわね」



 何処か北京飯店を感じるのは、若大将が北京飯店の大将の意思を色濃く受け継いでいるからだろう。料理だって全く違うんだけれど、何処となく北京飯店の香りがする。



「満足したわ。前来た時もそう思ったけど、また直ぐに来たいね」


「ほんとだよ。まだ食べていないメニューばかりだから」


「あなた、北京飯店みたいに全メニュー制覇とか言わないでよ」


「いや、言おうとしてたよ」


「あなたったら」



 大満足でレジへと向かった。若大将が、ミント系のガムをくれた。これもサービスである。あれもこれもサービスで大丈夫か本気で心配になるほどだ。



「本日、ありがとうございました」


「いや、こちらこそ。デザートをサービスしていただいて」


「いえいえ。北京飯店の常連さんだし、うちにも来てくださったんで」


「そうだ、北京飯店の近況を教えてほしいっておっしゃってましたね?」


「はい。最近どうですか?」


「大将は完全に蕎麦一本になってます。弟子のテツ君が厨房を任せられてまして」


「大将、ようやく夢が叶うんですね。嬉しいな」


「北京飯店をテツ君に譲る話しをしていました」


「本当ですか? そのテツ君、相当な腕なんでしょうね」


「三年目らしいですよ」


「やられましたね。完全に。すっごく悔しいです。そんな短期間で北京飯店が手に入るなんて」



 悔しそうにしている若大将を見て、実は真剣に向き合えるものがある事ほど幸せな事はないんじゃないかと思った。私には現時点ではないから、テツ君や若大将が羨ましく思えた。



「今度、偵察に食べに行きますよ」


「マジすか? ほぼ毎日行ってるんで会えるといいな」


「月曜日の昼に行こうと思います」


「私も行く予定です」


「ほんとですか? 月曜日楽しみです」


「開店と同時にいつも行ってまして」


「私も同じ時間に行きます」



 ひょんな事から、若大将と北京飯店でランチをする事になった。テツ君の腕前と大将の蕎麦が気になっているんだろうか──。いずれにしても、楽しみである。色んな意味で。


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