6
「分からない……。けど、椎茸のような香りがするよ」
彼女は器を取り、匂いを嗅いでいた。
「ほんとだ。干し椎茸じゃないかな」
「椎茸好きなんだよ」
「結構、肉類以外でも好きなのあるんだね」
筑前煮に入っている椎茸が特に好きで、子供の頃食べた煮物ではダントツで筑前煮が好きだった。
「あと、佃煮も好きだよ。椎茸の」
「今度、筑前煮作るわ。1人だと煮物作っても残っちゃうし。滅多に作らないけど、あなたが好きなら作るわ」
「ありがとう。それは楽しみだ」
私は残った薬味のオニオンチップをつゆに入れて、そうめんを食べた。
「これ最高だ。今まで何で薬味として使わなかったんだろう」
オニオンチップを入れる事で、香ばしさと食感がプラスされて、より一層豊かな味になった。このオニオンチップを使うところが、大将の非凡なところなんだろう。私のような凡人には辿りつけない領域──。
「ミョウガとオニオンチップか。家でも簡単に出来るね」
「そうね。やっぱりこのお店は凄いわ。直ぐに家で作りたくなるもの」
「同じ味にはならないけど、バリエーションが増えるというか、自分が料理上手になったと錯覚してしまうけどね」
ザワークラウトの次は、自分でそうめんつゆを作ってみようと思った。干し椎茸を使ったつゆが衝撃的な味だったからだ。ままごとに毛が生えた程度の自炊レベルではあるが、何とか頑張って作ってみたいと思った。そして、彼女にも味見をしてもらおう。
「すいません。これ、大将からサービスです」
イケメン店員さんが、デザートらしきものを持ってきてくれた。
「綺麗!」
彼女が言うのも無理はない。男の私でさえ、その美しい緑に目を奪われたのだから。
「シャインマスカットのゼリーです」
「シャインマスカットっ! 私、大好きなのっ!」
「こっこれが、サービスなんですか?」
「はい。お二人に是非食べて頂きたいとおっしゃってまして」
シャインマスカットのゼリー──透明のガラスの器に、吸い込まれそうなぐらい美しい緑色の四角いゼリーが乗っている。中にシャインマスカットが入っているのが透けて見えていて、食べるのがもったいないぐらいだ。
「美味しいっ!」
「何これ? 美味すぎて鳥肌立ったよ」
口の中に入れた瞬間、ゼリーの冷たさと、シャインマスカットの豊かな味わいがこれ以上ないぐらい幸せな空間へと誘う。あまりゼリーとかは食べないが、二口で食べきってしまった。
「……」
「……」
声にならない──店内は小さな音でジャズが流れていたが、それも聞こえないほど放心状態である。
「感動ね。最後のシャインマスカットがこのお店の全てを語っているようだわ」
「うん。何だろう? 上手く言えない自分がもどかしい」
「しかも、これサービスでしょ?」
「お金払わせてほしいぐらいだよ」




