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溶き卵のスープに舌鼓を打ち、いよいよメインディッシュだ。まずは、薬味なしで食べてみる事にした。
「美味っ! 凄い濃厚だ!」
胡麻ダレつゆの濃厚さにびっくりした。とにかく、そうめんに絡みついてくる。何処かに中華を感じるのは辣油のせいだろうか。とにかく飲み物かのようにそうめんが入っていく。
「こっちも美味しいわ」
彼女曰く、肉味噌が癖になる味だそうだ。
「初めて食べたけど、美味しいわ」
「冷やし坦々麺、家で作れそう?」
「無理よ。らしきものなら作れるかもだけど」
「麺も凄く縮れていて美味しそうだよね」
お互いの注文した品を、味見も兼ねて交換した。
「凄い絡みついてくるわね。これは市販の胡麻ダレでは無理ね」
「冷やし坦々麺、美味いっ! 肉味噌がもっと濃い味かと思ったけど、丁度いいよね」
「そうなのよ。全て計算されているんだろうけど」
「やっぱり凄いね。ここの大将も」
ふたたび、自分の注文したものに交換した。胡麻ダレが絡みつくけど、喉越しは抜群である。一口サイズに巻かれたそうめんがもうなくなってしまった。
「替え玉できますよ」
「マジですか? お願いしようかな」
「はい。つゆも普通のめんつゆをお出しできますが?」
「そうなんですねっ! それは嬉しいな」
カウンターの向こうにいる若大将が、替え玉そうめんと、新たなつゆの器を出してくれた。ガラスの器に見慣れた黒い液体が入っている。
「美しい器ね。やっぱり料理は器も凄く大事だわ」
女性らしい意見である。私などは、竹の器には反応したが、ガラスの器には無反応だった。確かによく見ると、赤い六角形の模様がとても綺麗だ。
「流石にお目が高いですね。そちらは江戸切子を使わせてもらっています」
大将が新しいお手拭きを持って来てくれた。
「凄い。めちゃくちゃ高級品ですよね」
「はい。でも、これを使いたくて奮発しました」
高級と言われればそう見えてしまう私はまだまだなんだろう。だが、彼女はその美しい器の価値を一発で見抜いていたようだった。
「ほんとに綺麗だわ。こんな器であなたと焼酎とか飲みたいわね」
「それいいね。これって高いんですか?」
若大将に聞いてみたが、『内緒です』と言われた。おそらく、引くほど高いんだろう。
「急に緊張してきたよ。江戸切子」
「“キリコ”っという女のひとに緊張してるみたいな言い方じゃない」
「これって、色は赤だけなのかな?」
「青とか見た事あるわ」
江戸切子──日本と東京都から指定を受けている伝統工芸である。ガラスの表面に紋様をカットして装飾する技法、または、カットされた紋様そのものを指す。
私は、薬味のミョウガを入れてそうめんを食べた。
「美味いっ! 濃縮タイプのつゆとは雲泥の差だよ」
「市販のと比べてはいけないわね。あれはあれで美味しいけどね」
何が調合されているか分からないだろうけど、つゆに顔を近づけてみた。




