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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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2

 

 彼女は、目を丸くして私を見ている。予想通りのリアクションだ。



「なかなか味があるだろう」


「あそこって営業してるの?」


「いやいや、暖簾出てたじゃん。バリバリだよ」


「今って令和だよね。あそこだけ私の子供の頃みたいだった」



 裏の駐車場に車を止めて、北京飯店の暖簾をくぐった。



「いらっしゃい!」



 いつもの大将の声と弟子の姿がある。土曜日に来るのは初めてで、何処か他所行きの雰囲気が漂っている気がしたが、きっと気のせいだろう。



 11時ジャスト──まだ他のお客さんはいない。私達はいつもの入り口に一番近い席に腰掛けた。



「中は思ったより綺麗だね」



 彼女は私の耳元で囁くように言った。私は、置かれているメニューを持ち、彼女に見せた。



「何にする?」


「餃子と炒飯」


「やっぱりその黄金タッグでいきますか」


「うん。もう口がそうなってるし」


「すいません!」


「はいよ! 何しましょ?」


「餃子と炒飯を二つで」


「はいよ!」



 北京飯店に通って3年──初めて食べる餃子と炒飯。私は黄色のおしぼりを広げて彼女に渡した。



「ありがとう。相変わらず優しいね」


「これって優しいの?」


「優しいでしょ。された事ないよ。何かあなたといると、大切にされてるって実感できてすごく幸せなんだ」


「この程度でいいならいつでも」



『人は後悔で出来ている』──誰かの言葉だが、誰だか忘れてしまった。私もこれまでの人生で、沢山後悔してきた。



『あの時、何であんな事言ったんだろう……』


『あの場所になんでわざわざ行ったんだろう……』


「あの瞬間、違う方を選択すべきだった……』



 数え上げればキリがないんだけど、やっぱり愛する人との別れって本当に辛いものだし、もう二度と同じ轍は踏まないと思っていても、また同じ失敗をしたりする訳で。私は、あまり自己表現が得意ではない。一体何を考え、何を思っているのか分からないと言われて、相手を不安にしてきたこれまでだった。気持ちを悟られるのが恥ずかしいって訳じゃないんだけど、自分の気持ちをストレートに出した事はなかった。それではいけないし、昭和生まれだからしょうがないっていうのもただの言い訳にすぎない。どの世代に生まれても、相手に気持ちを伝える人は必ずいるんだから。だから、後悔しない為にも、気持ちをストレートに伝えて、何かしてあげたいと思ったなら、出し惜しみしないで行動に移そうと誓った。そう、彼女と付き合うようになった5年前から──。



「前からそんななの?」


「いや、君だからだよ」



 事細かく話すより、この回答の方がベストだと思った。キザだけども、嘘ではない訳だから。



「本当かな……。若い子の方が良いんじゃない?」


「いやいや、興味ないよ。君とこうして餃子を食べていたい」


「ごめん。あんまりしつこいとウザいよね。やっぱり、こういうお店って餃子だよね」


「実は、餃子も炒飯も今日が初めてでさ」



 私は、話しながら餃子のタレを小皿に入れて彼女に渡した。



「ありがとう。ていうか、本当? 何年か通ってんだよね?」


「うん。3年」


「いやいや、ないない。あり得ないでしょ」



 確かにあり得ない。何故、中華丼、五目そば、日替わり定食ばかり食べていたのか分からなかった。考えるのが面倒くさいというのもあるし、冒険をしたくないというのもある。



「どんな炒飯だろう……。お店によって個性あるよね」



 その通りで、同じ餃子や炒飯でも全く違う。白が黒ほどは違わないが、どうか彼女の口に合う餃子と炒飯であってくれと強く願った。




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