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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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 豚肉の生姜焼き──生姜焼きダレが味の全てだろう。だが、素人でも簡単に作れる黄金比率なるものが存在するらしい。テツ君の調味しているところを見ていたら、テツ君からまた声を掛けてくれた。



 もう何の疑いもない──彼の中では、私は完全に常連という位置付けであろう。



 生姜焼きダレ黄金比率──生姜のすりおろし1かけ分、醤油大さじ1、酒大さじ1、味醂大さじ1で完成だそうだ。テツ君は『覚えやすいでしょ』と笑いながら言っていたが、色々と不安だ。まず、しっかりと計量できるスプーンを持っていない事、生姜すりおろしの1かけ分の1かけとはどれぐらいの大きさなのか──。そして、最大の懸念事項は醤油だ。彼女に言われて“減塩”の醤油を使っている。普通の醤油とは明らかに味が違うというか、物足りない。それでも作れるのかどうかであるが、一々とテツ君に聞く訳にもいかない。計量スプーンは100均で買えばいい事だし、醤油も減塩でないものを買えばいいだけの話しである。だが、生姜の事は聞いておいた方がいいだろう。




「生姜のすりおろしの量は大さじでどれぐらい?」


「いや、適当でいいっすよ。すりおろしても他に使い道がなかったら勿体ないし」



 確かにそうだ。生姜のすりおろしの使い道って、素麺つゆに入れるか、浅漬けを食べる時に醤油に少し入れるぐらいだ。他にもあるだろうが、思い付かない。



「後は微調整す。何とかなりますよ」


「……そうだね」



 それがなんともならないから困っている。根本的に、私は料理は好きだが得意ではないのだろう。臨機応変さが足りない気がする。彼女など見ていると、私にない“それ”を持ち合わせている気がする。所謂、センスというやつだ。何でもそうだが、このセンスがものを言う。とにかく、せっかくテツ君が黄金比率なるものを教えてくれたのだから、来週あたり試してみる事にしよう──。



「お疲れ様です」


「はいよ。横井さん、ざる蕎麦と炒飯です」


「十分以内に完了します」


「よろしくお願いします」



 今日も、宅配サービスのお兄さんが来た。この日差しの中、赤い半袖のシャツで配達しているから、両腕が真っ黒に日焼けしていた。大将はというと、今日も調理場の奥で仕事をしている。時折、トントンという音が聞こえてくるが、その正体は分からない。おそらく、蕎麦切りをしている音ではないかと勝手に推測している。



「お待たせしました。豚肉の生姜焼き定食です」


「ありがとうございます」



 目の前に、ステンレス製のラグビーボール型をしたお皿と、ライスが乗った白い平皿が置かれた。このラグビーボール型のお皿、昭和レトロ感が半端ないのである。敢えて、そういうレトロ感を狙って出している訳ではない。それは、そのステンレス製のお皿に付いている無数の小傷が物語っている。間違いなく、昭和まではいかないにしても、平成の初期ぐらいから使われているものであろう。何とも言えない懐かしさと切なさが、そのお皿から醸し出されていた。




「すいません、今日は玉葱のお味噌汁です」


「ありがとうございます」



 昨日もそうだったが、いつもの中華スープではなく味噌汁を出してくれた。



「中華スープじゃないんだね」


「中華スープに変更しましょうか?」


「いやいや、味噌汁好きだから」

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