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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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5

 

「すいません、お出しするのを忘れていました。お好みでどうぞ」


「ありがとうございます」



 北京飯店が『お好みでどうぞ』という時は大体マヨネーズである。餃子のタレを入れる小さなお皿にマヨネーズが乗っている。これを一体何処で使うのだろうか──。北京飯店のサラダ系は、マヨネーズやドレッシングがビシャがけタイプだから必要ない。だから、使い道は自ずと絞られる。もちろん、初めから分かっていたが、デミグラスソースを冒涜している感じがして気が引ける。だが、私が注文した訳ではない。テツ君が『お好みで』という事で出してくれたものだ。作り手が別にいいですよと言っているのだから、こちらとしてはお言葉に甘えて、ハンバーグにマヨネーズを付けて食べようと思う。




『美味いっ! もうめちゃくちゃに美味い』



 私はご飯をかき込んだ。止まらないのだ。さらにハンバーグにマヨネーズを纏わりつかせて、ご飯の上に乗せた。そして、勢いよくかき込んだ。



『美味すぎてどうにかなりそうだ』



 私はマヨネーズ信者ではない、大好きではあるが、何にでもマヨネーズをかける人ではない。そうではないんだけど、マヨネーズにハンバーグは合う。それも抜群に。以前、自称芸能界一のマヨネーズ信者を名乗る芸人さんが、カツ丼にマヨネーズをビシャがけしていたが、あれもおそらく合うだろう。そう思ってしまう私は、実は立派なマヨネーズ信者なのかもしれない。



 そして、デミグラスソースが染みたマカロニサラダを食べた。



『何でこんなに美味いんだろうか……』



 もう全てがデミグラスとマヨネーズが混ざった味になっているが、それでいいのだ。そうじゃなきゃいけないと言っていい。もうチーズの風味とかは何処かにぶっ飛んでしまって、改めてマヨネーズの破壊力を思い知る事になった。そして、唯一茹でたインゲンだけはその威力の外側にあった。丁度、お皿の端のほうに移動させていたのだ。こうなる事を見越していた訳ではなく、たまたまではあるが──。



 私は青々としてインゲンを口の中に放り込んだ。



『濃いっ!』



 デミグラスソースとマヨネーズに支配された口の中でも、インゲンの味がしっかり感じられるほどに濃い。この野菜一つとってみてもこだわりがあるんだろうと思った。



 そして千切りキャベツだ。上の方に残っているマヨネーズをかけて、下の方はハンバーグの肉汁とデミグラスソースがたっぷりと染み込んでいる。私は貪るように千切りキャベツを食べた。



『もうおかずだな』



 子供の頃、美味しくないから残していた野菜だ。プチトマトも大人になってから食べ出したほど、野菜は口にしなかった。この脇役達のおかげでメインが引き立つ事をいい大人になってから分かってきた。少し遅い気がしないでもないが。



 ドラマでも同じだ──主役だけじゃつまらない。敵役も必要だし、準主役も必要だ。話しを飛躍しすぎたが、つまり何が言いたいかというと、北京飯店のハンバーグ定食は最高だって事だ。



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