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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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4

 

 私は、お箸で切ったハンバーグにチーズをまとわりつかせて口の中に入れた。



『美味いに決まってるよね』



 ハンバーグの切り口から肉汁がマグマのように噴き出していた。それを目にした時点で美味いハンバーグである事は確定していたが、実際食べてみると想像を遥かに超えたものだった。ハンバーグにチーズと強い味の組み合わせに全く負けていないデミグラス。それどころか、一つにまとまめてしまうほどのソースである。おそらく市販のものではない。そうなると、手作りという事になる。ハンバーグ定食の為だけにデミグラスを仕込んでいるという事か──。



 私はお箸を置き、メニュー表を確認した。



『……完全に見過ごしていた。いや、気付かなかっただけか』



 メニュー表には、そのデミグラスを使うであろう料理が下の方に手書きで幾つか記されていた。



『きのこたっぷりハッシュドビーフとかやばすぎるやつじゃないか……』



 メニュー表は何度も見て確認していたつもりだった。だが、見落としていた。ハッシュドビーフと、とんでもないメニューがまだあった。



『半熟卵入りのハヤシライス……』



 ハンバーグ定食に集中できなくなっていた。何度も言うが、ここは町中華である。まさかのハヤシライス、ハッシュドビーフにかなり動揺している。何故なら、ハヤシライスは私の大好物だからだ。このとんでもないデミグラスを使用するはずで、そのハヤシライスが美味くない訳がない。さらに、“半熟卵”はもはや最終兵器ではないか──。



 私は心を落ち着かせる為にお水を飲んだ。



「何かありましたか?」


「いっいえ、何にもないです」



 動揺しているのを悟られたかどうかは分からないが、テツ君が声を掛けてくれた。



「そうですか。料理に問題があったのかなって」


「問題どころか、美味すぎてショックを受けてる感じです」


「ありがとうございます。それなら良かったです」


「実は、ハヤシライスに目がなくて。メニュー表見たらハヤシライスがあったんで。次回注文します」


「うちのハヤシライスは結構評判でして。是非また召し上がってください」


「はい。楽しみです」



 ざる蕎麦、牛丼、ハンバーグ、ハヤシライス、和洋中全て揃っている。ハヤシライスなんかも誰かのリクエストなんだろうか──。



「ハヤシライスも常連さんが?」


「おそらくそうだと思います。僕が入る前からあったんで」




 上海楼の大将が修行していた頃だろうか──週末に食べに行くから聞いてみようと思った。覚えていたらの話しだが。



 それよりも、目の前のハンバーグ定食だ。私は一口に切ったハンバーグを目玉焼きで巻いて食べた。



『黄身がとろけて最高だ』



 口の中が飽和状態だが、ここにご飯をかき込みたい。ハンバーグは、昔も今も私にとって憧れのメニューである。子供の頃、デパートの最上階のレストランで食べるハンバーグステーキが最高だった。たまにしか連れて行ってくれなかったから余計にそう感じたのかもしれない。とにかく、ハンバーグは誰からも愛される超スーパースターだ。



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