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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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7

 

 きたあかりフライドポテト──じゃがいもを水で洗い、ラップに包み、レンチン。少し固さが残る程度。そしてくし形に切り、フライパンにサラダ油を入れて、表面がカリッとなる程度に焼く。直ぐに塩、パセリ等を振りかけて完成。



「流石プロよね。フライパンでフライドポテトとは」


「そうだよね」


「レンチの時間が書いてないから、自分で探らないといけないわ」


「重要?」


「多分。レンチンしすぎちゃうとまずいし、しなさすぎるのもまずいと思うわ」


「そうなんだ」


「一度作ってみて、あなたに良い塩梅に出来る時間を教えるわ」


「ありがとう」


「お味噌汁、冷めないうちにどうぞ」



 私は熱々の味噌汁をすすった。



「美味い。ホッとする味だな」


「ありがとう。あなた、大根のお味噌好きって言ってたから」



 私は大根の短冊切りを黒い箸で摘んで口の中に入れた。



「美味いよ。味噌汁は大根だな」


「私、あなたと出会うまで大根の味噌汁って作らなかったわ」


「そうなの?」


「わかめとかお豆腐じゃない?」


「大根はマイナーな部類?」


「分かんないけど、でも美味しいわ」



 子供の頃によく食卓に出されていたのは大根の味噌汁だった。違う具材もあったんだろうが、なかなか思い出せない。



「そう言えば、ちくわとほうれん草とかもよく作ってくれたな」


「そうなんだ。やっぱりちょっと変わってるかもしれないわ」


「普通だと思ってたよ」


「ちくわとか使った記憶がないわ。なめことかじゃがいもかな」



 そう言えば、親父が豆腐が苦手だったような──。



「この漬物も美味しい。何個でも食べられそう」


「きゅうりも茄子もいくつかあるからタッパーに入れておくわ」


「ありがとう。これで、一品確保だな」


「自炊大変でしょ?」


「食べるのは好きだけどね」


「週一回作りに行ってあげようか?」



 そう言いながら、彼女は唐揚げとイワシの味醂干し、そしてポテトサラダを取り皿に移してくれた。



「悪いからいいよ。こうしてたまにご飯作ってくれるだけで」


「そう? いつでも言ってね」


「うん。イワシ美味いよ。こういうのスーパーで見かけるけど買わないから。ポテトサラダもマヨネーズとマスタードが効いていて美味しい」



 一瞬、彼女の笑顔が曇ったような気がした。当然、毎日でも食べたいぐらいだ。『一緒に暮らそう』の一言が喉元まで出ていたが、飲み込んでしまった。その言葉を口にしたら、確実に変化が生まれる。その変化が、良い方向に行くものなのか、悪い方向に行くものなのかが分からないし、最悪の結果、彼女を失うんじゃないかと思ってしまう。要するに、ただの臆病者なのだ。だが、このままでは駄目な事は中学生でも分かる。分かっているけど、どうしても彼女を失うんじゃないかという不安が拭いされないのだ。



「どうしたの? 気分悪い?」


「……大丈夫。ごめん。喉に詰まった感じ」



 彼女はコップに麦茶を入れてきてくれた。私には勿体無い彼女だ。本当にそう思う。



「これ飲んで」


「ありがとう」



 別に喉に食べ物が詰まった訳ではないが、麦茶を一気に飲み干した。




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