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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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5

 

「お前、店出したいって言ってたろ?」


「はい。少し前までは」


「今はどうなんだ?」


「厨房が楽しくて。緊張感もあって……」


「とりあえず、お前に店を任せたいと思ってる。最終的に譲ろうと思ってるから選択肢に入れておいてくれ」


「はっはいっ! ありがとうございます!」



 テツ君がお店を持ちたいと言っていた時、私もいたような気がする。上海楼の若大将のように、自分の味を出す店というのは最終目標だろう。だが、大将から暖簾分けではなく、店を譲ると言われて嬉しくないはずがない。実際、テツ君もその方が嬉しいんじゃないかと思った。あくまでも、推測ではあるが──。




 ライスをおかわりしたくてどうしようもなかったが、何とかバランスを保ちながら食べきった。おかわりすると昼からの仕事が眠気で捗らなくなるし、夜も彼女の家でご馳走になるから食べ過ぎは良くないと思った。



「すいません。お会計で」


「はいよ。回鍋肉とライスで750円です」



 相変わらずの価格破壊っぷりである。町中華の単品は意外と高いイメージだが、ライスとスープが付いてこの値段はチェーン店をも凌ぐ価格ではないだろうか。



「これ、さっきのフライドポテトのレシピです」


「ありがとうございます。わざわざ」


「いえいえ、またお待ちしています」



 お腹も満たされたし、レシピも手に入れた。夜は彼女の家で少パーティーだ。お酒類とデザートのケーキも買って行こう。その前に、午後からの仕事をなんとか頑張ろうか──。




 ────────────────────────────────────




「お疲れ様。疲れたでしょう?」


「暑くて死にそうだったよ。あっ、これお土産」


「あら、いいのに。でも嬉しい。ありがとう」



 彼女の部屋はいつも安らぐ香りがする。アロマがどうとか言っていたが、あまり覚えていない。私はこの表現できない香りがたまらなく好きだ。



「お風呂入って。汗だくでしょ?」


「大丈夫。ネカフェでシャワーしたから」


「わざわざ行ったの?」


「仕事が一件キャンセルになってさ。シャワーも浴びたかったから」



 夏は着替えを上下三セット用意している。朝の仕事、昼の仕事、自宅に帰る用だ。今日は彼女の家に行くからパンツの替えも一応持ってきた。



「あなたにプレゼントがあるのよ」


「えっ? 誕生日じゃないよ」


「あなたも記念日でもないのに、お花をくれたり、今日だってお土産持ってきてくれたりするから」


「あっありがとう」



 私は彼女から白い紙袋を受けとった。



「マジですかっ! これ凄く欲しかったんだよ」


「良かった。この暑さで倒れたりしないように」



 彼女からのプレゼントは今流行りの“空調服”だった。



 空調服──現場仕事や、屋外の作業で大活躍。腰あたりにファンが二つ付いていて、付属のバッテリーから風を起こして身体を冷やす服。値段は15000円強。



「この間も買うか迷ったぐらいだったんだよ」


「それなら良かったわ。暑い中頑張ってるからね」


「高かったんじゃない?」


「そんな事、気にしなくていいの」


「ありがとう。大事に使うよ」








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