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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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遅れてきた王道 回鍋肉

 

「うん。今日も北京飯店」


「また? 筋金入りね。今日、何を食べるのか聞いておきたくて」


「どうして?」


「今夜、家に来るでしょう? 夕飯被ったら嫌だなと思って」


「今日はね、回鍋肉」


「また濃いメニューね。了解」


「ちなみに夕飯は何?」


「それは後のお楽しみ。じゃあ、仕事頑張ってね」



 彼女からSNSの通話機能で連絡があった。丁度北京飯店の駐車場に着いた頃だ。今日は金曜日で、彼女の家にご馳走になりに行く事になっていた。北京飯店も大好きだが、彼女の作る家庭料理も負けないぐらい大好きだ。普段は自炊で本当に味気ないが、今日は夜まで楽しめそうだ。



『えっ?』



 駐車場から徒歩20秒──赤い宅配サービスのバイクが駐まっていた。



 そう言えば、昨日そんな話しをしていた。決めたら直ぐに行動に出る北京飯店に敬礼である。



「いらっしゃいっ!」



 店に入ると、一番奥に赤いシャツを着た黒マスクのお兄さんがスマホを見ていた。私はいつもの席に座り、メニュー表を手にした。



「何しましょうか?」



 昨日と同様、テツ君が厨房を仕切っている様子である。大将はマスクをして宅配サービスのお兄さんと何やら話していた。



「はい。そうですね、スマホで経路案内出来るんで大丈夫です」


「お皿の引き上げ等はどうすればいいんだい?」


「こちらの専用の容器でお願いできますか?」


「今朝頂いた分?」


「はい。100セットとりあえずご用意させて頂いたと思います」



 宅配用の容器について話していた。テレビで見た事がある。汁物の温度を下げない工夫をした専用容器の紹介についてだ。確かに、宅配サービスはあくまでも宅配であって、北京飯店の容器を回収するというのは業務内容にないはずだ。大将の性格からすると、無機質な使い捨て容器を使用するのには抵抗あるだろうが、こればかりはどうにもならない。容器だけ自分達で回収という訳にも行かないだろうから。



「はい。3時頃にまた営業の方から説明させて頂く事になっているので細かい事はその時にでも」




 本格的な宅配サービス営業は明日からだろうか──色々と問題がありそうだ。詳しくはないから全く分からない。



「何だかバタバタしてすいません」



 テツ君がカウンターの向こうからお水とお手拭きを出してくれた。何度も言うが、まだ大将とテツ君から話し掛けられた事は一度もない。今の『何だかバタバタしてすいません』はもちろんカウントされない。例えば、どんな感じだとカウント対象になるのか幾つか紹介しておこう。



『今日も暑いすね』は鉄板として、『兄弟は?』であるとか、『これ、定食用に作りすぎた副菜だけど食べる?』等々。『兄弟は?』は別にいいとして、とにかく何でもいいから話して欲しいと心の奥底から願っている。



「何しますか?」



 話したければ自分から話せばいいって思っている──思っているけど、どうにもこうにもいかないのである。



「また決まったらお願いします」


「あっ、いや、決まってます」


「何しましょ?」


「回鍋肉とライス」


「回鍋肉とライスですね」



 財布の中にある餃子のタダ券を使おうか迷ったが、今夜彼女の家に行くのにニンニクの匂いをプンプンさせている場合ではないと思ったので直前で踏み止まった。



「はっ、はい。それでお願いします」



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