表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
50/88

町中華の牛丼

 

 七月も後半に差し掛かり、梅雨が明けた。蝉時雨が響く真夏の幕開けである。よく夏バテで食欲がないとか聞くが、私は今まで生きてきて一度も夏バテとやらの経験がない。彼女は毎年この時期になると体重が三キロほど落ちるそうだ。夜ご飯が食べられないとこの間も会った時に話していた。あっさりとしたソーメンであるとか、お茶漬けぐらいしか胃が受けつけないらしい。私はとう言うと、食べ過ぎに気をつけないといけないぐらい食欲旺盛だ。少しセーブが必要なぐらいではあるが、いつもの時間に北京飯店に到着した。



「いらっしゃい!」



 大将が紫色のバンダナを巻いている。初めて見る色だった。そして、首にハンドタオルを掛けていた。この季節、厨房の中にずっといる訳だから汗の量も半端ないのだろう。



「何しましょう?」



 いつもの席に腰掛けて、テツ君からお水とお手拭きを受けとった。大量に汗をかいたので、濃い料理を身体が欲していた。ライスと味噌バターチャーシューにしようと思ったが、全メニュー制覇を掲げているので、まだ注文した事のないメニューを探した。



『牛丼を注文してみるか』



 前から気になっていたメニューだ。これとハンバーグ定食はずっと気になっている。



「すいません、牛丼出来ます?」


「はいよ! 牛丼ですっ!」


「はいよ!」



 まさかとは思うが、某有名チェーン店のあの牛丼が登場するのではないかと思ったが、流石に中華風の牛丼だろうと踏んでいる。そもそも、中華屋に牛丼があるのが不思議である。さらに、ハンバーグ定食とかもう意味が分からない。上海楼の若きイケメン大将が、『常連さんのリクエストでどんどんメニューが増えた』と言っていた事を思い出した。私も十分に常連だと自負しているが、北京飯店側がそれを認めてくれているかは分からない──。



 常連かどうかの線引きは何のか──承認制じゃないから、大将に聞かない限り一生分かる事はないだろう。『あの、私は常連でしょうか?』とか完全に狂った質問である。それが聞けるなら、真の常連と言えなくもない。いや、人としておかしい。



 仮に、『大将、今度ピザ作って』とか言ったら、常連の場合は作ってくれたりするのだろうか──。さすがにピザは無理だろうが、ドリアとかだったら作ってくれそうな気がする。



 もはや、洋食屋に行ってドリアを食べる気などさらさらない。大将の作るそれらを食べたいのだ。



「テツ、蕎麦はもう完売だから断ってくれよ」


「はい。大将、明日も完売すよ」


「そうだな。限定の個数を増やすか」


「駄目ですよ。身体が参ってしまいますよ」


「とにかく、今日一日お前が厨房に入れ」


「えっ! 無理っす」


「無理でもやれ。ちょっと限定数を倍にするから」


「……」


「大丈夫だ。信じろ」


「はっはいっ!」



 とても熱い話しに立ち会えた。ただの盗み聞きではあるが。そうなると、今日の“牛丼”はテツ君が作ってくれるという事か──。何度かテツ君が作っているのを見た事はある。炒飯と炒め物しか見た事はないが。厨房、出前とテツ君はフル回転になってしまう。余計なお世話かもしれないが、宅配サービスを導入しないと、いよいよお店の回転がやばい事になるのではないかと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ