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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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夏の味噌バターチャーシュー

 

「いらっしゃい!」



 いつもの時間にいつもの席に座った。店内はクーラーが効いているが、換気の為、入り口は全開である。



 私は迷っていた。今年一番と言っていいほど迷っていた。例の上海楼の件だ。『お弟子さんのお店に行って来ました』と軽く話せるかどうか──。



『大将によろしくお伝えください』



 上海楼の若き大将は私にそう言ったが、一度もまともに話したが事ないのにいきなりそんな事を言えるはずがない。



『大将は基本的にシャイなんで、自分から話し掛ける事はないと思います』



 そんな事も言っていたが、私自信もシャイな場合はどうすればいいのか──。勇気を出して話し掛けてみようと思うが、なかなか踏ん切りがつかない。



「何しましょう?」



 テツ君がお水を持ってきてくれた。店内は私しかいない。出前の電話も今のところ鳴っていない。



「すいません。もうちょっと……」


「はいよ」



 注文するメニューは決めてきた。テツ君からオーダーを聞かれる事が基本的に多い。大将に直接オーダーする時もあれば、大将に聞かれる事もある。後者ならスムーズに会話が出来そうだが、今日はそうじゃないパターンの日である。テツ君にオーダーして、大将に上海楼の事を話すパターンはさらにハードルが高いと言える。



「すいません」



 私はテツ君に見えるように手を挙げた。



「はいよ。何しましょう?」



 テツ君にオーダーを取ってもらおうと思って手を挙げたのに、厨房で忙しそうにしていた大将が足早に私の席の前まで来てくれた。



「あっあの、そっその、味噌チャーシューで」


「はいよ。バターどうしましょう? 無料ですけど」


「あっ、はい。お願いします」


「味噌バターチャーシューっ!」


「はいよ」



 奥にいたテツ君が、慌てて出てきて大きな掛け声を出した。いきなり大将とのやりとりに切り替わり、心の準備も出来ていなかったから何も言えずに終わってしまった。情けない話しである。別に悪い事をする訳でもないし、悪い報告をする訳でもない。単なる日常会話のはずだが、どうしても話す事が出来ない。上海楼のイケメン大将曰く、全く怖い人ではなくむしろ優しい人柄だと言っていた。



『また今度にしよう……』



 別に今日絶対に言わなければいけないというルールなどない。かなり強めのストレスを感じてしまっているのでまたの機会にしよう。出来れば、彼女と来た時にでも。そして、気になっていた“厚揚げ”を注文する事を忘れてしまった。それもまたの機会だ。




 味噌チャーシュー麺──以前から気になっていた。五目そばは食べた事があるが、このシンプルラーメンシリーズはまだ手を出した事がない。一度、日替わり定食でラーメンとご飯と蟹玉という日があって、その時にラーメンを食べた事はある。そのラーメンは、塩ラーメンだった。チャーシューが一枚と、春菊、白髪ネギ、メンマが具材であった。黄色の卵麺は共通で、飽きのこないとても美味しいラーメンだった。今回、味噌チャーシューにチャレンジするが、バターが付いてくるとは思わなかった。メニュー表にも記載されていない。裏メニューかと一瞬思ったが、バタートッピング無料という事で食べてみようと思う。実はこの味噌バターチャーシューは一度も食べた事がない。一体どんな味なのか楽しみである。




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