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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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4

 

「凄っ!」



 黒い角皿に中華丼、黒い丸皿に炒飯──気のせいだろうか、中華丼の野菜が鮮やかに見えた。



「何か野菜が綺麗に見えるんだけど気のせいかな?」


「黒いお皿だから映えるんじゃない?」


「そういうもんなの?」


「分かんないけど」



 私はスマホを取り出して写真を撮った。僅かなフォロワーしかいないがSNSに投稿する為だ。



「こんな感じ」


「私入ってるけどいいの?」


「じゃあ、これは自分用にする」



 私は、もう一枚中華丼と炒飯だけを撮った。なかなか街中華で黒いお皿を使う店に入った事がなかったし、料理が凄く綺麗に見えたからこれは撮っておかないといけないと思った。



「すいません。黒烏龍茶とザーサイです」


「えっ……」



 先程タブレットで値段を確認したが、中華丼が800円、炒飯が720円、よだれどりが900円だった。北京飯店のほうが安いなと思っていたが、黒烏龍茶とザーサイが付いてきた。これで800円は凄いコスパではないのか──。



「炒飯にも付いているんだね。ご飯ものには付いてくるのかな?」


「そう見たいね。前もそういえば付いていたような……」


「でもさ、黒烏龍茶ってのが笑える。お店の色に統一してるのかな」


「それもあるし、黒烏龍茶ってなかなか優れものなのよ」



 この歳になるまで、黒烏龍茶を飲んだ事がなかった。存在は知っていたが、割高なイメージがあるから手を出さなかった。彼女が言うには、食事とともに飲む事で、脂肪の吸収を抑えて排出を増加させ、体脂肪がつきにくくなるらしい。



「かなりの優れものだな。後で飲んでみよう」



 私は中華丼をの具材を確認した。白菜や人参、豚肉等は基本として、目に付いたのは、ブロッコリーだ。あと、何だか分からない濃い灰色の塊がゴロゴロしている。



「いただきます」


「いただきます!」



 彼女の炒飯も気になるが、まずは中華丼の味だ。私は、その何だか分からない塊を口の中に入れた。



「うっ美味い!」



 これは砂ずりだ。そうではないかと思ったが、まさか中華丼の具材として使うとは。上海楼、恐るべしである。



「砂ずりが入ってたよ」


「それ、砂ずりなの? この間食べた時、何だろうなって思ってたの」



 焼き鳥屋でも砂ずりは絶対に外せない。いつもは塩で食べるが、中華丼の餡が絡んだ砂ずりは絶品である。そして、もう一つ気になる食材がある。私はその白くて薄っぺらい何かをレンゲで掬った。



「こっこれは」



 その正体はエリンギだった。たまにバターソテーにして食べるが、食感が堪らない。シャキシャキと歯切れの良い感じが癖になる。



「どう?」


「どうもこうもないでしょ。美味いし、変な言い方だけど楽しいよ」


「楽しいの? 相変わらず面白い人ね」



 “楽しい”という表現で間違いない。色んな食感がこの一皿に凝縮されている。まだ、ご飯に到達していない段階でここまで心を掴まれるとは想像していなかった。心の中で、北京飯店の圧勝だろうと思っていたからだ。



「ここって芸能人とか来るんだって。雑誌とかにも取り上げられてたわ」


「そうなんだ。その割にサイン色紙とか飾ってないね」


「そういうの嫌いみたいよ。雑誌に書いてたわ」

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