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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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2

 

『……ん』



 PM・5時──スマホで設定した目覚ましが鳴った。音量を小さめにしていたが、耳元に置いていたので直ぐに気づいた。隣で寝ていた彼女も目を擦りながらこちらを見ていた。



「……時間?」


「そうだね。もう5時だ」



 窓の外はまだまだ明るい。私は洗面所に向かい寝癖を直した。



「相変わらず寝起きがいいわね」


「5時半には出ようか」


「そうね。私も準備するわ」



 私は彼女が化粧直しをしている間、マグカップを洗った。



「いいのに。後でやるから」


「これぐらいは余裕ですよ」



 彼女の住むマンションから駅までは歩いて20分はある。微妙な距離ではあるが、ピザを食べて寝ただけなので、運動がてらに歩いて行く事にした。



「いつも自転車だから、駅まで歩くの久しぶり」


「そうなんだ。結構遠いもんね」


「ウオーキング再開しようと思ってたから丁度いいかも」


 実は、私もウオーキングをしていたがサボり癖が付いてしまい、ここ数ヶ月はやっていなかった。一人だとなかなか持続するのが難しい。私の場合は仕事でかなり動くので、あえてウオーキングしなくてもいいだろうと思ってしまう。それが、長続きしない大きな理由だと思っている。彼女と二人なら続きそうだがそういう訳にもいかないだろう。



「一緒に歩いてた続きそうよね。一人だとやっぱり難しいわ」


「同じ事考えていたよ。なかなか一人だとね」



 ウオーキングコースを設定して歩いていたが、毎回同じコースを歩いていると飽きてしまう。マスクをしながらだと息苦しくなるけどしない訳にはいかない。そこまでして歩かないといけないのかと言いたくなるが、早朝や夕方はそんな人で溢れているのだ。



「マスクしながらだと苦しいよね」


「そうなの。サングラスなんかしちゃうと曇って見えないし」


「サングラスかけてるんだ」


「ご近所さんに悟れたくなくて」


「色々大変なんだな」


「ほんと。あっ、着いたわ。ここよ」



 彼女の住む街は、私の住む街とは違い何処か上品である。駅前もお洒落な店が並んでいて、自分の最寄り駅とは比較にならないと感じた。



「ここ?」


「そう。いい感じでしょ?」


「町中華だよね?」


 彼女が足を止めて指差したお店は、とても中華屋さんには見えなかった。大人が通うお洒落なバーといったところか──。黒を基調とした外観、看板等はなく、金色で書かれたローマ字の屋号が只者ではない感を醸し出している。



「入りましょう。時短営業みたいだから」


「わっわかった」



 彼女に連れられて店の中に入った。L字カウンターに10席、テーブル席が三つだ。店内は赤と黒のクラッシックモダンな雰囲気である。油臭さや、メニューを壁等にベタベタと貼り付けているとかは一切なく、何処かの占いの館に来たような感覚だ。



「いらっしゃいませ。カウンターにどうぞ」



 店員もお洒落である。黒い割烹着を着た今時の若者が、店の一番奥のカウンターに案内してくれた。



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