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「ありがとうございます」
メモしていたら目の前に麻婆丼登場。一目見てこれは好きなタイプだと思った。まず色合いだ。本格的な麻婆豆腐はちょっと黒っぽい感じで、山椒系がすごくふりかかっているイメージを持っている。間違っていたらすいません。私が好きなのは、黒というより赤っぽい麻婆豆腐である。そして刻みネギが上に乗っていたらもうそれはど真ん中の麻婆豆腐だ。この北京飯店の麻婆丼は、何回も思った事だが、私の好みを知っているのかと言わんばかりにそのど真ん中を突いてくる。まさに求めていた麻婆丼だ。
私は水色のレンゲを手に取って、麻婆丼の餡だけを掬った。
『うっ美味い! 美味すぎる』
豆腐は木綿豆腐ではなく、調理するのには難易度が高いと勝手に思っている絹ごし豆腐だ。木綿豆腐は硬いから崩れにくいけど、絹ごし豆腐はちょっと乱暴に扱うとすぐ崩れてしまう。自宅で豆腐の味噌汁を作る時も、お味噌を混ぜる時によく崩したりしてしまう。ところが、この麻婆丼は全くそういったものが見えない。賽の目に切られた絹ごし豆腐が、そのままの形で盛られている。そして、肝心の味だが、バッチリ私の好みである。独特の香辛料の香りも少なく、食べやすい。そして、いつものようにレンゲが止まらない。
餡に挽肉が絡んである。それも、とてつもない量の挽肉だ。そして、後から押し寄せてくる辛味がまた食欲を煽る。その辛味も絶妙な塩梅である。熱くて辛い麻婆丼、食べ進んでいくと汗が吹き出してきた。それでもレンゲは止まらない。いや、止められないのだ。お水をがぶ飲みして、またレンゲで麻婆丼を掬う。そしてチョレギサラダでさっぱりしてまた麻婆丼。丼が空になるまで繰り返される無限ループ。市販の麻婆豆腐の素に似ているが決定的に違う。動画サイトの元プロ野球選手のような上手い例えは出来ないけれど、敢えて言うとしたら、紙飛行機と飛行機ぐらいの差はあるだろう。
美味しいものを食べたりすると彼女の顔を直ぐに思い浮かぶ。彼女にも食べさせてあげたいと思ったりするのだ。この麻婆丼も彼女は絶対に好きな味だと思う。一人でも十分に美味しいが、二人ならもっと美味しい。
苦しい事や悲しい事を共有出来る存在がいる──生きていく上でこれほど心強い事はないだろう。そして、今回もあっという間に完食。決して自宅では出来そうで出来ない味を堪能した。
今日も心から言いたい。
『ありがとう、北京飯店。汗だくだけれど』




