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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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 チョレギサラダ──サニーレタスと山芋の短冊切りの上にもみ海苔が山盛り乗っかっていて、ごま油の効いた醤油ベースのタレが食欲をそそる。



 これは果たして麻婆丼に付いているサラダなのか──もともと、麻婆丼にはサラダが付いていて、それが新作のチョレギサラダであっただけなのか、或いは、常連と認めてくれて、そのサービスとして新作のサラダを出してくれたのかどっちなんだろう──。うだうだ考えてないで聞けばいいだけの話しだが、それが出来れば苦労はしない。小学校の時に好きだった女の子がいて、『帰る方角一緒だよね』って言われた時、『そうだよね』で、終わってしまったあの頃の私と何ら変わっていない。



『これってサービスすか?』って聞けばいいだけなのに、その一言がなかなか言い出せない。あの時も、『一緒に帰らない?』って言って欲しそうな顔をしていた彼女と大将がダブった。大将は話し掛けて欲しそうではないが。そう言えば、付き合っている彼女にも言われた。『あなたから話しかけてくれるのを待っていたけど、今日声を掛けてくれなかったらこっちから掛けよう』と。その日に何とか僕から声を掛けたが、今でもその事についてネチネチと言われる事がある。




 とりあえず、山芋の短冊を箸で掴み口の中に入れた。



『美味いっ!』



 シャキッとした歯触りとネバネバ感、この相反する食感を楽しめる食材って少ない気がする。そして、もみ海苔が良い仕事をしている。サラダの上にもみ海苔なんて誰が考えたか知らないが、本当に天才なんじゃないかと思う。単品でも十分な存在感の一品だ。自宅でも作れそうな気がするが、そうはいかない。このタレがやはりプロの仕事だと思う。サニーレタスや山芋はスーパーでお金を払えば手に入るが、この醤油ベースのタレは絶対に真似が出来ない。仮に大将がレシピを教えてくれたとしても、全く同じ味を再現する事は出来ないだろう。それほど、プロとそこそこ自炊しますレベルの所謂素人では差がある。以前ある動画サイトで、元プロ野球選手がプロとアマの差を分かりやすく説明していた。



『免許取り立てとF1ドライバーぐらいの差はある』



 私はプロ野球が好きでよく見ているが、やはりそれほどの差がアマとプロにはあるんだなと、妙に納得した事を覚えている。だが、このサラダは何とか作ってみたいと思った。彼女にうるさく言われて野菜を無理矢理摂取しようと努力はしているが、絶望的にレパートリーが少ない。このチョレギサラダ、タレ以外は野菜を切るだけだし、最悪ポン酢にごま油を混ぜたもので代用すれば何とかなりそうだ。



 私は、他に何か味の秘密になっているものはないかチョレギサラダをまじまじと見た。



『すりごまと鷹の爪、あと、ナッツの薄切りみたいなやつだな』



 私はそれを箸で掴み口の中に入れた。




『こっこれは……』



 薄くスライスしたニンニクを素揚げしたニンニクチップだ。これがあとを引く味の正体ではないのか。おかずとしても成り立ってしまうほどのパンチ力はこの素材の働きではないのか。私は、スマホを取り出して、メモ帳に自分なりの解釈でレシピを書いた。



「はいよっ! 麻婆丼ね」



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