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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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熱辛麻婆

 

 九州、沖縄地方が梅雨明け宣言──関東地区も梅雨の中休みで暑い日が続いている。今日は朝から五件ほどハイツ等の清掃をした。五件目の鉄筋コンクリート六世帯の物件で、『暑い中ご苦労様』と声を掛けてもらい、アイスモナカを頂いた。北京飯店までの道中、車の中で食べた。真ん中に板チョコが挟んであるアイスモナカだ。私は甘いものが大好きで、汗をかいて疲れた身体に染み込んでいった。



「いらっしゃい!」



 いつもの時間に到着──テツ君と大将の声が店内に響いた。



「何しましょ?」



 テツ君がお水を持って来てくれた。今日は何を注文するか事前に決めてきたが、一応メニュー表を見た。



「すいません。麻婆丼で」


「はいよ。麻婆丼です」


「麻婆丼ね」



 メニュー表を戻して、置いてあるアルコールスプレーで手を消毒した。



「テツ、今日はもう出前の分の蕎麦はないぞ」


「はい。予約でなくなりましたもんね」


「限定20にしようかと思ってる」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないがな。しかし、こんなに好評とは思わなかった」


「何かお手伝いがあれば」


「いや、蕎麦は無理だろう。蕎麦の注文の時はメイン頼む」


「はいっ!」



 あのお蕎麦、かなりの売れ行きらしい。それもそのはずだ。一度食べたら忘れらないお蕎麦である。しかも、町中華でそれを食べられる訳だし値段が安すぎる。あの感動が再び甦ってきたが、今日はまた新たな伝説の予感に期待したい。



 麻婆豆腐──子供の頃に、母が豆腐と市販の麻婆豆腐の素で作ってくれた味が今でも最高のものと思っている。思い出が三割増しで味に反映されているかもしれないが、所謂、なんて事ない麻婆豆腐を求めていた。このなんて事ない味っていうのがなかなかあるようでない。自分で作ったりもするが、あの母の味には遠く及ばない。以前に高級中華料理店で麻婆豆腐を注文したが、欲しかった味ではなかった。確かに美味かったが、独特の香りと行き過ぎた辛味のせいで、私の知るそれとは全く別物に感じたのだ。大将の事だから市販の素を使ったりはしないだろうから、ある程度本格的なものになるんじゃないかと想像している。どちらかかと言えば、家庭の麻婆豆腐を希望だが、北京飯店もプロである。そっちの期待はしないほうが良いだろう。



 麻婆豆腐の香り───高級中華で食べた時は、花椒というスパイスがふんだんに入っていた気がする。これが私はあまり得意ではない。出来れば、普通の山椒で十分だ。もっと言うと、別にその類いはなくても良いと思っている。好きな人は山盛りふりかければよいが、私はどうやら本格的な味にならないようにしたいんだろう。子供の頃食べた麻婆豆腐を理想としているのだから。



「はい、これ新作なんだけど食べて」


「えっ? あっありがとうございます」



 出されたのは、もみ海苔が上にかかったサラダのようなものだった。


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