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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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ソース派? 醤油派?

 

 例年よりも早く梅雨入りが発表された関東地方──ジメジメとした嫌な季節だ。よく雨の日は憂鬱になるとか聞くけど、私もそのうちの一人だ。ここで、雨にまつわるエピソードを一つ紹介したい。



『私が、洗車ワックスをかけた次の日は必ず雨が降る』



 必ずとは少し言い過ぎではあるがかなりの確率で雨だ。週間天気予報をスマホやニュースで確認しても、天気は雨に変わってしまっている事が多い。




「いらっしゃい!」



 小雨のパラつく中、今日も北京飯店に来た。AM11時──いつもの入り口すぐの丸椅子に腰掛けた。



『今日は何にしようか』



 今日は金曜日だ。月、火、と北京飯店に食べに来た。水曜日は定休日なので、体感的にはほぼ毎日来ているような錯覚に陥っている。だが、自分自身がここの味を求めて来ているのでそれはそれでいい。



 私はメニュー表をいつものように手に取った。最近は、来る前に何を注文するか決めていたが、今日は完全にノープランである。結構食べ尽くしたと思っていたが、改めてメニュー表を見るとまだまだ

 魅力的な中華料理が名を連ねている。



「焼きそば650円……」



 そう言えば、まだ北京飯店の焼きそばを食べていなかった。



 町中華の焼きそばは、醤油味のイメージである。胡麻油が効いてとても美味しい。普段、自宅で作る時はソースで作り、最後にマヨネーズをかけたりして食べている。この間、本当に小さな発見だが、炒めている時に間違えて、ソースの後にマヨネーズを入れてしまい、一緒に絡めてしまったが、これがなんと某食品メーカーの即席焼きそばの味に酷似していた。これから自分で作る時はその作り方にしようと思ったほど美味しかった。



『ん?』



 メニュー表をよく見ると、『ソース味にも出来ます』と書かれている。この所謂両刀パターンは少ないと言っていいのではないか。大体、町中華の焼きそばは醤油と決まっていて、選択の余地などない店がほとんどのはずだ。



『ソースか……。気になるな』



 醤油味は大体想像つくが、北京飯店のソース味の焼きそばが無性に食べたくなった。醤油味も大将の事だから、私の想像を軽く超えてはくるだろうが、町中華でのソース焼きそばは私にとって未知の領域である。醤油は次にして、ソース味の焼きそばに決めた。



「すいません、焼きそばのソースで」


「はいよっ!」



 焼きそばには色んな思い出がある。昔、私の住む街の行事で、“9”の日は縁日の日と決められていて、駅前の短い商店街に夜店が所狭しと出店していた。6月から10月の期間限定だったが、子供の頃、よく両親に連れて行ってもらった。その時に決まって買ってもらっていたのが、焼きそばと林檎飴だった。唇や舌を真っ赤にしながら舐めた林檎飴、少しソースの薄い焼きそば、当たった事のないくじ引き等、子供心に“9”のつく日は楽しみで仕方なかった。



 学生時代は、キャンプ等でバーベキューをして、汗だくになりながら焼きそばを焼いた。8人前の焼きそばだから、野菜を炒めるだけでも重くてどうしようもなかった。プロではないから、ソースの混ざりもまばらだったけど、仲間と過ごしたあの頃の時間は今でもこうして思い出したりする。



「はいよ! ソース焼きそばね」



「……。マジですか」




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