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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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 北京飯店でざる蕎麦を注文すると決めてから、色々と検索して調べてみた。まず最初に蕎麦の起源についてだ。



 江戸時代初期に、東京は深川にある“伊勢屋”が、竹ざるに蕎麦を盛って出していたので、『ざるそば』と名付けられたそうだ。あと、『もりそば』というものもある。以前、何処かの蕎麦屋で注文した時に疑問に感じた事が蘇ってきたから、ついでに調べてみた。



 どうやら、『かけそば』と区別する為に『もりそば』が生まれたらしい。そののち、皿ではなく、ざるに乗せて提供するようになり、『ざるそば』と呼ぶようになったと記されていた。現在は、せいろのようにお皿に乗って出てくるお店も多いらしい。呼び名は『ざるそば』として。




「はいよ。これ蕎麦つゆね。それと、これは薬味」




 白い器に藍色で竹の図柄が入っていて、その中には黒いつゆが半分ぐらい入ってある。この器にもちゃんと呼び名があり、『そばちょこ』という。そして、黒い長方形の小さな器には、長ねぎの小口切り、わさび、みょうがが添えられていた。



『みょうがか……』



 少しくせのあるこの“みょうが”──子供の頃は苦手だったが、今はとても好きな野菜だ。野菜と言っていいのか、私としては薬味という位置付けだ。昔、家ご飯で天ぷらの日は、このみょうがが薬味としてではなく、天ぷらの具材として食卓にあがっていた。私は、このみょうがの天ぷらが苦手でほとんど食べなかった。そして大人になり、鰹のタタキの薬味として食べた時にみょうがの美味しさに気づいて、今では自宅でそうめんを湯がく時は、ネギはもちろんの事、このみょうがも添えるようにしている。




「はいよ。ざる蕎麦とおにぎりね」




 私は、ざる蕎麦よりもおにぎりに目が釘付けになってしまった。想像では、三角おにぎりで海苔が巻いてあるベタな感じ。だが、出てきたおにぎりは違った。取り皿に使用しているであろうシンプルな丸い白の器に、黒い球体のおにぎりが今にも転がりそうな勢いで乗っかっている。大きさは、野球の硬球よりも少し大きいサイズ。表面は海苔で綺麗にコーティングされている。ありそうで滅多に見かけないタイプと言っていい。こんなに綺麗な丸いおにぎりは見た事がない。



『この中に小さな梅干し一つだけだったらウケるな』



 そして、メインのざる蕎麦だ。麺皿は木製で、底板、竹のすだれの上に灰色の蕎麦が盛られている。メニュー表には“二八そば”と表記されていた。この二八蕎麦とは、蕎麦粉8に対して小麦粉2の割合で仕立てられたものだ。蕎麦粉にはグルテンが含まれていないので、綺麗にくっつかず、粉同士がバラバラになってしまうから、つなぎとして小麦粉を混ぜるそうだ。



『しかし、見た事のない色艶だな』



 艶々の蕎麦の上にこぼれ落ちんばかりのもみ海苔が乗っている。この海苔がまた美味い。私は海苔とつく物は全て好きだ。そんなに存在しないかもしれないが、例えば、ポテチも海苔味が好きだし、お好み焼きにも表面が緑になるぐらい青海苔を振りかける。このざる蕎麦も、もみ海苔をケチってないところが見た目的にもドストライクである。

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