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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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2

 

 私は彼女を失ってしまった時の事を想像してみた。子供を育てた事はないから、会えなくなるのは想像つかないが、もしも、彼女と別れるような事があったら、死んだりする事はないだろうけど、ほぼ死んだも同然の状態になるだろう。そうなる自信はかなりある。彼とは違う人間だから、どんな精神状態なのか細かく測る事は出来ないが、かなり苦しいはずだ。何もしてやれないだろうけど、100%聞き手に徹しようと思った。



「はい、お待ち!」



 目の前に、岩のような唐揚げが五つも銀色のお皿に盛られていた。昭和の香りがする小判皿だ。不思議と、この小判皿に出会うとテンションが上がる。彼には申し訳ないが、このビジュアルを見てしまったらどうしようもない。



 何故、唐揚げ定食だけこのお皿なのか──日替わり定食や、ニラ豚定食は、仕出しのお弁当みたいなものに入っているのに。おそらく、入り切らないからだろうと思った。巨大な唐揚げが5つも収まりきらないだろう。一つ一つが岩みたいで、岩山みたいになっている。そして、千切りキャベツとポテトサラダ。レモンはくし形に切られており、そんなにいらないというぐらいレモン汁が絞れそうだ。



「はい、どうぞ」


「はっはい」



 テツ君が、小鉢二つと例の小さなスープを持ってきてくれた。



『食べきれないだろう……』



 六角形で藍色の小鉢には、小松菜としめじの胡麻和え、四角形で白い小鉢には、イカのマリネが盛られている。そして、いつものスープ。これで、750円は完全に壊れている。



「はいよ」


「あっ、どうも」



 所狭しと置かれた品々。まだコンプリートではなかった。大将が、“とどめ”とも言える杏仁豆腐を出してくれた。透明の小さな器に杏仁豆腐、そして、クコの実が盛り付けられている。



『何故、唐揚げ定食だけ……』



 日替わり定食には付いてこないデザート。唐揚げ定食だけ特別なのだろうか──。それとも、常連とみなしてくれてのサービス品か。いずれにしても、食べきれる自信がない。とてつもない量だ。白飯は、お茶碗に漫画盛りとまではいかないが、かなり詰まっているように見える。仮にサービスだとしたら、絶対に残す事はできない。たとえ胃薬の力を借りる事になっても。

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