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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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町中華のオムライス

 

 昨日は水曜日で北京飯店は休みだった。たった一日なのに恋しく仕方ない。私は、ドラッグストアに寄り、50枚入りのマスクを買って北京飯店に来た。ここ半年ぐらいそこそこ値段の高いマスクを洗って使っていたが、毛玉が目立つようになり、使い捨てのマスクに変えた。いっときは、本当にマスクが手に入らなくて困ったが、今は使い捨てでも様々なタイプが店頭に並んでいる。私は、今まで買った事のない黒マスクを装着して店内に入った。



「いらっしゃい!」



 まだ他のお客さんはいなかった。一番乗りである。



「何しましょ?」



 今日は、ずっと気になっていたあれを注文すると決めていたけど、一応メニューを見て悩んでいる感を出した。



「……。オムライスください」


「オムライス一丁!」


「はいよ!」



 メニューにオムライス700円と書かれている。喫茶店や、専門店以外でオムライスを食べるのは始めてだ。そもそも、何故中華屋さんに洋食の定番であるオムライスがあるのかが分からなかった。必ずってほどではないけど、オムライスを提供する町中華は多い。あと、この北京飯店には、牛丼とカツ丼もある。牛丼も某チェーン店以外で食べたこはないし、カツ丼も蕎麦屋さんか某チェーン店でしか食べた事はない。大将の事だから期待を裏切る事はないだろう。とんでもなく美味いものが出てくるに違いない。



 この北京飯店には、メニュー表と、壁に黄色のプレートが貼ってあり、そこにメニュー一覧が書かれている。季節のメニュー、例えば冷麺等は、時期になると、空いてる壁のスペースに手書きで色紙を貼り付けるだけ。つまり、写真等でどんなものかを確認する事は出来ない。所謂、ジャケ買いすらままならない状況だ。ハズレはないから安心ではあるが、このオムライスだけはほんの少しだけだが、どうだろうって思っている。不味いものは絶対に出てこないだろうが、このオムライスも好みが分かれる料理だ。ふわとろの卵にデミグラスか、少し硬めに仕上げた卵にケチャップか。私は、断然後者で、ラグビーボール型であればパーフェクトだ。中の具材には全く興味はない。ビジュアルがそれであるなら、何の文句もない。



「ケチャップあるか?」


「はい。昨日、買っておいたので」



 私は、テーブルの下で小さくガッツポーズをした。これで、少なくともデミグラスではない事は確定した。別にデミグラスが嫌いな訳ではない。むしろ好きな方だ。だが、この北京飯店はハンバーグ定食もメニューにある。この店では破格の950円である。しかも、メニュー表には、「デミグラス」と表記されている。市販のものなのか、あるいは、大将が作っているのかは分からないが、ハンバーグ定食だけにデミグラスを使うとは考えにくかった。だが、大将の「ケチャップあるか?」の一言で胸を撫で下ろした。それほど、デミグラスよりただの何の変哲もないケチャップがいいのだ。



 私はグラスのお水を半分ほど飲み干して、奥にある本棚の上に置かれたテレビを見た。関東ローカルの情報番組だ。一発屋の懐かしい芸人が、町をぶらぶらするコーナーである。私は、このゆるい感じが結構好きだ。そして、それを無の境地で見ていたら、ふとある事に気がついた。



『ご飯にケチャップで、上からかけるのがデミグラスのパターンもある!』



 いや、落ち着いた方がいい。中のご飯がケチャップで、ソースがデミグラスのオムライスとか食べた事がない気がする。中のご飯がバターライスで、ソースがデミグラスは何度か食べた事はあるが。



 いずれにしても、私に出来る事は、ただ待つだけである。








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