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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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2

 

「戸棚の奥にワイングラスあったろ?」


「はい」


「それ使えよ」



 紅茶にワイングラス、もう正気の沙汰じゃない。だんだん楽しくはなってきたけど、大将もテツ君も普通の男である事が分かって少しホッコリした。



「はいよ。ラーメンと炒飯」


「凄い! 待って待って! 撮るから」



 彼女達の前に、ラーメンと炒飯がドンと置かれて、紅茶の入ったワイングラスが手渡された。その妙過ぎる組み合わせをスマホで写真を撮ったいた。



「もう“いいね”付いたんだけど。早くない?」



 確かに早い。秒である。私も何を隠そう、某SNSをやっているが、そんな早くに“いいね”が付いた事はない。そう言えば、北京飯店の中華丼や五目そば、彼女と食べた餃子と炒飯をアップすれば良かったと彼女達を見て思った。おそらく、リアルに12個ぐらいしか“いいね”は頂けないであろうが──。



「お嬢ちゃん達、こちらにはどんな用事で?」



 大将が中華鍋を振りながら彼女達に問いかけていた。ごもっともな質問。私もそれを聞きたい。



「この先に神社あるじゃないですか?」


「あるね。最近よく人が出入りするよ。昔なんて誰も来ない寂れた神社だったのに」


「スタンプとキラリちゃんのお守りが欲しくて」



 大将が黙り込んでしまった。おそらく、全然分からないからだろう。私も全く分からない。



「聖地だよね。今流行ってる漫画の」


「そうなんです。誰推しですか?」


「娘がトンボ君が好きで」


「マジですかっ! トンボ君いいですよね。飛べないけど」



 全く分からない。飛べないトンボを推すとか全然分からないが、それより何よりテツ君が結婚していて娘もいた事に驚いた。世間では、40も半ばまできて独身でいる私の方が驚きかもしれない。いや、この間の同窓会で、親友だった奴も独身って言っていた。私はそれを心の拠り所にしている。一人じゃないんだと。



 彼女達は何枚か写真を撮った後、凄い勢いで炒飯とラーメンを食べ始めていた。町中華によくある半ちゃんセット的なものではなく、所謂“全ちゃんセット”をだ。私でもお腹がはち切れそうになり、昼から眠くて仕事のならないぐらいの量である。



 そう言えば、この北京飯店には半炒飯なるものはメニューにない。ほとんどの店にある気もするが、メニュー表にも、壁に掛けられている黄色のメニュープレートにもそれは書かれてはいない。



「はいお待ち。日替わり定食ね」



 本日の日替わり定食──仕出しのお弁当箱に、ニラ豚、タコと胡瓜の酢の物、筍の天ぷら、ご飯、白菜のお漬物、塩昆布、マカロニサラダと盛り沢山だ。それに、炒飯を注文すると付いてくる小さなスープ付き。これで750円はなかなかのコスパである。



 私は、まずスープを飲んだ。塩ベースの透明なスープのそれは、誰もが愛してやまない味だろう。そして、ニラ豚を口の中に入れた。



『美味いっ! これなんだよっ!』



 ニンニクの効いた醤油風味の濃い味って最高にご飯に合う。豚バラ肉も中華丼同様、惜しげもなく入っており、ニラともやしの食感がこの料理を最後まで飽きさせないでいる。何度でも言おう。最高の味だ。



 続いては副菜だ──この北京飯店、副菜も最高に美味い。この筍の天ぷらがまた美味い。噛むと、口の中で和風の出汁の香りが広がる。大将の事だから、一仕事加えてあるのだろう。二つしか入っていないから、大事に食べようと思うほど優れた副菜だ。


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