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嗚呼、愛しの北京飯店  作者: 稲田心楽
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大好きな北京飯店

あなたの住む町にもきっとあるはずです。昔ながらの町中華。

子供の頃、両親と食べに行った思い出、昼ご飯に出前したラーメンと炒飯。


大人になってふらっと入った『北京飯店』。あの頃の思い出がフラッシュバックされ、もうこの空間から逃れられなくなっている自分に気付いた。


今日も愛すべき街中華の世界にどっぷりと浸る事にしよう。


そして、知らず知らずのうちに、あなたも明日の昼食の選択肢に街中華を加えているかもしれません。

 

 AM11時──今日も開店と同時にここに来てしまった。行列が出来るほどの人気店ではない。何処にでもあるような、ありふれた町中華だ。



 賑やかな駅前商店街から少し脇に入った所にあるこの『北京飯店』──昭和ノスタルジーな雰囲気がたまらなく好きだ。くすんだ黄色の屋号テント、赤い色で“北京飯店”と書かれているが、“京”の文字だけ明らかに薄く、夜なら見えないぐらいだ。だが、それもまた街中華ファンである私にとっては最高のスパイスである。



 私の名前は広瀬幸一郎。44歳。独身アラフォーではあるが、そこそこ人生を満喫している。仕事は、マンションやハイツの清掃業務。以前は2人で仕事をしていたが、相方が転職してしまい、社長から新しい人が決まるまで1人で仕事をしてくれと言われた。そう言われてからそろそろ3年が経つのだが──。



「いらっしゃい!」



 大将の少しハスキーな声が店内に響いた。今日も1番のりだ。赤いL字のカウンター、入り口から1番近い席に座った。暖簾も赤だし、椅子も赤、とにかく赤である。



「中華丼ください」


「はいよ!」



 注文を済ませて、置いてあったジェルタイプのアルコール洗浄で両手を消毒した。



 この店に通い始めて3年が経つ。ほぼ毎日来ている。私のお気に入りは中華丼だ。具沢山で、最後にとき卵で全体をコーティングしてあり、とてもまろやかで飽きのこない味になっている。



「おい! マヨネーズとかは使ったら冷蔵庫に入れろよ。厨房は常にスッキリしておかないと」


「すいません」



 大将ともう一人、茶髪の若者が厨房にいる。よく見ればそんなに若くはないが、私よりは確実に若い。おそらく弟子だろう。大将は60代前半ぐらいで、スキンヘッドにお洒落バンダナとこれまた絵に描いたようなビジュアルだ。



 私は、大将の目の前に置かれてあるポン酢の瓶が気になっていた。日替わり定食の副菜で使ったであろうそれは、置きっぱなしにせず、冷蔵庫に入れないといけないのではないかと──。



「おい、マヨネーズどこやった?」


「あっ、さっき冷蔵庫に入れましたが」


「……」



 突っ込み所満載ではあるが、私はこの北京飯店を心から愛している。今はただ、中華丼が出来上がるのを静かに待つことにしよう──。





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― 新着の感想 ―
[一言] 行きつけの店だとお気に入りの料理がありますね。 都立大学駅の10席くらいの街中華の「茄子と豚肉のみそ炒め」がお気に入りでした。 店がまだ健在なのでたまに食べにいきます。
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