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馬鹿につける薬はない
「お母さん…」
いつも通りの糸紡ぎの仕事から帰り、家の扉を開けた私は思わず声をこぼした。そこには病弱でいつも床に伏せている母の姿があった。つい昨日まで風邪をこじらせてまた熱を出して休んでいた母が、なぜ扉のすぐ側にいるのか。おそらく誰かしらの訪問があったのだろう。子供である私が仕事に出ていて自分が出なくてはと思ったのであろう。だが、私が声をこぼしたのはそんなことが理由では無い。
辺り一面に飛び散る赤黒い液体。一目で血液だとわかったのは変わり果てた母の姿が目に入ったからに他ならない。
右肩から左脇腹にかけての切られた跡。家具には何も変わりがなかったから、扉を開けた瞬間に切られたのだろう。
思わぬ出来事に遭遇すると異常なまでに頭が冴え渡ることを初めて知った。私は母の前に座り込み大声で泣き叫んだ。
ここはザ・トラッシュ。
帝国・リシェッスの端の端の、さらに端にある、大規模なスラム街である。




