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第6話 ケモミミ少女(俺)降臨す

 不意に目が覚めた。


 時刻は午前3時、起きるには早すぎる時間だ。


 何か夢を見ていたような気がする。


 だが、全く思い出すことができない。


 俺の経験の上では夢の内容を覚えていた時のほうが少ない。


 あの少女と出会った夢を覚えていたのは奇跡に近いことだった。

 

 そんなことよりも、頭を駆け巡る奇妙な感覚の方に俺は気を取られていた。


『今すぐに「そこ」に行かなければならない』


 何者かがそう俺に伝えている。


 どうやら聴覚を通さず、直接俺の脳内にに響いているようだ。


 最初は寝ぼけているのかとも思ったが、頬を叩いて意識を覚醒させてもまだ響いてくる。


 俺はその奇妙な感覚に戸惑(とまど)いつつも、その要因にすぐに気づいた。


 先生から貰った聖遺物の指輪だ。


 右手の人差し指につけた指輪は、微かに白く輝きながら立にもハッキリと知覚できる程のオーラを放っている。


 伊豆先生の言った通り、本当に俺は白狼に選ばれた存在なのかもしれない。


 流石に常識的に考えてありえないと思っていたが、ここまできたら腹を括るしかなさそうだ。


 少女の夢、ケレベの不思議な力、そしてオーラを放つ指輪。


 この世界には俺の常識を超えた力が存在するということは、もはや否定できない訳だし……。


 俺は急いで服を着替え、薄暗闇の中を「そこ」へと向かった。


 


 「そこ」は先生が暮らす教員寮の前だった。


 一見するとなんの変哲もない建物だ。


 だが、明らかに空気感が違う。


 禍々しさを感じるオーラがハッキリと感じられる。


 普通の人間にはほぼ間違いなく近くすることのできないものだが、今の俺には簡単に感じ取ることができる。


 恐らくこの指輪に不思議な力でも秘められているのだろう。


 

 俺はオーラが最も濃くなっている辺りに指輪をつけた右手をかざした。


 瞬間、空間に巨大な亀裂が走り、人一人入ることが出来る位の穴が空いた。


 穴からは吐き気がする程の邪悪なオーラが流れ出している。


 穴の先に行くのはヤバい。


 これはハッキリと判る。


 だが、俺の直感は穴に入ることを選択した。


 あるいは好奇心に負けたのか、指輪の力に逆らうことができなかったのかもしれない。


 


 穴の先には現実世界と同じような風景が広がっていた。


 だが、完全に一致してはいなかった。


 教員寮には巨大な亀裂が何筋も走り、ボロボロの状態だ。


 そして、その寮の前では露出の多い衣装を身にまとったネコミミ少女が巨大なハルバードを軽々と振り上げ「何か」に振りおろそうとしている。


 その「何か」は……伊豆先生だ。


 先生は地面に仰向けに倒れ、ピクリともしない。


「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は叫びながら少女に突進した。


 相手は普通の人間ではない、明らかにバケモノの類だ。


 生身の人間が突っ込んでいって敵う相手ではない。


 だが、そのようなことを考慮に入れる余裕など無かった。


 がむしゃらに突っ込んできた俺に、少女は一瞬心底驚いたような表情を浮かべた。


 が、すぐにハルバードの柄で俺をなぎ払った。


 俺は背中から勢いよく地面に激突した。


 全身が砕けるような痛みが走ったが、不思議と体に傷はなかった。


「この結界は普通の人間が入り込めるものじゃないニャ、お前は何者ニャ?」


 少女は俺にハルバードの穂先を向け、問うた。


「俺は……ただの落ちこぼれの留学生だ」


 俺は震える口で答えた。


「ふーん……、まともに答える気はニャイと?」


 少女はハァ……と溜息をつくと、ハルバードをなぎ払った。


 ヒュンという音ともに、俺の右足が宙を舞った。


 一瞬の間の後に切断面から血潮が溢れ出る。


「グギャアアアアアアアアアアアア」


 俺は堪らず叫んだ。


 想像を絶するような痛みに意識が飛びそうだ。


「ただの学生が天使を破るなんて不可能ニャ。正直に答えればお前とあの女の命くらいは助けてやるニャ。でも、ふざけた回答を続けるなら…、次は首だニャ」


 少女は俺の首筋にハルバードを突き付けて、ゾッとするほど冷たい声で言った。


 出血で意識が朦朧してきている。


 どうせ何を答えても殺される。

 

 指輪で強化された直感が現在の絶望的な状況を伝えてくれるを

 

 とびっきりふざけたことでも最期に言ってやるか。


「俺は狼の化身だ!」


 俺は力の限り叫んだ。


「チッ、ならここでバイバイだニャ。アイツも後で送ってやるから安心するニャ」


 そう言って少女は俺の首を刎ねた。



 

 刎ねた…はずだった。


 しかし俺の首が地面に落ちることは無かった。


 だが、青木立の姿もそこには無かった。


 そこに在るのは、白狼の耳と尾をもった少女。


 それが纏った凄まじく強大なオーラによってハルバードは弾き返された。




 俺、青木立はケモミミ少女になっていた。



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