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前編

 太陽すら覆い尽くす程の大きさの異形な海洋生物のような超巨大宇宙戦艦が太陽から地球へ顔を覗き込むような位置にいた。その宇宙戦艦の名は『サイコトロン』と言い、地球の生物で言うとマッコウクジラのような形をしていた。

「遂に見つけたぞ!」

 『サイコトロン』のメインブリッジの中央にある司令官席に座っている男は笑みを浮かべながら叫んだ。彼の名前は『マーダー・ワン』と言い、機械や有機体で出来た異形な姿をしていた。地球の生物で言えば、全身を鎧で固めたチョークバスという魚のような姿をしていた。

 そして、彼の他にもモニターや計器類等の前に座る者や通信を行っている者等数多くいた。彼らはマーダー・ワンによく似た姿をしており、この宇宙戦艦の兵士でもあり、住人でもある。マーダー・ワンを含めた彼らは自らのことを『メタル・ミリティア』と呼んでおり、三兆人程がこの戦艦に乗っている。

「この太陽こそが我々の『故郷』に相応しい……しかし! あの青い星があると我々には不都合だ! 知的生命体がいるかもしれない! 知能を持ち、軍事力を持つかもしれない! かつて我々の『故郷』が失ったのは知的生命体達との一万二千年にも渡るあの戦争が原因だった……我々は同じ轍は踏まない!」

 マーダー・ワンは目の前にあるホログラムで映した青白く映る球体、天の川銀河太陽系第三惑星、所謂『地球』を両手で握り潰そうとしたが彼の両手に青白い光が包むだけだった。すると、一人の男がマーダー・ワンに近づいてきた。彼は地球を調査していた大隊の隊長で地球の生物で言うとコブダイのような姿をしていた。

「報告します、収集したデータによりますと戦術兵器の性能は我々の百分の一程度でワープや超火力または超長距離ビーム兵器等開発に至っておらず、そして惑星改造技術がなく、あの星でしか生きられない下等な知的生命体しかいないとのことです」

 すると、それを聞いたマーダー・ワンは高笑いをした。

「ご苦労であった! ならば、一瞬にして星屑にしてやろうではないか、『モト・サイコ』を撃てぇ!」

 マーダー・ワンがそう叫ぶとメインブリッジは慌ただしくなり、サイレンが響いた。サイレンの音だけで一つの惑星が壊されそうなぐらいの大きさであった。

 マーダー・ワンが撃つように指示した兵器であるモト・サイコとはサイコトロンの最大の兵器であり、直径が木星程の大きさという超巨大な艦首砲である。その最大威力は太陽の十倍程の質量を持ったものすら破壊することが出来る。

「全艦に告ぐ! 全艦に告ぐ! 本艦はこれより、超長距離銀河光線戦術三百六十四号を発令する! 繰り返す! 本艦はこれより、超長距離銀河光線戦術三百六十四号を発令する! 各員持ち場につけ!」

 オペレーターがそう叫ぶと艦内は赤外線のランプと非常用の照明、モニターやレーダーの光が仄かに周りを照らすが他の光は消えてしまった。ブリッジは更に慌ただしくなり、様々な情報が交錯していく。居住ブロックやメインエンジン等モト・サイコを発射するのに必要なエネルギーを艦首砲に集めるため、電源を落とし、艦内の人間には対ショック用のシェルターへの誘導が始まっていた。

「第一ブロックから第七百七十七ブロックまで準備完了!」

「モト・サイコへのエネルギー充填開始しました!」

 すると、艦首砲に光が集まっていく。しかし、手際が悪く戦艦内は混乱していた。だがそれは無理もない話である。彼らは戦闘民族で様々な戦争を乗り越えてきたと言ってもモト・サイコを撃つのはこれで五度目でしかも前回撃ってから二十年以上の時間が空いているのだから……。

「モト・サイコを撃つ前は『AN』を出撃させろ! 周囲を監視させるんだ!」

 『AN』とは彼らの宇宙戦闘での主力宇宙戦闘機であり、地球の生物で言えば、トンボのような形をしていた。発進した機体は全て『ホワイト・ノイズ』と呼ばれ、文字通り白い機体であった。このANの武装はミサイルが全部で九発搭載されてあり、右翼の付根にはレーザー機関砲が搭載されていた。

「おい、一体何をしているんだ?」

「すぐにハッチを開けろ! 非常用のエネルギーは十分使えるんだ!」

 しばらくするとサイコトロンの右中央のハッチから無数の穴が開くと無数のANが飛び出した。すぐに辺りを覆う程の数になり、各自位置に着き始めようとしていた。状況を確認しながらオペレーターが指示を出す。

「第一ハッチから第五十ハッチを開けて八百万機のANが発進しました! 各機速やかに所定の位置に着き次第周りを警戒せよ!」

 オペレーターの言葉を聞いたマーダー・ワンは再び叫んだ。

「よし! ANの数はこれぐらいで良いだろう! モト・サイコの発射を急げ!」

 ハッチは閉じ、艦首砲の光がまた強くなっていった。

「エネルギー充填率一%到達!」

「第十一万四千五百十四ブロックまで準備完了しました!」

 引き続き、オペレーター達は絶えず送られてくる情報読み上げながらモニターに目をやり、更に耳から入る情報を取捨選択しながら該当するブロック等に指示を出していく。常人ならば、どこの誰が言っているか聞いているか分からなくなりそうだが、長年訓練や戦闘に参加していた彼らには容易いことであった。唯一苦手とすることが今撃とうとしているモト・サイコの発射準備ぐらいだ。

 着々と準備が進んでいく中でANのパイロットから通信が入った。

「こちら第六十九エリアAN第三十三小隊からメインブリッジへ! 三時の方向からこちらへ向かってくるものを発見!」

 それを聞いたブリッジ内に緊張が走るが冷静さは保たれていた。

「こちらメインブリッジから第六十九エリアAN第六十九小隊全機へ! それはすぐに撃ち落とせ! こちらに向かうものは全て攻撃せよ!」

 そうオペレーターから指示を出すとすぐに無数のANの右翼から光が発したと思ったら閃光が広がっていく。レーザー機銃が命中したようだった。

「先程のはなんだったんだ?」

「はい! どうやら、ただの隕石だったようです!」

 朗報ではあったのだが、メインブリッジ内では緊張感が漂ったままであった。百戦錬磨の彼らは正に『獅子は兎を狩るにも全力を尽くす』という言葉を体現しているようであった。またはメタル・ミリティアという戦闘民族とは得てして常に敵や戦場を侮らないとでも言うのが正しいのかもしれない。

「そうか! ではAN全機は引き続き警戒せよ! また、本艦に近づくものは各所属する隊の指示で行動し、破壊して構わない! つまり、本艦の対空防御はAN機にて行うものとする!」

 その後はサイコトロンに近づくものは隕石だろうとスペースデブリだろうと瞬く間にANの搭載されたレーザー機銃やミサイルにより撃ち落されていく。何時間か過ぎた頃には粗方無くなっていた。パイロットは休憩、交代、機体のエネルギーや弾薬の補給、体調不良等を訴える以外の理由でサイコトロンに着艦することはないぐらい精錬されており、一切被害はなく、モト・サイコの発射を待つばかりであった。

 それは緊張感で張り詰めた雰囲気であったメインブリッジ内ですら安堵に満ちた雰囲気がある程であった。

「エネルギー充填率二十%に到達!」

「後、九時間後には充填が完了します!」

 オペレーター達の言葉も心なしか朗らかになっている。すると、メインブリッジのレーダーが何かを感知した。すぐにレーダー手は確認作業に入る。

「マーダー・ワン! 第三惑星より高エネルギー反応が!」

 そうレーダー手が叫ぶとメインブリッジがどよめき、一気に緊張感が走る。

「や、やはり……あの青い星には何かあるんだ」

 そう一人の兵士が呟くと一人、また一人と悲観に満ちた言葉を発していく。最早、先程までの安堵に満ちた雰囲気はなく、凄い重圧で圧し潰されそうなぐらい空気が重かった。彼らには先の銀河大戦の悪夢が蘇っていたのだった。

「何をしておる? うろたえるのではない!」

 マーダー・ワンが一喝するとメインブリッジ内は水を打ったかのように静まり返ったが表情はまだ暗かった。 

「まさか……まさか忘れたわけではあるまいな? 諸君! 我々、メタル・ミリティアは先の銀河大戦の勝者であり、かつて我らの先祖は宇宙の少数派民族であったが未知の敵、遥かに上回る戦力にも屈せず立ち向かってきた、正に全宇宙の支配者と呼ぶに相応しい民族であることを!」

 この言葉で僅かだが希望は見えてきたのか表情が軽くなった。更にマーダー・ワンが続けて叫んだ。

「少しは頭が冷えたか? だがこの問題が解決したわけではない、安心するのはまだ早い。だがまだ慌てる時間でもないことを努々忘れるな!」

 マーダー・ワンの統率力と戦闘民族である矜持を垣間見た瞬間であった。

「ところでどこから反応があるのだ?」

 マーダー・ワンの言葉にレーダー手は我に返り、すぐにメインモニターにレーダーを映した。第三惑星地球の北半球に位置する大きな大陸の隣にある小さな列島に赤いポイントがついていた。その列島とは日本であった。

 それを見たメインブリッジ内は再びどめいた。その赤いポイントはモト・サイコの最大出力を優に超えるエネルギー量であったからだ。

「なんだこれは⁉︎ まさか、この高い反応は今出来たとでも言うのか⁉︎ そもそも報告にはビーム兵器等はないとなかったか?」

 マーダー・ワンが尋ねるとレーダー手は震えながら口を開いた。その言葉を聞こうとまた、メインブリッジ内は水を打ったかのように静まり返った。

「恐れながら申し上げますと何も兆候はなく、今現れました……まるで最初からあったかのように……また、エネルギーの解析は出来ずビーム兵器かどうかも分かりません。ありえるとしたこの星の最大の兵器である原子力と火力を使って行う核融合での惑星破壊兵器ではないかと……今のところはそう考えられます」

静まり返ったメインブリッジ内では通信やレーダーや様々な計器類の音が響くだけで誰も口を開く者は居なかった。そのような中で沈黙を破った者が居た、マーダー・ワンであった。

「なるほど……では一つ聞くが今の戦力でモト・サイコの発射までの時間をどれぐらい稼げられるか?」

 マーダー・ワンの言葉にすぐに反応した者が居た。オペレーターであった。

「第四十五師団なら残りの九時間程耐えられるかと思います。」

 オペレーターの言葉を聞いたマーダー・ワンはフと一つ笑みを浮かべた。

「よろしい……これより第三惑星の攻撃を開始せよ! 攻撃の指揮は第四十五師団に任せる! 各員準備を急げ!」

「り、了解!」

 メインブリッジ内が慌ただしくなる。オペレーターは指示を出していくと左中央のハッチが開いた。

「第四十五師団出撃準備完了しました!」

「『ハンガー18』出撃!」

 すると、そこから地球の北米大陸と同じぐらいの大きさの巨大な宇宙戦艦が現れた。その宇宙戦艦が『ハンガー18』と呼ばれ、メタル・ミリティアの主力戦艦であり、地球の生物で言えば、ダイオウイカのような姿をしていた。十本の触手のようなものの先端には吸盤のようなミサイル発射口が無数にあり、その数だけで地球が破壊出来そうな程であった。胴体の斑点のようなものは大口径のレーザー機銃があり、二つの眼球のようなものはAN等を発進するためのハッチであった。触手のようなものの間にある口と先端にあるエラはエンジンになっていた。

 ハンガー18のメインブリッジに指揮官席にはタツノオトシゴのような姿をしたものが居た。彼が第四十五師団の師団長である。

「よし! これより、第三惑星へ攻撃を開始する! ハンガー18発進!」

 師団長がそういうとハンガー18のエンジンが点火したと思うとすぐにサイコトロンの前から消えた。その速度は光の速さの半分の速さに達していた。エンジンを点火し、地球へ直進していくその姿は獲物を見つけ、体を流星型に変化させたイカのようであった。

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