進まぬ開発と弱き
注意。エロ要素あり。
翌日、部長と、おじさんに紹介されたある工場に向かう。
「ここってあの大企業の四立芝浦製作所じゃないか!」
部長が叫ぶ。やっぱおじさんは頭いいだけあってコネもあるらしい。
そして製作所の所長との商談が始まる。
部長が切り出す。
「今度の製品は、国民ラジオを売りたいんです」
所長がいう。
「いや、手が届かないでしょう。
真空管だってまだまだ高い。どうやって値下げするんですか。」
部長が切り出す。
「、、、一本60円にできませんか?」
「いくらなんでも無理ですよ。原材料だけで20円。
諸々の費用を考えると値切っても120円はします。それでも他の半額ですよ。これ以上は無理」
「では大量発注なら?」
「いくつ買うんですか?一万そこらじゃ無理ですよ」
悩む。うちに資金はあまりない。とても難しい交渉となった。
結局後日話す事になってしまった。
それでも、他と比べれば安い。
悩む俺。設計図面と睨めっこする。
それから毎晩毎晩遅くまで図面を家でも会社でも見る日々が続いた。
おじさんとも色々相談して、一円一円コスト削った。
「ここをこうしたら7円削れるぞ」
「あっ!コンデンサーを2つに減らせる!」
こんな感じで、開発は徐々に進んでいった。
家事も色々教えてくれた。
「覚。いいか。そばってのは優しく撫でるように茹でるんだ」
「うん。裁縫うまいじゃないか。どれ、カバンでも作ってみないか」
そうやって、4ヶ月が過ぎた。
これ以上は削れない。そこまでいった。だけど、まだ予算額には達せてなかった。
「どうしよう。」打開策が見いだせないまま、一日、一日が過ぎ去ってく。
苛立つけど、何もできない。気がついたら婦人用のふんどしを買っていた。いつ買ったんだろう。
おじさんにたまに家事とかいろいろな知識を聞くときだけは、何もかもを忘れて初心に戻れる。
好きだと思えた。この人しかいないと思えた。
おじさんのために頑張りたい。
その一心だけで、なんとかここで生きていた。でも、作戦が思いつかない。あれこれ考えたけど策がでない。
部長にも詰められた。
「いつになったら計画書並みの値段が出せるんだ!まだ削れるだろ!」
部長も無理なのはわかってるけど、でも開発を進めるしかない。
町工場も、復興が終わってギリギリの経営をし始めていた。打開策が必要だった。
けれど、壁を乗り越えられない。絶望感が俺を蝕んでいく。
やがて半年が経った。製品化の目処はついていない。
ある日、見ていたおじさんが話しかける。
「今どこで悩んでるんだい?」
僕はいう
「外装をどうコストカットするかってのと、回路を1円でも安くしたいってので悩んでる。」
「そうか。じゃあこれなら?」
そこに引かれたのは、銅線が5cmも短くされた製品だった。
「確かにこれなら安くできるけど、製造工程が複雑になって大量生産が難しいよ」
「そうか、、、」
悩む俺とおじさん。もうずっと悩んでて精神も限界だった。
「おじさん、、、もう俺無理だよ。これ以上安くできない、、、」
泣き崩れる俺。
「、、、抱いて」
当時、貧乏で、特に娯楽も楽しめない。精神も限界に来ていた。だから泣くようにせがんだ。
おじさんは、いいよと言ってくれた。小さな声で。
夜になった。
おじさんの買ってくれた婦人服に、西洋の婦人ふんどしをつけて、おじさんの布団に入り込んだ。
共に抱きしめ合い、体をへびの如く絡めた。母のお腹に入り込むような感覚でおじさんと体をくっつけた。
そして、あの感覚は今でも忘れられない。
我が子を生むようなあの感覚。きっとお袋も味わったのだろう。ゆっくりと、優しく、大きく、、、その優しさを味わった。
おじさんに、ありがとうと言い、その後開発の苦労を泣きながら語り、そしてもう一度愛を体に入れ、その後に眠りについた。