第6話
サミーニャとデスランはスターリピットのとある町にやってきた。
「ミーニャ、手は痛くなっていませんか?」
「うん。全然大丈夫。俺もスランも今日は人間だからな」
「それならば良かったです」
「・・・まさかあんな方法で人間になれるなんてな」
「はい。あんなに林檎を食べたのは後にも先にもありませんよ」
「だよな」
「・・・ミーニャは何か見たいものはありますか?」
「特にねぇな。スランは?」
「俺はミーニャが楽しければそれで良いです」
「そうか・・・」
「・・・」
「スラン、その、連れてきてくれてありがとうな」
「ミーニャこそ、俺に付き合って着いてきてくれてありがとうございます」
「ん・・・」
先程から二、三言交わすと沈黙することを繰り返している。しかし、サミーニャは沈黙の中こんな事を考えている。
俺、スランと手を繋いでる!やべぇ。超キンチョーするわぁ。やっぱり俺と比べてデカイな。指は細長くてすべすべだし。なんだか包み込まれてるみてぇだ。・・・てか、手汗大丈夫かな!?
一方のデスランはと言うと。
ミーニャと手を繋ぐのはこんなに緊張するのですね。それにしてもなんて小さくて可愛らしい手なのでしょう。なるほど、これが守りたくなる手と言うものですか。
二人とも手繋ぎデートに同じ様な感想を抱いている。
こんな感じで二人のデートが始まった。
***
そんな二人の後を追う者達がいた。もちろんモアテとクロウディである。
モアテはごそごそと、何やら機械の様な物を弄っている。
「あなた、大丈夫ですか?」
「うん。よし、これで繋がるはずだよ」
ポチッ ウィーン
「セレーネ様、見えてますか?」
『良く見えてるわ。このまま後を追ってちょうだいね』
「わかりました」
それは映像と音声をセレーネの元へと届ける機械の様だ。モアテがその機械へ話し掛けると、セレーネの声がどこか遠くから聞こえる。
二人は動けないセレーネの代わりにサミーニャとデスランの後を追う探偵。気付かれない様に、周囲から浮かない様にと細心の注意を払いながら尾行を始めた。
***
ここはテオスの別館、いたりあの間。
一人優雅に休日を楽しむ者がいた。それはセレーネである。
うふふ。手繋ぎデートなんて初々しいじゃないの!ぎこちない感じがもう最高!
セレーネの前には透明な板が有り、そこにモアテのもつ機械の映像が送られて来ていた。
──モアテとクロウディも何か話せばいいのに。無言で通じ会うとか、熟年夫婦?いえ、まだまだ新婚のはずよね。
聞かれていると分かっていて、迂闊に会話する奴がいるのだろうか。
しかし、セレーネは知らない。
二人が腕を組み密着して歩いている事を。
モアテの言葉は全てクロウディの耳に消えている事を。
耳に吐息がかかる度に彼女が頬を赤く染めている事を。
結局、サミーニャとデスランよりも恋人らしい事をしている二人である。
セレーネがデートの様子を観察していると、部屋のドアが開いて声が掛けられた。
「おや珍しい、セレーネじゃないか。こんな所で何をしてるんだい?」
それはセレーネ達の祖母であるヘラだ。
「おばあ様こんにちは。これを見ているのよ。今、サミーニャとデスランが下界でデートしているの」
セレーネは板の正面から横へずれ、ヘラに送られてくる映像を見せた。
「あれまぁ、二人の?はは。サミーニャは随分と緊張しているみたいだね」
「ええ。初々しくって可愛らしいわ」
ヘラも完全に腰を据えた。二人の孫のデートの様子を見守る事にしたらしい。