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第2話



 セレーネはサミーニャの元を訪ねた二日後、今度はデスランの事務室を訪れていた。

 アポなし訪問の為、主であるデスランはどこかの世界に行っており不在。そのせいで部下のモアテが戻るまでの相手をする事になった。


「セレーネ様、来るなら事前に連絡を寄越して下さいよ。デスラン様が出掛けたのはほんの数分前ですよ。

 あ、そうだ。妊婦さんはお茶とかダメなんですよね。ジュースで良いですか?リンゴとオレンジどちらにします?」


「急にごめんなさいね。飲み物はリンゴジュースでお願いするわ」


「わかりました。どうぞ」


「ありがとう。モアテは仕事をしていて良いわよ。私はのんびりしているから」


 セレーネはそう言って、自分の亜空間から編みかけの何かを取り出した。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね」


 モアテは自分の席に戻り、書類仕事の続きを始めた。


 二人は黙々と作業を進める。


「そうだ。何か言いたい事とかあるかしら。デスランには言えなくても私に言える事があれば聞くわよ。今のモアテは一見しただけでもストレスと疲れがかなり溜まっているみたいだから」


「いえいえ、そんな」


「いいのよ?私は今神様の中で一番の暇人なんだもの」


「良いんですか?じゃあ遠慮なく。

 セレーネ様は最近“死部門”の改編があったのは知ってますか?」


 モアテの凄まじい速度で仕事を進めながらも話し出した。


「ええ。たしかタナトスが病死を死神課の管轄から独立させたのよね?」


「そうなんですよ。何もこのクソ忙しい時期にやります!?ってタイミングで」


「そんなに変なタイミングだったの?」


「はい。この時期って、見習い悪魔が死神課に入ってくるんですよ。見習いは一癖も二癖もあって、毎回新人研修は一筋縄では行かないんですよね。

 いつもはデスラン様と僕ら補佐官とベテラン悪魔勢の完全体制で挑んでたんですけど、病死課に人員を半分とられてしまって。そのくせ見習いはこっちに全員押し付けてきたんですよ!」


 モアテは愚痴を溢しながらもどんどん書類を片していく。


「受け入れる側が半分になったのに入ってくる人数は変わらないのね。他課に応援は頼めないの?」


「誰も手伝ってくれませんよ。ウチ、かなりハードなんで。補佐官のポデッドもダイドもシナルも体調を崩して寝込んでますからね。僕が最後の生き残りなんですよ!あいつら、さすが古参は身体の造りが違うとか抜かしやがって・・・」


「それでその膨大な量の書類に囲まれているのね」


 書類はモアテの机だけでは収まらず、全ての事務机の上にうず高く積まれている。セレーネは可哀想なものを見る目を向けた。高速で書類を処理するモアテはその視線に気付かない。


「デスラン様も手伝ってくれますよ。だけど現場の指揮も執らないといけないから、いつ寝てるんですか?って言う感じになってますね。これが本当のデスマーチですよ。あははは。

 お陰で僕は妻とのデートもままならないし。デスラン様も最近はサミーニャ様に会えてないんじゃないですかね。自分の部屋にも帰れずここで寝泊まりしてるみたいですから。まだ遅くなっても家に帰ってるだけ僕の方がマシかもしれませんね」


「死神課はとんでもない事になっているのね」


「ははは、はぁぁ。もう死にそうですよ。まぁ、堕天使の僕らに死はないですけど」


 モアテは乾いた笑いと共に重い溜め息を吐いた。その間も仕事の手は止まらない。


「あ、そうだわ!」


「急にどうしたんですか?」


「たしかモアテの奥さんはサミーニャの所のクロウディだったわよね?」


「そうですけど?」


「うふふ。良いこと思いついちゃった♪」


「え?何をする気ですか?」


 セレーネの発言にモアテは思わず手を止め怪訝な顔を向けた。その表情はこれ以上問題を持ってこないでくれと言外に語っている。


「モアテ、休暇が欲しくない?」


「そりゃ欲しいですけど。でも現実的に無理ですよね」


「うふふ。私に任せなさい」


 モアテは嫌な予感に顔を引き攣らせた。


 セレーネはまた後で来るわねと言って一度死神課を出ていった。


 それから少ししてデスランが戻って来ると、モアテがセレーネの事を伝える。デスランは彼女がまた来るならと外出せずに書類仕事に勤しんだ。



  ***



「お邪魔するわね」


 セレーネがガチャリとドアを開けて死神課に入ってきた。彼女はそのままスタスタとデスランの机の前まで歩いて行く。


「セレーネ、急にどうしたんですか?貴女がここに来るのは珍しいですよね」


 デスランは早々に用件を聞いた。


「もぅせっかちね。コホン。デスラン、休みを取りなさい。これはお祖父様からの命令よ」


「えっと、何故急に?」


「さっきモアテに聞いたのよ。あなた達ずっと休みなく働いているのでしょう?」


 デスランはモアテを見た。モアテはデスランの追及から逃れようと顔を背ける。


「ってことで!近いうちに1日休みなさい!休みの日はルシフェルに業務委託するから!」


 セレーネはズイッとデスランに指を付き出した。彼はその手をそっと退けながら疑問を述べる。


「ルシフェルですか。彼なら元死神課の補佐官でしたので任せられますが、今は父の補佐で忙しいでしょう?」


「それは大丈夫よ。末っ子の双子神が使えるようになってきたって言ってたもの」


「ユミールとジュミールが・・・。まぁ、父がそれで良いと言うのでしたら甘えようと思います」


「あとね、モアテの為にも休みは転生課と合わせたら良いと思うの。ね、モアテ」


 セレーネはそう言うとモアテに向けてウインクした。


「えっと、はい。もし休みが合うのであれば妻とデートに行きたいと思います」


 モアテはおずおずとデスランに申し出る。


「なるほど。では明日サミーニャの所に聞きに行ってきます。ルシフェルの方にはそれから頼みに行けばいいですか?」


「それでOKよ!それと、今夜はちゃんと休みなさいね。そんな顔で行ったらサミーニャが心配するから。じゃあまたね」


 セレーネはそれだけ伝えると嵐の様に去っていった。


 デスランはセレーネの忠告に従い、久しぶりに自分の部屋に帰ると早めに休む事にした。



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