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ending



 サミーニャがアレスと共に転移門を潜ると、そこは花々が咲き乱れるエデンの入り口だった。

 目の前には正装に身を包んだデスランが。小路の先の広場にはアレス以外の14柱の神々(世界の管理者)が集まっている。


「よお、デスラン。正装(その格好)は初めて見るが、なかなか様になってるじゃないか」


「アレス様、これは一体何事なんですか?先程ここを通られたアフロディーテ様には何も仰って頂けないですし、両親ですら俺に何も教えてくれないのですが」


 まだよくわかっていないデスランは困惑気味に問う。


「デスランもわかんねぇのか。俺も「サミーニャ」っ!!ワタシにもどうしてこうなってるのかわかん、ナイノ」


 サミーニャはアレスに名を呼ばれ、無理矢理言葉遣いを直す。デスランは奇妙なモノを見るような視線を彼女に送った。


「じゃあお前ら、俺が向こうの広場に着いたら最高神ゼウス様の元まで来い」


「「!!」」


 アレスの物言いにサミーニャとデスランはピッと背筋を伸ばす。それは祖父としてではなく、上位の神として会うという事を意味するからだ。


「あー、あれだ。手を繋いでもいいし腕を組んでもいいからとにかく一緒に来いよ」


 アレスはそう言って、広場へと向かって行った。

 サミーニャとデスランは顔を見合わせる。お互い疑問ばかりで、格好やら雰囲気やらがいつもと違う事すら考えられなかった。




 やがてアレスが広場へ到達する。


 デスランはサミーニャへ視線を送ると、頷いた彼女の手を握り、緊張の中前へと一歩踏み出した。

 よろけるサミーニャをデスランが支える様に一歩、また一歩と広場へ近付く。


 小路を抜け広場に至ると、祭壇が準備されていた。二人はその祭壇を背に立つゼウスの前に到着する。


「今から結びの儀を執り行う」


 ゼウスが厳かに言葉を発した。穏やかな雰囲気から一転、ピリッと空気が張り詰める。そして、二人は驚いたと同時に今の状況に合点がいった。


 エデンの広場の中央に祭壇があり、14柱の神々が放射線状に並ぶ。ゼウスはその中央で結びの儀を行い、夫婦(めおと)となる神に祝福を与える。


 サミーニャはセレーネからこの儀式のことは聞いていたが、まさかだまし討ちの様に催されるとは思っていなかった。


「デスラン、サミーニャ。この儀に異論はあるか」


「「ありません」」


 二人は何の合図も無しに同時に返した。声が揃ってしまった気恥ずかしさから二人ともほんのりと頬を染める。


「うむ。立会人の神々よ。この儀に異論はあるか」


 二人以外の神々は異義なし、ありませんと口々に発した。


「うむ。では、ここにこの者たちが夫婦となることを認めよう」


 ゼウスがそう言い拍手を送る。続いて他の神々も拍手を送った。すると天から二人に向けて光が降り注ぐ。


「新たな夫婦に祝福を!」

「「「「新たな夫婦に祝福を!」」」」


 暫くすると光は止まり、元の穏やかな雰囲気に戻った。


「これで結びの儀は終わりじゃ。二人とも、おめでとう」


 ゼウスが今までの凜とした雰囲気を崩し、孫の結婚をただ喜ぶおじいちゃんになった。


「さぁ、みんなが待っているからさっさと移動するよ」


 ヘラの言葉に皆が移動を始める。その様子をサミーニャとデスランの二人は心ここに在らずな心境で眺めていた。


「なぁ、デスラン。その「サミーニャ」うん?」


 デスランがサミーニャの言葉を遮る。サミーニャは彼を見上げ、デスランも彼女に向き合うと微笑みながら言った。


「サミーニャ、これから俺とずっと一緒にいてください」


「うん!もちろんっ!!」


 サミーニャはデスランに抱き着いた。勢いでヴェールがふわりと捲れあがる。デスランはそんな彼女を抱き留めると耳元でボソッと呟いた。


「嫌と言われても絶対に離さないから覚悟しろよ」


 サミーニャは驚き顔を上げる。デスランは微笑みを湛えたままサミーニャの唇を己の唇で塞いだ。


 幸か不幸か、それぞれの両親がその一部始終を見ていた。


 アレスは項垂れ、それをハーデスが慰める。アフロディーテとペルセポネはやるじゃないと互いの子の健闘を讃え合った。



  ***



 サミーニャとデスランは10分後に潜れとの指示のもと、転移門の前で待機している。


「これはあれだよな。セレーネの時もやったパーティだよな」


「そうですね。ということは今日は無礼講ですか」


 デスランはげんなりとした態度で転移門を見つめている。


「なぁ、さっき一瞬裏になったか?」


「──俺は俺ですよ」


「ふーん?」


「そう言えば、今日は正装のせいか随分と雰囲気が違いますね。いつもより背が高いですし」


「あーこれ、あっという間に着せられたんだ。中はこう」


 サミーニャはヒラリとマントを脱ぎ去った。

 アメジスト色のドレスが披露される。


「なるほど。だから俺はこれなのか」


 デスランがマントをハラリと脱いだ。

 濃い緑のジャケットの下に明るいミントグリーンのシャツが覗く。


「──珍しく明るい色だな。ってか、俺の目の色?」


「そう言う事だ。フフッ。サミーニャを俺の色で、俺をサミーニャの色で染めてるのか。セレーネ達もなかなか粋な事をするな」


「そう言う意味なのか!?ってかお前、今?」


「裏かって?どっちでもいいだろ。俺は俺だ。さて、時間だ。行くぞ」


 デスランはニヤリと笑いながらそう言ってサミーニャからマントを奪うと自身の亜空間に押し込み、流れる様にサミーニャを横抱きにした。


「ギャー!!!」


 サミーニャの悲鳴と共に二人は転移門を潜った。




 二人が転移門を潜るとそこはテオスの別館最上階にある天のホールだった。

 サミーニャとデスランを今か今かと待ちわびる面々は、登場と同時に響いたサミーニャの悲鳴にビックリする。


「ちょっと、何をやってるのよあなた達」


 セレーネが呆れた顔で指摘した。


「サミーニャが一人で恥ずかしがってるだけですよ。ね?」


「ううぅ~///」


 デスランが良い笑顔でサミーニャの顔を上から覗き込むと、サミーニャは耳まで真っ赤にしながら唸って顔をデスランの胸に押し付けた。


 いいから早くと皆に急かされ、中央のテーブル席に着く。サミーニャはデスランの隣にやっと降ろされた。


「新たな夫婦に乾杯!」


 ゼウスの音頭で乾杯すると、二人の元にはわちゃわちゃと皆が群がる。神や天使、堕天使に悪魔とテオスで共に働く皆に揶揄われつつも祝福された。




 こうして周りの後押しで二人は目出度く夫婦となった。



  ***



 二人が悲鳴と共に登場した話は笑い話としてずっと語り継がれていく。




ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

元の短編は自分の書いてきた物の中で一番評価が低かったのですが、サミーニャのキャラクターが割と気に入っていて今回の連載に至りました。

どうにか完結まで到達する事ができて満足しています。

デスランの幼少の話や他の神の話なども書きたいなと思っています。でもきっと、忘れた頃の投稿になるかと。

この話の続きとして投稿する予定なので、もし気になる方はブックマーク等していただけると嬉しいです。


お読み頂きありがとうございました。

2019.05.28 朝木花音

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