第12話
サミーニャは靴屋の軒先に置かれた椅子に座っている。
「ここで待っていてください。すぐに戻るので絶対に動かないでくださいよ?」
「わかってる。それにこんな足じゃ動けねぇよ」
サミーニャはまだ先程の恥ずかしさが抜けきって居ないのかデスランとは目を合わせられない。デスランはそんな彼女の頭をふわりと撫で、店内へと入っていった。
はぁぁぁ。まじで恥ずかしかった・・・。
頭を抱え羞恥に震えるサミーニャにふと影が掛かる。顔を上げると目の前に三人の男がいた。
「なぁ、お嬢ちゃん。ちょこっとオレらと一緒に来てくれないかな?」
泣かせた女は数知れずと言う風貌の男がサミーニャに話し掛けてきた。
「はぁ?なんで?」
「立て」
これぞ破落戸と言われて納得する筋骨隆々なスキンヘッドの男が乱暴にサミーニャの腕を掴み持ち上げる。サミーニャはその動きに無理矢理立たされた。彼女の座っていた椅子がガタンと派手な音を立て転がる。
「いってぇな!
おい!スラン!!スランッ!!」
サミーニャは店内にいるデスランに向けて大声を出すが、何かに阻害されているのか彼女の周囲にすら聞こえていない。
「騒いでも無駄だ。早くしろ」
見た目は恐ろしく整っているが頬の大きな傷と鋭い目つきが特徴的な男が現実を突きつけた。
足を痛めているサミーニャは踏ん張ることも出来ずにそのまま裏路地へ引き摺って連れて行かれる。
腹を殴られうっと呻いたのを最後にすぅっと意識が薄れていった。
サミーニャが拉致られてあまり間を置かずにデスランがサンダルを買って店から出てきた。
「え?ミーニャ?ミーニャ!?」
サミーニャの座っていた椅子が横倒しのまま残されている。
クソッ!この一瞬で!!
懸念していた事が現実となり焦るデスランはサンダルを亜空間に放り投げ、慌てて周囲を探る。しかし、サミーニャの気配は感じ取れない。
「すいません。先ほどここに座っていた女の子のお連れ様ですか?」
その場を離れ探しに行こうとするところで、茶色のローブを纏いフードを目深に被った奇妙な女に声を掛けられた。
「何か知っているのか!?」
「ええ。見ていましたから。こちらです。着いてきてください」
デスランは藁にも縋る思いで女の後を追う。そして案内されるがままに裏路地へ着いていった。
「本当にこの先にいるのか?」
「ええ。こちらで合っていますよ」
女は突然振り返り、後ろにいたデスランの腕に触れる。デスランはピリッとした何かを感じた途端に膝を折った。
薄れゆく意識の中で彼が最後に見たのはフードの中の女の顔。口元には三日月の様な笑みを浮かべていた。
***
、、、ここは?
デスランは目を醒ましゆっくりと見回す。どうやら使われなくなって久しい建物の中に監禁されている様だ。窓の外の景色からすると、ここは3階らしい。
デスランはその部屋に後から運び込んだと思われる不釣り合いで頑丈そうな椅子に座らされ、手は背凭れの後ろで椅子に拘束されている。
何が起こったんだ?俺は気絶した?どういう事だ?そんな事よりどうやってここを出る?ミーニャはどこへ行ったんだ?
クソッ、考えがまとまらない。
デスランはぼーっとする頭で必死に考える。
「お目覚めかしら?私のお人形さん♪」
部屋のドアの開く音がした。デスランが顔を上げると先ほどの女がいた。
ローブを脱ぎ戸口のコート掛けに掛ける。己の抜群のスタイルを披露しつつ、デスランを舐めるように見た。
「・・・」
デスランは無言で女を睨む。
「フフ。人形の様な綺麗な顔で睨まれたらゾクゾクしちゃうじゃない」
その視線に女は両手で自分の身体を抱き締め身悶える。
「・・・ミーニャはどこだ」
「開口一番、彼女の事なのね。妬けるわ」
女はクスクスと笑いながらデスランに近づき彼の顎をくいっと持ち上げた。逃げようと首に力を入れるが、身体が痺れて言うことを聞かない。
「大丈夫よ。彼女は彼女でイイコトしてるはずだから」
「何を?」
「うーん。あなたはもう少しかかるかしらね。痺れが全て抜けたら私とイイコトしましょう。その前に味見だけ」
そう言いながらデスランに顔を近づける。
デスランは重心を移動して椅子ごと横に転がり、女の手から無理矢理離れた。
「──ッ!」
「そんなに焦るなんて。もしかしてその見た目で初物なのかしら。私があなたのハジメテの相手なんて光栄ね」
女はぺろりと唇を舐め、またデスランに近づいた。転がる彼を見下ろす。
「それじゃああの子もハジメテなのね。いきなり三人の相手なんて大丈夫かしら」
女は言葉では心配ねと言いながら、その表情はほくそ笑んでいる。デスランは意味が解らず困惑の表情を浮かべた。
「密室の男と女がするイイコトなんて一つしかないじゃない」
その一言でデスランはサミーニャの置かれている状況を嫌でも理解した。怒りに任せて手の拘束を引きちぎる。そのままの勢いで女を押し倒すとその細い首に手を掛けた。
「悪いが、遊びに付き合うつもりはない」
「ぐっ、な、んで、うごける、の」
「そんなことはどうでもいい。ミーニャはどこだ」
「あお、い、やね、のにかい」
女は窓の方を指差し答えた。その窓の奥に青い屋根の建物が見える。
デスランはサミーニャの居場所を聞き出すと女の首から手を放した。目の前でゲホゲホと咽せる女を蹴り飛ばし昏倒させる。
ミーニャ、無事でいてくれ!!
デスランは焦る心に任せるまま、外へ向かって走り出した。