第10話
二人はまた町の散策に戻った。
デスランは先程の失態からそわそわと落ち着かない。逆にサミーニャはふんふんと鼻歌を歌う程に上機嫌だ。
「・・・ミーニャ」
「うん?なんだ?」
「あ、いえ、えっと、あ、ミーニャは休みの日は何をしているのですか?」
デスランは何も考えずに名前を呼んでしまったのか、焦りながら話題を探した。
「休みか?セレーネんとこに遊びに行ったり、ヘラばーちゃんを誘って買い物に行ったり。あ、最近はアンビバレンスの小説を読んだりしてんな」
「アンビバレンスのですか?」
「うん。“なろう”とかって無料で読める小説があって、異世界転生の物語がそこかしこに転がってんだ。なんであそこの奴らが異世界転生を簡単に受け入れんのかそれで判ったぞ」
「なるほど。ある種の文化として確立されていたのですね」
デスランは苦し紛れの話題で今まで疑問に思っていた事の答えを得た様だ。
「でな、いろいろ読んで異世界転生にシバリを導入したんだ」
「縛りとは具体的になんですか?」
「今までは魂の言うとおりに何でも加護として与えてやってたんだけどさ、最近は職業の選択のみを自由に選べるようにしたんだ」
「職業のみですか」
「ああ。そんで、加護はその職業にみあったものからランダムで3つしか与えない様にしたら、作業がえっらい捗ってな。最近は前よりもめっちゃスムーズに転生できてんだ。お陰でアンビバレンスのせいで膨大に溜まってた魂も大分減ったぞ」
「それは良かったです。我々の手違いがもっと減ればいい事ですけどね」
「それは仕方ねぇだろ?スランも悪魔も完璧じゃねぇんだからさ。そんな事より、これからどうする?何もする事がなけりゃみんなに土産でも買わねぇか?」
「そうですね。まだ帰るまでには時間がたっぷりありますので買い物に行きましょう」
「いよっし!じゃあまずはあの店に入ろうぜ!」
皆へのお土産を買うことにした様だ。
二人は今一軒のベビー用品店にいる。
「兄貴のとこは女の子と男の子どっちだろ。生まれた時のお楽しみつって教えてくんねぇんだよな」
「あの二人らしいですね。となると贈るなら女の子でも男の子でも使える物が良いですね」
「そうだな。服だと難しいからおもちゃの方が良いか。にしても、赤ちゃん用の物って可愛いな」
サミーニャは振ると音の出るおもちゃを手に取り微笑んだ。デスランはそんな彼女をじっと見詰める。
「──そうですね。なんだか幸せが溢れている様です」
「はは。スランでもそんな風に思うのな」
「いけませんか?」
「いんや、良いと思うぞ」
二人は振ると音の出るおもちゃや押すと膨らむおもちゃなどを買い、綺麗に包装して貰うと店を出た。
そして次の店へと手を繋いで歩いて行く。その手は自然と指を絡めた恋人繋ぎになっていた。
一通りお土産を購入した頃にはおやつ時は終わり夕飯よりは早いくらいの時間になった。
「ミーニャ、あそこの喫茶店で休憩しませんか?そろそろ疲れましたよね」
「ありゃあ、バレた?」
「俺にはわかりますよ。ずっと見てますからね」
「はは、スランには何でもお見通しってか。それにしても人間の身体って不便だよな。神だったら勝手に体力も回復すんだけど」
「それはミーニャだけですよ。他の神は意識しないと回復しないんですから」
「そうなんだ?」
「ミーニャは生命力に溢れているので自動で回復するんですよ。さて、何を飲みますか?」
デスランとサミーニャは通りに出ている手描き看板の前でメニューを見ている。
「うーん。このキャラメルマキアートってのにする」
デスランはわかりましたと言って、店のドアを開けた。サミーニャは店に入るなり、ケーキのショーケースに釘付けになった。
「あのケーキ旨そう。なぁ、あれも食べたい」
「いいですよ。すいません。キャラメルマキアートを一つとアメリカンを一つ、あとそのレアチーズケーキを二つください」
店員はかしこまりましたと用意を始める。
「スランも食うんだ?」
「はい。少し小腹が減りましたから」
二人はお金を払って注文した品を受け取り、大通りに面したガラス張りの席に座った。
***
喫茶店に入る二人をモアテとクロウディが目撃した。
「お二人はまだ帰っていなかったのね」
「そうだね。僕らよりも長い時間人間でいられるんじゃない?」
「なるほど。私達はそろそろ帰らなければならないわね」
「そうだね。背中がむずむずしてきたよ」
二人は相変わらずくっつきながら、家路についた。