始まりの終わり
ブラメスは帝都へと侵入を果たす。
王都時代の隠し通路が一部残っていた事。帝都にブラメスの勢力が残存していた事が成功に導いた。
主に月の女神の信徒の協力があって、カインを襲撃する計画が立案される。
計画はいたって簡単。
帝城に忍び込むのが不可能である以上、向こうが少数で出てくるのを待つ。
出来るだけ、双方の被害を少なくする為、一騎打ちを申し込む。
カインが拒否しないよう、民衆の目の前で。
しかし、それは一年以上待たなければ機会が訪れなかった。
本来ならこちらの立会人として、太陽の巫女と魔女を連れて行きたかったが、ファネルの出産が近づいた2人は帝都で身を隠すこととなる。
そして、実行に移す時がやって来る。
名を持つ事で力を持つ事となった邪神は、自分の力が及ばない事で戦いがはじまる事を予見する。
何故なら、この帝都で自分に干渉しうる事が出来るのは同じく名を持ったものだけなのだ。
英雄の後継者の元の加護をはがし、自分の加護を上書きしたが決して意のままに操ってはいないのだ。
そうする事が決してルール違反ではないが、あの英雄の後継者はこちらの思うように動いてくれている。
今回は後継者同士で戦うことになるのか、それは当人同士に任せてもいいだろう。
仮に負けたところで即座に名無しになるわけでもない。
この大陸が崩壊するぐらいの事が起きなければ良いのだ。
帝王には屈託があった。
邪神の加護をもらい、父以上の成果を挙げた。
このままいけば、大陸全土の征服も自分の命のあるうちに成し遂げられるだろう。
だが、兄をこの手で倒したい。
いや、勝負にはならない。たとえ、名持ちの神が複数いようとも。
けじめというものだ。
ビンセントの後継者は一人でいい。
帝都にある闘技場にて、帝王の戦いが行われる。
帝王の力を民衆に示すための余興だ。
圧倒的な力を民衆に見せつけ、反乱を防ぐという趣旨の元、毎年時期こそ違えど恒例となっている。
恐らく、誘いだろう。
わざと隙を見せ、強者の優越感に浸りたいのだろう。
最初に帝王が、そして、反乱軍の首領が現れる。
2人の英雄の後継者の戦いがはじまる。
邪神の加護は暗き心にきく。
屈託していた心のまま戦えば、月と太陽の加護があってもカインの勝ちだったであろう。
が、ブラメスと相対した時にカインの心の屈託はなくなった。
加護の力は同等。実力は伯仲。
そして、英雄の後継者二人は神剣と聖剣のとてつもない力を引き出してゆく。
そう、この大陸を破壊するほどに。
大地は割れ、嵐が起こり、溶岩が噴き出す。
海が荒れ、津波が起こり、全てを飲み込んでゆく。
まさにこの世の終わりである。
名もなき力ある者たちは逃げる事で精一杯。
戦いはブラメスがカインを倒したが、それどころではない。
名を与えられた邪神ですらこの状況を止める事が出来ない。
いや、この大陸のみで被害が済んだのは邪神の力によるものだった。
何故なら、月の女神と太陽神は早々に天界にその身を移していたのである。
名を与えられたゲームの勝利者は神々なら神界から天界へ。
魔王であれば、魔界から地界へ。
それぞれ、より、高みへ行き、さらなる高みを目指すのである。
がしかし、今回の勝者はこの世界初である。
名を手に入れてすぐに高みを目指していいものか。
さらなる力を手に入れてから動くべきか、それぞれに思考していたのである。
そして、月の女神と太陽神は自分の眷属を手に入れた。
ブラメスとファネルである。
二人ともに神となる資格を手に入れ、戦いの後すぐに両者と共にこの世界から転移したのである。
月の女神「ルナ」
闘神「ブラメス」
太陽神「ソル」
光神「ファネル」
カインには神となる資格はなかった。
レグルスにも。
邪神は地界へ転移する事が出来ず。この世界を守った。
しかし、それは無理があり各所へ影響を与えた。
一番大きな影響は新たな世界を作ってしまったことだろう。
人界のとなりにエネルギーを逃がしたため、新たな並行世界「人界」を創造してしまった。
元の人界はこれから元の世界に修復される予定だが、かなりの時間を要するだろう。
人界が二つ出来てしまったため、元の世界を「幻夢界」、新たな世界を「人界」となった。
名もなき力あるもの達は各世界へ散らばった。
その際、世界の住民も共に振り分けられた。
邪神は幻夢界に身をとどめ、「混沌」となった。
「エルゾ」と呼ばれることはもうないだろう。
ブラメスとファネルの子供は、新たな人界へ旅立った。月の女神の配下である天狼に守られて。
彼の名は「シリウス・レヴィン」と命名された。