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第一章 日常

はじめまして、那由侘と申します。

異世界・・・行きません。

超常現象・・・・起きない。

起きることは、世界中で起きているかもしれない、誰かの日常です。

せめて、小説の中だけでも幸せをと思い執筆いたします。

主人公は二人の女性です。

認知症になった父親の娘(中学生)と介護支援専門員です。


それではよろしくお願いいたします。

第一章   日常


〇ある中学生の日常


 母の叫びで目が覚める。

部屋から両親のいる寝室へ向かうと、父が下半身をあらわにして立っていた。

「加奈ちゃん、お父さんをお風呂場に連れて行って!」

部屋全体にむせるような酸っぱいにおいに混じり、香ばしいにおいもする。

ぼーっと立っている父を風呂場に連れていき、シャワーで下半身を洗う。

母は、苛立ちながら糞尿で汚れた衣類や寝具を処理する。

「もう!お父さん、いい加減にして!どうしてなの?」

母の独り言が聞こえる。

父をバスタオルで拭いていると、処理が終わった母が、

「加奈ちゃん、ありがとう。いつもごめんね。あとお母さんがやるわ。」

と代わってくれる。

窓が開いて幾分寒くなったが、においはだいぶ和らいだ。

それでも、鼻の底にこびりつくように、不快なにおいが残る。

時計は午前5時近くを示していた。

もう少し寝れるかなと思い、自室へ戻る。

洗濯機の音、父の唸り声、母の甲高い声、ふすまを叩く音、それぞれが耳鳴りのようにこだまする。

私の父は若年性アルツハイマー型認知症・・・。

大事な人が日に日に壊れていく過程を、目の当たりにするのが、私の日常だった。


 目覚まし時計の音に起こされ、目が覚める。

時間は午前6時半。眠い目をこすりながら身支度をする。

リビングに行くと机の上に封筒に入ったお金。私の食事代だ。

寝室の扉は締まって、二人が起きる気配はない。

午前7時に家を出る。

マンションの5階から階段で駆け降りる。

中学校までは歩いて20分の行程。途中のコンビニで朝食と昼食を買う。

本当はもう少し遅く出てもいいのだが、早く家を出たかった。

授業は2時限目くらいから、眠気が襲ってくる。

現国の授業は特につらい。

シャープペンを指先に刺しながら、眠気に対抗する。

2限目が終わると、そのまま机で寝てしまう。

こんな毎日が入学してから続いている。

「眠いなぁ~。」

思っていたことが口から出ていた。

昼休みまでの3限目が勝負と言い聞かせて、10分ほど意識を無くした。


〇ある社会人の日常


スマフォのアラームが鳴り、重い頭を抱えて目を覚ます。

嫌なことがあると、記憶を無くすまで一人で酒を飲む。次の朝は決まってこうなる。

ベッド、ノート型パソコンと机、冷蔵庫以外は置いていない殺風景な部屋に、ウオッカの瓶が転がっている。

出勤までには2時間ほどある朝5:30。シャワーを浴び、簡単な朝食と化粧をする。

腰まである髪を塗り箸でまとめる。

服は白のブラウスに黒のスラックス。なんとなくそんな気分だった。

職場まで、歩いて15分。

AM7:30、黒いパンプスを履いて私は部屋を出る。

歩きながら、気持ちを整える。

今日の予定を思い浮かべる。

その間に、昨日のことがノイズのように入り込む。

私は、どうすればよかった?もっと気づくことはできなかったのか?

後悔の念が渦巻く。

いつしか、ノイズは本流になり、私の気持ちを占領する。

「はぁー」とため息をして、気持ちを初期化する。

昨日起きた事実を向き合ったが、まだ昇華できていないことは明らかだった。


ふわふわとして気持ちで職場に着く。

タイムカードを押して、自分の机について準備を始める。

スケジュール帳にパソコンの立ち上げ、昨日やり残したことの確認など・・・。

AM8:00には、上司の諏訪が出社してくる。

私を見かけると声をかけてくれる。

「毛利さん、昨日のことを聴いたよ。大丈夫かい?」

彼には、昨日のあらましを報告していなかった。

「すみませんでした。会議から戻るまで待とうと思ったのですが、途中で直帰されると聞いて・・・・。」

「ああぁ、病院での会議が伸びてね・・・。居宅部門についても厳しい意見があったけど、みんなが稼働率をあげていることを話して、収めたよ。それにしても大変だったね。」

諏訪の心遣いがうれしかった。こういったことを言える人はこの業界少ないかもしれない。

「はい。島村さんが・・・。」

私は、諏訪に事の次第を話した。


-----------------------------------------------------------------------------

島村敏子は、独居を穏やかに暮らしている、私が担当している利用者の一人だった。

訪問介護を週/3回、デイケアを週/2、利用している。訪問介護では、ヘルパーと一緒に買い物に行ったり、食事を作ったり、掃除をしたりしていた。

持病にはパーキンソン病があったが、軽い状態で推移しており悪化もしていなかった。

外出には介助が必要だが、室内で過ごすには介助が必要ない、要介護1の女性。

事の発端は昨日の朝のことだった。

ヘルパーがAM10:00訪問するも、本人が出てこない。鍵は閉まったままだった。

ヘルパー事業所の責任者から介護支援専門員(以下ケアマネージャー)である私に連絡があり、AM11:30に訪問した。

インターフォンを押しても、反応はなかった。網戸は閉まっている。

新聞受けには、朝刊が残っていた。

・・・・嫌な予感がした。島村は朝刊をとってコーヒーを飲むのが日課だった。

折り目正しいきちっとした性格の彼女が、新聞をとらないはずはない。

夜間に救急搬送されたか。いや、それならば近くの民生委員から連絡が来るはず。

外出したのか?でも車が残っている。

急いで事業所に戻り、諏訪に報告した。

諏訪は、午後からスケジュールが詰まっており、時間のある同僚の武田聡と動くようにと指示をした。

同時に、暇していた併設している訪問看護ステーションの所長に連絡。

同行するように依頼していた。

私は島村の唯一の肉親である妹に連絡し、状況が異常なことを伝える。

直ぐに来ていただけることになるが、他市にいるため1時間かかるとのこと。


結局、妹を駅まで迎えに行き、島村の家に入ることができたのは、PM14:00だった。

妹、私、武田、看護師で、家に踏み込む。

静かだった・・・。匂いなどもなく、ただ静かだった。

2階建ての一軒家、玄関入ってすぐに寝室があった。

寝室をのぞくと、島村はいなかった。起きだしてすぐのように布団がはねてあった。

少し安堵しつつも、トイレへ。

彼女がいた。

「島村さん!」私は叫んでいた。

その声に、ほかの人が気づく。

訪問看護ステーションの所長は慣れていて、

「はい、触らないで!武田君警察に電話。」

というと、ゴム手袋して、島村の状態を確認する。

「心音がないね。呼吸も止まっている。これは検死になるだろうから、このまま警察が来るまで外に出ましょう。」

妹は、ただ、ただ、動揺していた。

「どうして?昨日は元気だったじゃない。姉さん、どうしたの?」と叫び呟き、島村に飛びつきそうな状態だった。

私と武田で、妹を抱くように抱え、外で警察が来るまで待機していた。

10分後、救急隊と警察が到着。

救急隊が死亡確認し引き上げる。

そして警察が現場検証に入る。

私たちは、その場で制服警官から事情聴取を受ける。

私が、第一発見者ということもあって、詳しく今までの状況などを話すことになった。

妹は泣き崩れてしまい、とても話せる状況ではなかった。

事情聴取のあと、私たちは解放されたが、警察からまた聞くかもしれないから、事業所に残っているように御達しがあり、当然のように私が残ることになった。

各事業所に事の顛末を報告する。特に驚いていたのは一報をくれたヘルパーステーションの責任者だった。

PM20:00に警察から連絡があり、検死の結果事件性があるものではないと判断されたことなどが報告された。

死亡推定時刻は、一昨日のAM2:00。

心筋梗塞とのことだった。今日はこれ以上の報告はないと言われたので、ウオッカを1本購入して帰宅した。

初めて書き投稿しています。


稚拙なものですが、当事者でなければ知ることができない世界を描けたらと思っています。

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