地獄温泉にて鬼姉と出会う〜気付くのはいつか?〜
「は〜、生き返る」
湯に肩までつかり、体が温まって行くと、ついつい、そんな声を出したくなる。
悪路を運転していると、どうしても体に力がはいるようで、かなり、筋肉が固まっていた。
自分で固まった所をほぐしていると…
「くすくす…」
小さい笑い声が聞こえてきた。
僕は、出会った人には挨拶を交わす。
声が出せない状況では、笑顔で、これは世界共通の敵意は無いと言うサインの様なものだ。
「こんにちは、ご旅行ですか?」
今回は、眼鏡を外していたので、笑顔もプラス。
眼鏡を外しているとついついしかめっ面になるのでなるべく笑顔を作る様にしているが…
「そんなに怖い顔せんでも良かろう」
返答が返ってきた。
どうやら、また、しかめっ面になってたらしい。
「旅行…か、その様なものと言えば、その様なものかの」
ここで初めてわかった、声の主は女性だった。
「へー、どちらから?」
「白池じゃ」
白池…聞いたことがない、どこかの地名だろうか?
「私は臼杵です」
あまり、気にしないようにして、地名だけ答える。
大分県内なので、地名だけで通じる。
宮崎県にも、同じ地名があって時々勘違いされるが。
「はて…」
向こうもあまりわかっていない様子。
「お主は、何の目的でここにきたのかや?」
何か婆ちゃん、みたいな喋り方だ。
眼鏡がないので姿が見えないのが残念、声からするに若い女性だと思うのだが…
車等は一台も無かった。
「旅ですね、世界一周しようと思って」
「ほほう、それで手段は徒歩か?馬か?」
徒歩…バックパッカーだろうか?
馬…恐らくバイクだろうか?
どちらにしても、面白い言い回しだ。
「馬ですね、良い子です、文句言わずに走ります」
適当に話を合わせておく。
「良い馬を買ったのだな」
うん、上手いこと話は進んでいる。
向こうもわざと、面白いように喋っているのだろう。
「ところで、お主、酒を持っておらぬか?」
酒…くる途中で何本か買ったな…ハイネケンとオールドパーか。
「ええ、持ってますよ」
「済まぬが1つ少し譲ってくれぬだろうか?」
「構いませんよ」
そう言い、僕は腰にタオルを巻いてジェベルまで取りに向かう。
「できれば、強いのにしてくれんかの?」
そうなると…オールドパーか。
「はいどうぞ」
風呂に戻り、声のする方向に向かい酒を手渡す。
この時にやっと確信した。
女性だ、しかも若い。
「ありがとうの」
しかも、かなり若い…
それでも自分より少し上だろうか?
混浴の経験がないので恥ずかしくなり渡すなり遠くに向かう。
「そんなに遠く行かなくても良いではないか」
手を掴まれられ引き寄せられた。
「近くにおれ、1人では少々、寂しいのでな」
「はあ…」
向こうは特に恥ずかしくないらしい。
慣れてるな…
「ん〜?何かきななるかや?」
「いえ、何も」
恥ずかしくて咄嗟に強い返し方をしてしまった。
「ぬぅ…、わしは自分では悪くない体やと思うのじゃが…」
すみません、いくら近眼の私でも、これだけ距離が近いとはっきり見えます。
もう少し、距離離してもらえませんかね?
「まぁ良い、酒をくれた礼に何かしよう聞きたいことはあるかや?」
これは、思ってもない申し出。
「ここら辺に野宿出来る場所はありますか?」
「それなら、少し奥に入った所に開けた場所があるから、そこが、良いじゃろ」
おお!そんなに良い所があるとは…
良し、温泉の蒸気やお湯で今日は蒸し料理にしよう。
そう思い、ジェベルに食材を取りに戻る。
「こら、あまり離れるな」
ちょっと食べ物を取りに行くだけです。
そんなに心配しなくても。
「すぐ、戻ります」
「なるべく、早く戻ってくるんじゃぞ?」
この女性…お姉さんかな?
かなり、甘えん坊だなと思いながらも食材を取りにジェベルに向かう。
ジャガイモ、バター、あと卵で良いかな。
適当に見繕い、温泉に戻る。
「干し肉か?干し飯か?」
「どちらでもないですね、芋と卵です」
「お主、変わったやつじゃのう…」
あぁ、また、言われたよ変わり者と…
日本見るのやめてさっさか外国行こうかな…
「すまぬな、配慮が足りんかった」
はい?
「あー、顔にでてましたか?」
「顔をみらずとも、そのくらいわかる」
そう言って、女性もといお姉さんは距離を縮める。
これは、かなり危うい。
理性が爆発しそうだった…