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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
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トッシン鳥と豚のポトフ

「コータ!右側に倒した奴らまとめてるから処理しろ!フィーナはコータの護衛だ!」



俺達が遭遇しているのは、トッシン鳥の群れ。名前の通り、何故かやたらと大きく分厚い胸を張って、走りながら敵に突進してくる鳥型の魔物。大きさは大型犬程あるので、突進されたら俺なんかは確実に吹っ飛ぶ。鳥型にもかかわらず、飛べない鳥で、翼は突進時に走る時のバランスの為に残っているそうだ。



そのトッシン鳥が群れを成して迫る光景は、戦い慣れてない俺からしたら、「あ、死んだかも」と思われるビジョン。砂塵を巻き上げながら走ってくる鳥の群れにムドーさんが放った一言は、「危ねぇから倒しとこう。」だった。


次々と突進鳥を俺のいる進行方向右側に討ち取っては飛ばすムドーさん達。


焦っていたのは俺だけみたいで、自分達が危ないから倒すのではなく、他に遭遇する冒険者が危ないから自分達が倒すとのことだった。



フィーナさんが守ってくれているので、俺は俺の仕事をこなす。俺に課せられた仕事は補助員。俺は前衛をやりたいとか戦いにアグレッシブな希望はなかったので、冒険者としての知恵からつけることにした。


そのために、討ち取った魔物の中で、お金になる部位の確保を黙々とこなす。


偶々俺は便利な収納系の魔法を持っているので、魔物丸々持って帰れるが、持って帰っても使える部位は限られているので、その廃棄が大量に出るので困る。


魔物の不要部位の処分にもお金がかかるので、ギルドで解体してもらうにしても、不要部位が多いと報酬額から廃棄代が引かれてしまう。なので基本は冒険者は必要な部位やその周辺のみを持ち帰るのだ。



トッシン鳥の討伐部位は強靭な走力を誇るもも肉と、主張する胸肉。大きさが大きさなので、ニワトリの10倍以上ある。


山になるトッシン鳥を捌いて捌いて、終わる頃にはあたりは静かになっていた。


「この量を短時間で処理するとは、さすが肉屋目指してるだけあるな。」


「この鳥やたら胸が大きくて、バランス悪いから捌きにくいんだよね。コータいると楽できて助かるわ〜。」


俺が処理する間に、武器の手入れや休憩をとっていた面々から誉めてもらえた。


「よし、処理終わったんなら出発するぞ。」




俺達が向かっているのは、初心者向けのダンジョン。俺みたいな駆け出しの冒険者や、戦闘に自信のない冒険者が潜れるぐらいに難易度の低いダンジョンだ。


弱くても魔物が生息しているが、ダンジョンならではの素材を容易に採れるので、初心者の冒険者は財布を潤すためにダンジョンに潜る。



今回はそのダンジョンの位置と道のりを覚えることが目的だ。


なぜダンジョンまでの道のりを覚えるかと言うと、3日後にはムドーさん達は冒険者ギルドの依頼で1週間程の遠征をするので、その間はこのダンジョンに潜るというのが直近の方針だからだ。


遠征は高位の冒険者しか参加できないほどに危険度も高い。いくら補助員でも、駆け出し冒険者が行くのは危険極まりない。だから、俺はお留守番。



ただ、駆け出し冒険者は一定の依頼を短期間でこなすことが義務づけられているので、そのために初心者ダンジョンに潜ることになったのだ。


「本来なら冒険者見習いは、見習い受けをした高位冒険者と行動を共にして、地道なこういう依頼を避けて強い冒険者に鍛えてもらうような制度だ。要は冒険者のエリート教育だな。」


「僕らはどちらかというと、冒険者でしか稼げなくて、最初は才能もなくて地道に上へ上がったからさ。初心者が通る地道な依頼も、経験上役に立つこともあるから大切だってこともわかる。」


「コータは目的が目的だから心配してないけど、私たちのパーティは1人の冒険者として自立できる力を培うことを目的とするから、基本的に地道に地味なことが多いから覚悟してね。」


「これがある意味、本当に冒険をする上で一番大事なことなんです。小手先の強さじゃなく、豊富な経験と知識、技術が生き残るためには必要だから。」


ムドーさん達全員が、この初心者ダンジョンに潜る意味を伝えてくる。なぜ彼らが冒険者見習いの首席に対して充てがわれたのかが、わかった気がする。


ムドーさん達以上に強いパーティはたくさんある。もし冒険者同士で戦うようなことがあれば、彼らはあまり上位を狙えないだろう。


けど、彼等があくまで冒険者という仕事をするにあたっては、途轍もないパフォーマンスを発揮するのだろう。


「といっても、ソロで潜るのも危険なことに変わりはない。初心者同士で潜るのは信用の問題もあるからよっぽど信頼できる相手じゃないとおススメしない。俺らが相手を見つけても意味ないから、その辺りも学ぶつもりで一緒に潜る相手を見つけろ。」


「はい!」





ダンジョンの前に着き、簡単なダンジョンの仕組みを復習する。ダンジョンは入り口が1つ。


その形状はダンジョンによって違っていて、ダンジョン毎に特徴があるそうだ。



初心者用のダンジョンは森だ。別名『迷いの森』。迷路のように複雑に入り組む森は、洞窟型や地下迷宮のように階層に分かれたりはしていない。壁に右手をついて進めばという法則には当てはまらないが、魔物の強さと森というそこまで過酷でない環境、ほとんどの場所がマッピングされているという点において、難易度として一番簡単になっている。



「深い森だが、木の間からの奇襲にだけ備えればそこまで難しくはない。あとは迷わなければ大丈夫だ。」


「迷った時にはどうしたらいいんですか?」


「まずは自力で元の道に戻ることを考えろ。森は広いから、道を外れた場合は他の冒険者に出会える確率はかなり低い。みんな基本は地図通りに進むからな。だから迷わないことが大切だ。」


そのあとも迷いの森に出る魔物の種類、迷わない方法なんかをレクチャーしてもらった。



「そういえばお昼にするなら、ダノンさんから塩漬け肉貰ってきたんで食べますか?」


「お、さすが肉屋の弟子だな。お前がいいならいただくか。」


「じゃあこの辺でお昼だねー。」


子供の俺の足に合わせたので、本来なら2時間程度の道のりを4時間かけてたどり着いた。

途中でトッシン鳥というイレギュラーもあったけど。森に着いたらほとんど午前中は終わっていた。



「僕の方で昼ごはんは用意しますね。」


補助員としてお世話になるので、旅の持ち物や食料なんかも任せて貰った。孤児院の貧乏な俺と違って、稼いでいる冒険者のムドーさん達から経費も貰っている。ほとんどが昼食代で、多過ぎると訴えたけど余りは孤児院に寄付という形で貰うことにした。


本当に素敵な人達だ。


子供の身で補助員ができるのは収納の魔法が使えるからだ。冒険者ギルドでレンタル出来る、野外用の鍋を取り出す。


アルルさんに魔法で水を出して貰って、まずは塩抜きをする。保存目的でガッツリ塩漬けしたから、このままだとしょっぱ過ぎる。


塩抜きしている間に、シスターが育てる孤児院のハーブ園から拝借したハーブを刻み、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもをテキパキと剥いて刻む。


塩抜きが済んだ豚肉も適当な大きさに切る。鍋には少々油を敷いてまずは豚肉を炒める。その後ににんじん、じゃがいもも加えて炒め、玉ねぎも最後に投入する。全ての食材がしんなりしてきたところで水を少々加える。食材が半分浸るくらいの量だ。その後にハーブと少しの塩で味付けして、蓋をする。10分ほど煮込めば、豚のポトフが完成だ。


コンソメとかはないのでそこはハーブで代用。灰汁が出るのはこまめに取る。この手間だけでだいぶ美味しさが変わるからだ。肉料理と灰汁は一生の付き合いだからな。


その合間に、シスターから預かってきた今朝焼きたてのパンを温める。後片付けなんかもしてる間に、昼食の完成だ。


「小さいのにしっかりとした料理が出来るなんて凄いね。」


フィーナさんに撫でられ褒められる。子供で良かった。ありがとう神様。


「野菜もお肉もたっぷりで美味しい!」


「子供の料理と侮っていたけど、随分本格的だね。」


「こりゃ美味ぇな。下手したらカミさんより料理美味いんじゃないか?」


みんな美味しそうに食べてくれて何よりだ。ちなみにムドーさん、前世の経験上それは絶対に奥さんの前では言っちゃダメだからね。前世で旦那さんに悲壮な顔で泣き疲れたのを思い出す。



こっちの世界じゃ、お肉は焼くのがメインだからなー。この辺も調理法を徐々に街中に浸透させないと。




「ムドーさん、ダンジョンに潜るには、冒険者じゃないと入れないの?」


昼食後の休憩でムドーさんに話しかける。


「たまに駆け出しの騎士の鍛錬や野営訓練なんかもしてるから、冒険者じゃないとって縛りはないと思うぞ。そのかわり騎士でも冒険者登録してないと、素材や肉の換金が出来ないからほとんどは冒険者登録はしてたりするけどな。」


そういう人達は一時的に登録したりするらしい。冒険者登録は簡単な手続きで済む代わりに、依頼をこなさないと直ぐに資格が失効になってしまう。それでも再登録も簡単に出来るので、一時的に登録する人も多いようだ。


「冒険者登録って何歳からでも大丈夫なのかな。ムドーさんが言ってたダンジョンに潜る仲間なんだけど、孤児院の仲間なら心強いなって思って。」


「素材の交換ならお前が出来るから、わざわざ登録は要らないんじゃないか?あとは孤児院の子供なら街の外に出る身分証さえあれば問題ないはずだ。」


「それなら大丈夫。声かけようと思ってるメンバーは身分証持ってるから。」


「まぁ信頼できる奴なら構わねぇが、子供同士で無茶はするなよ?」


「はーい!」


なんかお前の返事は不安になるんだよな、と失礼なことを言われる。


帰ったらシスターと本人達の許可を貰おう。



こうして午後は、街までまた4時間近くかけて戻ってきた。ムドーさんとも相談したけど、俺の足だと大人が日帰り出来る距離が難しい。ダンジョンに挑むなら、野営する必要があるからちゃんとシスター達に話すように伝えられた。


明日は野営のレクチャーをしてくれる約束をして、冒険者ギルドの前で別れる。正直4時間も歩いたら、街中育ちの俺からしたら体力的にキツい。


こりゃいろいろとトレーニングも考えないとな。肉屋は身体が命だからな。

別タイトルの小説は少しだけ構想模索中です。暇つぶしではないですが、こちらの更新を調子いい間は続けます。

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