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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
3/22

森とグリーンボア肉

さて、冒険者ギルドで初心者かつ小人族向けの装備を借りて、街の通行門までやって来た。


生まれてからこの街の中で育ったため、初の街の外の世界になる。


俺も年頃の子供並みには、はじめての土地にはワクワクする。しかも待っているのは本物の冒険だ。


「いいかコータ。あんまりはしゃいだり気ぃ抜いたりするなよ。滅多なことはこのメンバーで起こさせはしないが、お前が勝手にどっか行ったらどうしようもねぇからな。」


「はーい。」


返事はするもののウキウキする声は抑えられなかった。中身はおっさんでも、こういうところは本来の年齢に引っ張られる。


「とりあえず、しばらくはパーティの補助員の役割をしてもらう。補助員の役割はわかるか?」


「補助員は、パーティが倒した魔物の素材や肉を回収したり、戦闘が起きたらパーティの荷物を預かる人。仲間が怪我したり行動不能に陥ったら、素早く治癒師を読んだり、パーティの連携役もこなす人ってとこかな。」


すらすらと補助員の役割を話す。この辺りは、冒険者を志す以上、情報収集した内容で理解した。最も志してるのはギルド直営の精肉店だけど。


「…ただの肉バカじゃなかったんだ。」


アルルさん、心の声が漏れてるよ。



「そういえばコータは冒険者見習いの試験をパスしたってことよね。この街のギルドの冒険者見習いだったら応募が殺到したんじゃないの?」


「私も毎回冒険者見習いの枠には凄い数の人が応募するって聞いたことある。」


確かに冒険者見習いは、人気の見習い職だ。


この街は側に複数のダンジョンがあるし、一攫千金も夢じゃない。それに見習い制度が適用される年齢なら、手取り足取り教えて貰えて、武器の支給なんかもあるので、一から自分で目指すよりも確実だ。ちなみに見習い制度は6歳から15歳の成人までが対象だ。


「そういや俺もとりあえずギルマスから預けられただけだからな。コータって最年少の見習いなんじゃないか?」


そうムドーさんが問いかける。


「うん。マスターからも冒険者見習いでは最年少で主席って初めてって言われたなぁ。」


「「「はぁ!?」」」


パーティメンバーが一斉に振り向く。


びっくりした。



「主席なんだ。凄いね。」


そう言ってフィーナさんが頭を撫でてくれる。幸せ。撫でられて調子に乗ったまま語る。


「うん。頑張って施設のみんなと特訓したからね。武術と魔法と筆記の試験があったんだけど、全部1番だったみたい。」


そう。俺が幸運だったのは、孤児院に稀な才能を持った仲間がいたこと。


騎士学院に通うラスターとは小さい頃から剣の相手をしてたし、魔法が得意なリッツにも魔法を教えて貰っていた。


孤児院ということで、様々な種類の本も寄付されたので、本好きでシスター見習いのリタと競うように知識を貪った。


物心ついた頃からの習慣もあって、そこらの子供相手なら負けない自信がある。


「まさかの天才か。こりゃギルマスが悲壮な顔でお前を預けに来た理由がわかった気がする。」


優良物件の就職希望先は肉屋だもんなー、と肩を落とすムドーさん。



そんな話をしているうちに通用門で手続きとなった。


街に人が出入りする為には手続きがいる。多くは身分証を求められるが、俺も冒険者見習いになったので一つ身分証を手に入れた。



「気を取り直して、今日は初日だからダンジョンや遠出はしない。街の外にいる魔物の討伐をする。ついでに肉と薬草の採取依頼を貰ってきたから特定の獲物に当たりをつけるぞ。」


ムドーさんが説明する内容を頭に入れる。


どちらの依頼もこの街の近くのトルネーの森で達成出来るそうだ。


薬草は傷薬や料理のハーブにも使われるブフの葉。魔物肉の依頼としては、グリーンボアの肉だ。グリーンボアは名前の通りに緑色のイノシシだ。その肉は豚肉のようだが淡白な味で、肉通の俺としては煮込みで食べたい豚肉だ。


「あとは、コータの初戦だから、いい肉の採れる魔物が出れば倒すぞ。」


流石ムドーさん。わかってらっしゃる。



街を出て東の道を進むと、直ぐに森が見えてきた。森の手前で、うさぎ型の魔物に出くわす。


「一角うさぎか。初戦の相手にはいい魔物だな。せっかくだから一度だけ魔物とやり合ってみろ。」


そう言って、補助員であるはずの俺を押し出すムドーさん。あの、早速話が違ってきてるんですけど。



それでも目の前の魔物が消えるわけでもない。それに、どのみち通る道だ。


初心者用の銅の剣を構える。


一角うさぎもこちらに気づいたようで、こちらに向かって駆けてくる。


「俺らがサポートするから怯まずに行け!」


ムドーさんからの激励を受けて、僕も駆け出す。



一角うさぎは名前の通りに立派な角を突き出して、そのまま突っ込んでくる。


ぶつかる間際に右手に身体を倒して、すれ違いざまに剣を振るう。



ピギッ。


という鳴き声の後に、ドシンという音がした。

振り向くと、倒れるうさぎの姿がある。



「初戦でスピードのある一角うさぎの動きを見切るなんて、やるじゃない。」


ナターシャさんからお褒めの言葉を頂く。



「じゃあ、あとは俺らの出番だな。」


そう言って俺の後方を見つめる4人の視線を追って、振り向く。



本日の依頼の主達がこちらに向かって疾走してきていた。





それからは補助員として動き回った。

初めて見た冒険者の戦闘は圧巻の一言。



ムドーさんの剣術は、魔法でないことが不思議なくらい凄まじい斬撃を放つ。アルルさんは、ある時は弓矢、ある時は忍びのように急所をついて敵を倒す。ナターシャさんも、剣と並行で風の魔法で斬撃を放ち、誰よりも数を倒していた。


ちなみにフィーナさんは女神なところがピッタリな治癒師(ヒーラー)。補助魔法なんかも使えるみたいで、たまに飛んでくる戦いの余波を魔法の障壁で防いでくれる。



薬草採取も無事に終わり。結局はグリーンボア以上に心惹かれる肉モンスターには出逢わなかった。その代わりに、大量のグリーンボアが手に入った。



ちなみに俺は空間収納という、商人なら口から手が出る程に欲しい魔法を習得している。肉屋とて商売。異空間に物を収納出来て、かつ時間も進まないという魔法を聞いて、もちろん俺も習得を試みた。


実際は4歳から最近まで約2年を掛けて習得した、血と汗と涙の便利魔法だ。リッツは3時間でマスターしやがったが。



そんな俺の便利魔法は、グリーンボアの肉や毛皮の回収に一役買った。


「すげー便利な魔法覚えてやがんな。一家に1人コータが欲しい。」


因みにその便利さから、女神ことフィーナさんにも教えて欲しいと頼まれた。とりあえず俺の2年間の集大成は素晴らしい成果を挙げた。



冒険者ギルドに戻ると、報告と肉以外の素材換金はムドーさん達がしてくれるそうなので、お礼と明日の集合時間を確認してから、俺はダノンおじさんの元へ急いだ。




「こりゃまた偉い数のグリーンボアだな。」


冒険者ギルド直営の精肉店、の裏側に魔物肉の解体用の倉庫がある。木で出来た簡易な倉庫で、中にはゴミを入れる箱や袋、解体で使うノコギリやナイフ、ハサミなんかが置かれている。


そこに山のように積まれたグリーンボアの身体。

空間収納に入れるとはいえ、バッチリ血抜きもしてある。


こりゃ骨が折れそうだなと、ナイフを手に取るダノンおじさんの横で、俺もナイフを手に取る。


「ん?おい坊主。解体は遊びじゃねぇんだ。危ねぇから刃物は置いとけ。」


「でもこの数だと大変でしょ?僕も手伝うよ。」


「手伝うっつっても、おめぇ解体できねぇだろ。」


「出来るよ。」


「…だから大人しく引っ込ん…あ?」


「だから解体出来るってば。」


見栄でもなんでもなく、解体なら出来る。

多少の勝手は違うかもしれないが、地球では山で仕留めた猪を捌いたこともある。


さすがに初見の変な魔物なら無理だが、グリーンボアを見た限り、ほぼ猪と一緒だろう。それに、たまにダノンおじさん本人に解体作業を見せてもらってたので、手順もしっかり覚えてる。



大量のグリーンボアがある為か、それならばと一頭任される。


ひとまずは静観する姿勢のようで、ダノンおじさんの視線が手元に刺さる。


ここは師匠に弟子の実力を見せる時だ。

そうして俺は張り切って解体作業を始めるのだった。



数分後。


俺の前には部位分けされた肉の塊、骨、内臓などが並んでいた。


ふーっ。久しぶり…というか今世では初めて解体したから緊張した。我ながら悪くない出来だと思うんだけど、どうだろう。


ちらりと終わったと言う意味も込めて、ダノンおじさんの方を振り向くと、おじさんは固まっていた。



「おじさん、終わったよ。」


そう声をかけると、マジマジと俺を見て口を開く。


「お前、どこで解体なんて覚えたんだ?」


「たまにダノンおじさんが解体を見せてくれたんじゃないか。」


それだけでこんなに…と考え込むダノンおじさん。


まぁ普通は何度も経験して身につける技術だから、驚くのも無理ない。それに、どうやって魔物を解体するかなど書籍にわざわざ残す需要もないので、一般的には肉屋から肉屋へ、親から息子へ引き継がれるのがこの技術だ。


それをやってのけたって事実に、今更ながらに思い当たり、やり過ぎたかと内心冷や汗をかく。



しばらくして、ダノンおじさんは何かを諦めたかのように長い息を吐いた。



「手の届かないところで何かされるくらいなら、俺が面倒見りゃいいのか。よし、出来るんなら話は早い。とっととこの山を処理するぞ。働いた分の肉はタダで渡す。」



タダ肉と言う言葉で、俺のヤル気に火が付く。そこからはあっと言う間だった。


もともと本職のダノンおじさんにスピードでは圧倒的に敵わないながらも、2人でやる分作業は捗った。


帰り際には、約束通りグリーンボアの肉を手に入れる。明日は早朝に手伝いに来る旨を伝えて、精肉店を後にした。

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