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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
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妖精導きと鶏ラーメン

「第一回緊急パーティ会議を始める。」


森の比較的にひらけた場所で、暖をとるのと魔物避けのための火を焚いて、子供達みんなで取り囲む。


円形になっているので、それぞれが前方に気を配れば見張りも不要だ。


ここは前世を含めると最年長の俺が司会進行を務める。



「まず、現状を整理する。ここは初心者向けのダンジョン『迷いの森』で、名前の通り迷路になっているが、魔物は弱く、ほとんどマッピングされてるので通常迷うことはない。けど、異変が起きてる。1人ずつ異変をあげてくれ。」


「魔物が強くなっているでござる。」


「あと、ダンジョンの道が急に変わったことか。ダンジョンで異変が起きている。」


「道が変わっただけじゃなくて、常に変化してるのも奇妙だよね。」



コジロー、ラスター、リッツと順に異変をあげていく。


「で、何が起こるかわからない現状、本来ならすぐにダンジョンを離れてギルドに報告。調査が終わるまで立ち入らないのが定石なんだけど、帰り道がわからない。帰る方法について、思いつく限りあげてくれ。」


全員がしばらく考え込む。



「…この異変の原因って、冬の女神様なのかな。」


「タイミング的にそうだろうな。冬の女神様の影響で何が起きてるかがわかればなんとかなりそうだが。」


「ダンジョンであるなら、ダンジョンボスを倒すのはどうでござるか?」


ダンジョンがダンジョンたる所以は、その魔物や宝を生み出す特性と、必ずボスがいることも理由のひとつだ。


「確か迷いの森のボスはシルバーホーンディルだな。でも、ボスを倒したところで森を出れるかは別問題じゃないか?」


ボスを倒したらダンジョンを出られるなんてご都合主義ではない。帰り道も含めて冒険だ。


「会って話を聞けたりしたらいいんだけどねー。」


「ボスの元は無理だけど、精霊様のところには連れてけるよ?」



突如頭上から透き通った可愛い声が響く。


見上げると、そこにはティン●ーベルのような妖精が羽ばたいていた。



妖精を見上げるみんなの口はポカンと空いていた。妖精なんて一生に一度見ることがあるかわからないほど希少な存在だ。


「精霊様?…君はいったい…」


「私はこの森の妖精だよ!シアラって呼んでね?精霊様はこの森の精霊様だよ。森のことなら何でもわかるのー!」


パタパタと飛びながら話す妖精。



全員に目配せをすると、付いて行っても大丈夫か判断できる人間はいなさそうだ。


「待ってても何も変わらないし、ついてってみるか?」


このメンバーならよっぽどのことがなければ多少の魔物でも大丈夫だろう。無理なら逃げるし。


「それなら私についてきてー!!!」



ひらひらと舞う妖精の後を追うことになった。




…………………………………


一方の冒険者ギルドの隣にある肉屋と酒場では、チャンとケイトによる試作メニューが作られていた。


「お酒はわからないでアルが、寒い日はスープがいいアル。」


「温まる料理がいいしな。」



すっかり兄と妹として仲良くなった2人。施設ではあまり接点がなかったが、共通の趣味もあって話が弾みながら調理をする。


今使っているのは、鶏ガラをとにかく煮込み続けてできる鶏ガラスープを作っている。もちろん様々な料理に使えることも踏まえて多めに作っているのだ。



チャンは最近新しく施設に加わった子供だ。人攫いに連れ去られる前は、東の国で親が麺や饅頭を経営する店の手伝いをしていた。


コータからすると、小さいながらに器用に料理が出来る特異な子供だ。こと中華系の料理についてはコータも敵わない腕前をしている。


もともと料理好きなこともあり、ケイトとは仲良く互いの料理技術を交換しながらこうして酒場のメニューを考案している。



ひとまずはトッシン鶏が豊富だったが、捨てられかけている鶏ガラを見て、チャンがスープにしたいと申し出たのがきっかけだ。


今はそのスープをどう使うかを考えている。


「やっぱり寒い日にはラーメンがいいアルよ。」


酒と一緒ではないけど、シメの料理としてはいいのではということで、あっさりとした麺料理を出すことにした。


麺づくりは本場のチャンが手際よく打っていく。スープは基本は煮込み続けるので、ケイトはラーメンの具材つくりをする。


鶏には鶏をということで、別の鍋で下味をつけた鶏むね肉を茹でていく。ソースを用意すればツマミにもなる鶏ハムがほどなくして完成する。


もちろんラーメンにものせる予定だ。あとはスープの味から、ネギの千切りを大量に用意する。酒場のシメなので簡単な具材で済ませる。





夕方から夜に切り替わる時間帯。酒場では徐々に客が入り始め、同時にチャンの不安が膨らんでいた。


「コータ達、まだ帰らないアルね。」


「明日に備えて早めに帰るっつってたもんな。」



コータ達、孤児院の年長組が帰ってこない。

明日から野営なので、今日は夕方には孤児院まで帰る予定で、チャンを迎えに来ることになっていた。


厨房の扉がガチャリと開く。ダノンさんとシシリーが神妙な面持ちで入ってきた。


「…コータ達だが、今日は戻らない可能性が高い。」


ダノンさんが真っ先に告げる。


「みんなはどうしたあるか!?」


チャンが不安げな声で尋ねる。既に目には涙が溜まっている。そんなチャンをシシリーが抱きしめる。



「寒波の影響でかわからんが、迷いの森が暴走してるらしい。本来の出入り口が閉ざされて、外からは誰も入れない状況だ。」


「じゃあ子供達は中に閉じ込められたっていうのか?」


「ええ。しかも今日は彼等以外は誰も迷いの森には潜ってないみたいなの。日帰りでもある程度の備えはあるから大丈夫だと思うんだけど。」


「ふ、ふぇーーーーん。こわいアルよー!」


とうとうチャンは泣き出した。

孤児院の兄弟達の無事がわからないので当然の反応だ。


「とりあえず酒場は酒場で営業が始まるだろ。俺がチビは孤児院まで送る。シスターにも知らせた方がいいだろうからな。」


そう言ってダノンさんは泣き続けるチャンを抱いて、酒場を後にした。






酒場の中は不安げな雰囲気が消えなかった。


それでも客はやってくるので、オズワルドがドリンクを、ケイトが料理を、それらの配膳や会計をシシリーがいつも通りにこなしていく。


酒場にくる冒険者達の話題も、迷いの森と孤児院の子供達の話で持ちきりだ。


ギルドとしても調査隊を派遣して、なんとかダンジョンに入れないか試行中らしい。結果は芳しくないらしいけど。


みんなの不安と反比例して、新しいメニューである鶏ラーメンは好評だ。


寒さが残る中、そして不安が残る中で、あっさりとした旨味のある麺が、寒さも不安も溶かしてくれる。



「あの肉屋になりたい変わった坊主のことだ。肉屋になる前にくたばりやしないさ。」


「ラスターの剣の腕は俺が保障する。あいつは迷いの森の魔物如きが敵う相手じゃねぇ。」


「リッツは化け物よ。あの子がいれば、パーティが全滅なんて間違ってもあり得ないわ。」


「東の国のチビはしぶといからなー。なんとかなるさ。」


「あのシスター見習いの子がいるんなら、死にたくても死なないんじゃない?」



全員が会計をする頃には、そんなことを言い残していく。長く街を離れていたシシリーや、街の人との交流が薄いケイトは知らなかったが、この街に住む人たちは孤児院の子供達をよく知っていた。


だからこそ、命の心配は皆無とは言えないが、魔物への脅威は全く感じていないかった。





「迷いの森が吹っ飛ばなければよいがのう。」


小さな老人の呟きは、誰にも届かなかった。

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