ホットドッグと異変
迷いの森の探索は、はっきり言って順調だった。
全員が初心者にも関わらず、そもそもの戦闘力が高いからか魔物に遭遇しても一瞬でかたがつく。
ラスターなんて、オズワルドさんに貰った剣の切れ味が良すぎて、自分の剣に途中から交換していたくらいだ。鍛錬にならんとのこと。
リッツも杖の効果が凄いらしく、魔力を低燃費で使える上に、杖自体が魔法を保持してたりもするみたいで、杖の解析や無駄に魔法を放って実験をしている。
まともなコジローも、新しい武器を手に出てくる魔物を次から次へと倒している。
この面子だとサポート職の俺とリタはゆったりとグループの最後尾を歩いていた。
俺はサポーター、リタは治癒師で、俺は必要な素材があれば全員を呼び止め、迷路を把握しているので後方から進路の指示を飛ばす。リタは誰も怪我しないのでぼーっと歩いている。
時折、横から出てくる魔物を瞬殺で殴り飛ばしているのを見て、リタを怒らせるのはやめようと思った。
とりあえず今日は森に慣れること、出入口付近の地図を頭に入れることを中心に進んで行く。
「なーんか変なんだよな。」
昼になったので、適当な広場で昼食をとる。
ダノンおじさん特製の腸詰めを焚き火で丁寧に炙っていく。今日は便利なリッツもいるので、鍋はリッツに魔法で火加減を任せている。
鍋には歯切れ野菜とシスターのハーブで温かいスープを作っている。腸詰めを炙っている間にパンを温めて、切れ込みを入れる。今朝作ってきたザワークラウトを挟み、焼きたての腸詰めを挟む。その上には特製ケチャップとお好みでマスタードをかけてもらう。
ホットドッグと野菜スープの完成だ。
途中でコジローが林檎を発見したので、水に混ぜて果実水として頂く。
野外の昼食にしては豪華だろう。本来ならもっと食や荷物にシビアになるものだけど、今回は空間収納を使える俺とリッツがいる。
しかも、本来は魔力を気にするリッツが壊れた魔力量を持っているので、魔法は未だ便利機能と実験にしか使われていない。
中身はおっさんの俺からしたら、この子達の行く末が非常に怖い。しかし、冒険者として一人前になるなら俺もこの子達以上を目指さなければ。
さて、話を戻すと、今日の森はおかしい。
「春なのに雪が積もってるからおかしく見えるだけじゃないの?」
リッツが手近な薬草を摘んでは放り込み、何やら怪しい薬を煎じながら答える。
「勿論、春なのに雪まみれの森ってだけで前と違うんだけど。」
なんて言ったら伝わるだろうか。
「…私もこの森おかしいと思うよ。ダンジョンが初めてだからわからないけど、ムドーさん達の話と違う。」
リタから思わぬ援護があった。
「違うって何がでござるか?確かに聞いていたよりも魔物の数が多い気はするが。」
コジローが首をかしげる。
「魔物が多いのは、この雪で魔物が活発になってるから。でもそれだけじゃなくて、出てくる魔物がおかしい。私が教えてもらった魔物の上位種まで出てくる。」
それは俺も感じていたことだ。
もちろん前回来た時と同じ魔物も出てくるのだが、ゴブリンではなくゴブリンロード、森オオカミではなくウルフファング、グリーンボアでなくエメラルドボアなんかも出てきた。
エメラルドボアに至っては、この森のボスに匹敵するような魔物で、間違ってもダンジョンの浅い場所では出てこない。
「それは確かに奇妙でござるな。」
「それに偶にコータが悩む道が出てる。この前マッピングを確認したのに、新しい道が出来ているのはおかしい。」
俺が引っかかっていたのはそこが大きい。ムドーさん達によると、このダンジョンは迷路になっているが、マッピングが変わらないことでも知られている。それ故に初心者向けであり、数日で道が変わるという話は聞かなかった。
「…じゃあ、帰り道が変わるのは普通じゃないのかな。もっと調べとけばよかったなぁ。」
リッツがぽそりと呟く。
「帰り道が変わるってどういうことだ?」
「このダンジョン、入る前から魔力が充満してたから嫌な感じがして目印の魔法を仕掛けながら来たんだ。その目印が今いろんな場所をぐねぐね動いてる。そういうものなのかもしれないけど、ムドーさん達の口ぶりだと普通の森と同じような感じなんでしょ?たぶん今から元に戻ろうとしても戻れないと思うよ。」
「しかも、少し前からこのダンジョンには俺たち以外の気配がなくなった。恐らく他の冒険者に救援も呼べないだろうな。」
ラスターも補足して、いよいよ深刻になってきた。
「…みんな、今度から不自然だと思ったら何でもいいから言ってくれ。」
とりあえず不安な要素しかないことはわかった。
それから俺達は、当初の予定よりもだいぶ早く迷いの森を引き返すことにした。
5分も歩いたところで、リッツの懸念が現実になったことを知る。
「道がわからない。」
手元に持っている地図が全く役に立たなくなった。
真っ直ぐ一本道のはずの道が5つに分かれた時点でお手上げした。
「なんだか面白くなってきたね。」
「本当に帰れなくなりそうでござるな。」
「急に魔物も出なくなってきたな。」
「…コータ、どうする?」
冒険者たるもの備えは大切ということで、幸い食料や水はある。もしもに備えて、大きめの毛布も空間収納にしまってあるので、ダンジョンで野営することは問題ない。
「問題はこのダンジョンが安全なのかと、帰る手段があるかなんだよな。」
何か危険なことの前触れなら、一刻も早くダンジョンを抜けるべきだし、そうでなくても道が変わる森を抜ける方法があるのかが疑問だ。
前世は探偵ではなく、肉屋なので頭を使うことは得意じゃない。迂闊に動いてさらに迷うと困るので、手頃な場所でみんなで知恵を出し合うことにした。




