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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
13/22

牛すじ煮込みとレバーペースト

街に戻ると、コジローとリタの防具と武器を購入した。リッツは潜在魔力が多いため、物理攻撃にもひのきぼうで充分対処できると判断され、新装備は見送られた。


本人は拗ねてたけど。




コジローは一振りのナイフと、チェーン付きのクナイ、皮の胸当てとウエストポーチを購入した。


リタの場合は神官服の鑑定からスタートした。



ムドーさん達が贔屓にしている鑑定士に依頼したところ、非常に高性能な神官服で驚愕していた。


なんでもシスターが有名な巫女様が着なくなった巫女服を貰って仕立て直したらしく、素材が非常に貴重とのこと。並大抵の剣士じゃ切れない防御力だそうだ。


あとは丸腰は心許ないので、冒険者ギルドで杖を借りることにした。あくまでリタは今回しか参加しないので武器の購入を本人が渋ったからだ。



買い物をしているうちに、外の気温が急激に下がってきていた。鑑定士の元を去る時には、吐く息が白くなっているほど。


「明日から出発だってーのに、まさかの冬の女神のおでましか?」


行き交う人々も足早に家路を急いでるようだった。



この世界は春夏秋冬それぞれを司る女神がいる。今は春なのだが、数年に一度、春に真冬が来る時がある。


春の女神が風邪を引いた、冬の女神の悪戯など、呼び名は様々で、1日で終わる時もあれば1週間程続く時もある大寒波だ。



そして、この寒波は一種のイベントでもある。風邪を引いた春の女神に精を付けてもらい、機嫌の悪い冬の女神にご馳走を振る舞うことで、一日も早く暖かな春が戻るように人々が祝うイベント。



俺はこのイベントを異世界版クリスマスと呼んでいる。特に宗教云々は関係ない。このイベントは精がつく豪華な料理、肉を聖なる夜に食するイベントなのだ。



「お前たちも風邪引く前に帰るんだぞ。で、冬の女神が帰るまではダンジョンに潜るなよ?凍死するからな。」



この寒波でダンジョンに潜る酔狂な冒険者はいない。そのかわり、冒険者ギルドから特需の依頼が発行される。肉特需だ。このイベントの時は通常の3倍以上の値段で冒険者ギルドが肉を買い取る。なぜなら、それだけ肉の需要が高まるからだ。


ムドーさん達は明日別の依頼で旅立つので、冒険者の使命として街周辺で魔物の討伐をするように言われた。冒険者の稼ぎどきだからだ。



明日の準備のあるムドーさん達と別れて、シシリーやケイトに会いたいという皆んなを連れて、酒場に入る。その頃には全員の身体が真冬の寒さで凍えていた。



「はーっ。寒い寒い。」


「冬の女神様も急に来るなよなぁ。」


「春の女神様、大丈夫かしら。」


それぞれ呟きながら扉を潜る。



「ふぉふぉふぉ。随分と小さな客が来たのぉ。」


オズワルドさんが、酒場の暖炉の前に腰掛けながら出迎えた。



「お爺さんも小さいよね。」


初対面のリッツが、ボソリと失礼なことを言う。


寒さに震える俺達は、ひとまず暖炉で暖をとることにした。


「お爺さん、ケイトとシシリーは?」


「2人で食材の買い出しに出かけとるよ。もうそろそろ帰るんじゃないかのう。」



話しているうちに、噂の2人が帰ってきた。

2人が入る時には外は雪が降り始めたみたいで、薄っすらと雪を纏っていた。


「みんな久しぶりね。元気だった?」


そう微笑むシシリーは女神のごとく綺麗で、でも年齢の幼さもあって可愛くもある。


優しく綺麗なシシリーは孤児院の人気者で、直ぐに全員がシシリーを囲んでわらわらと話し出す。


そんなシシリー達を優しく見つめながら、買ってきたであろう荷物をケイトがしまいにいく。



「本格的に吹雪いてきたから、みんな早く院に戻った方がいいわ。」


外を見ると既に視界は真っ白だ。


「げー。絶対これ寒いやつじゃねぇか。」


「気が滅入るでござる。」


「せめて防寒着があればいいんだがな。」


そう話していると、ドサリという音を立てて酒場の扉が開く。



「やっぱりここにいたアル〜!!」


そう言って入ってきたのはチャンだった。

白いもこもこに黒い柄の入った防寒着を纏っているので、最初は小さなパンダが入ってきたかと思った。



チャンは入るなり暖炉の側に駆け寄る。


「うー。寒かったアル。寒かったアル。」


歯をガチガチ言わせて暖まる。




「みんなの防寒着持ってきたアル。早く帰るようにシスターが言ってたアル。」



そう言ってチャンは持っていた包みを広げた。そこにあるのは、孤児院の定番であるシスター特製防寒着。その名も『もこもこ着ぐるみシリーズ』だ。


今チャンが着ているパンダもそうで、この着ぐるみがハイスペックだったりする。防水・防滑・防寒機能が備わり、驚くほどに暖かい。これも援助してもらった毛皮をシスターが夜なべして仕立てたものだ。



流石に着ぐるみプレイはと抵抗があった俺ですら、今はこの着ぐるみ達が居なければ冬を越せないと思わせる代物だ。


春先の格好だった俺達は我先にと着ぐるみを纏う。


ラスターは狼、リッツはシロクマ、コジローは

犬、リタは兎、そして俺は虎の着ぐるみだ。


「いつからここは魔物の飼育場になったんだ?」


よっぽど俺達よりも魔物っぽい、熊の毛皮を纏ったダノンおじさんが入ってきた。


「ガキ達はさっさと帰った方がいい。そこのパンダっ娘もこの期間は休みだ。」


流石に子供の足でこの吹雪の中を通うのは大変だから有難い。


「その代わりシスターに伝言頼む。コータはしばらく借りるってな。」


「へ?」


「あ?今は虎でも猫でもなんでもいいから手が欲しいんだ。寝床は提供してやるから住み込みで働け。」


「もしかして給金弾んでくれる?」


「結果が出せたらな。」



というわけで、俺はダノンおじさんの指示で肉を解体する。ダノンおじさんは店に出るから、俺1人で解体になる。肉を傷める訳にはいかないので基本は寒い倉庫での作業になる。


チャンが持ってきてくれた着ぐるみがあってよかった。肉と一緒に凍るところだった。




黙々と解体作業をしていると、酒場からいい匂いが漂ってくる。単なる塩胡椒で焼くだけでは出ない、複雑な香り。



ケイトには俺が知ってる肉料理のほとんどを伝えている。そして、実は俺が前世の記憶を持っていることを唯一知っている人物だったりする。


シシリーが絡まなければ勘のいいケイトに、俺が不自然に賢く、知識があることがバレてしまった。その代わりに俺がケイトに差し出したのは、前世の料理知識。


あくまで肉が絡まないと料理をしなかったので、偏りのある知識だが、ケイトにとっては充分に技術を向上できるものだったようだ。



本日の肉屋の営業が終わり、ダノンおじさんも交えて解体作業をする。作業の終わる目処がついたところで、一息入れる意味も込めて夕食をとることにした。



孤児院の夕食は俺以外に帰ったみんなにダノンおじさんが肉を渡してくれた。俺の給金から引いておくそうだ。


ここまで買いに来るのはかなりの労力が必要なので、帰りに渡してくれてありがたい。俺の代わりに今日はチャンが夕食当番だ。



肉屋の裏口から厨房を覗くと、ちょうど酒場が開店した時間らしく、ケイトとシシリーが慌ただしく動いていた。


この寒さで行く宛のない冒険者達で、酒場は大繁盛しているようだ。



「ケイト、もしかして僕達も手伝った方がいい?」


どう考えても、チャンも居ないし配膳から皿洗いから回っていなさそうだ。



「そうしてくれると助かる。」


「ダノンおじさん。」


「解体作業は明日の朝でも出来る。今はこっちを片付けねぇと飯も食えなさそうだな。」



配膳にダノンおじさんが加わり、俺は皿洗いを中心にする。




忙しいことを見越して、そして肉の需要が高いことも見越したメニューが仕込んであった。


固いので人気がなく、余っていただろう牛すじ肉。それを丁寧に下処理してから調理した、牛すじ肉の赤ワイン煮込みが今日の酒場のメインだ。


肉屋が併設していて、かつ人気のない部位なだけあってかなりの量がある。これを見ただけで、酒場のメニューが劇的に良くなったことがわかる。


安くて手軽な鶏肉は、庶民の食卓の需要が高いので、から揚げとナゲットは今日はおやすみらしい。



その他にも、一般家庭ではあまり調理しない肝臓を使って、数種類のレバーペーストが作られていた。鶏、豚、牛、羊のレバー。それぞれ異なるハーブや野菜で味を変えている。


これもお酒に合う上に、作り置き出来るから手軽な料理だ。もちろん、ちゃんとした調理手順が必要なので、ケイトの腕前がここにも現れている。


あとは大量のパンと芋、ダノンおじさんが作ってくれていた腸詰めのストックを、ザワークラウトを添えて出しているみたいだ。



冒険者達は食べるのが早いので回転も早い。それでも、基本は酒でも飲んで温まりたかった人が大半みたいなので、なんとかケイト1人の調理で回っているみたいだ。


それにしてと、評判が評判を呼んで、かつ暖まる料理だからか、牛すじ煮込みの需要がすごい。下処理が大変だから、切れないようにケイトも追加で下処理を始めたくらいだ。



結局は寒波の影響で客足が途切れることなく、閉店の時間を迎えた。


働き通しだった全員が残りの牛すじ煮込み、レバーペースト、パンで遅い夜ご飯を食べる。


「すじ肉がこんなに柔らかくなるのか。」


牛すじ煮込みに柔らかさと温かさに、全員がホッとする。少しスパイスが入ってるのは、寒いからケイトなりのアレンジなんだろうな。



ビュービューと吹雪く音を聞きながら、早く春が戻るように全員が祈りを捧げた。

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