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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
12/22

塩漬け肉の試作と試験

孤児院の年長組は、孤児院の仕事の主戦力になっている。もちろん年長組がいないと成り立たないことがないように、基本は年少の子達の何人かと手分けしてやる。


年長組が抜ける間の心配は少ないが、普段よりも仕事の消化具合が変わる。みんなそれが分かっているから、早朝から起きて各々の仕事をさくっとこなしていく。



リッツはお得意の魔法を便利に使って洗濯を一気に片付ける。


リタは朝の礼拝や参列者に配る護符の作成等、日課をこなしていく。


ラスターやコジローは朝の鍛錬から始まって、庭の草むしりや井戸水の組み上げ(この2人が組み上げてきた水を基本的には生活用水としてつかっている)、小さな子供では危ない箇所の掃除をしている。


この孤児院を訪れる人が驚くのは、なんといっても子供達の清潔感や孤児院の綺麗さだろう。


これは綺麗好きなシスターの性格を利用して、リタと俺が組んで築き上げてきたものだ。



子供の死亡率は高い。特に魔物蔓延るこの世界だからというのもあるが、地球でいう発展途上国で衛生問題が指摘されているように、この世界も衛生管理の大切さは浸透していない。


科学を補う魔法がある世界だけど、知識は地球以上に重要になる。検索すれば情報がヒットする地球と違って、この世界は謎の方が多いからだ。



そんなわけで、俺は担当する朝食作り調理場付近の掃除を済ませる。皿洗いはチャンがいるから問題ないだろう。



冒険者ギルドの前に集合することを念押しして、俺は1人先に冒険者ギルドへ向かう。ダノンさんの手伝いと昨夜の酒場の様子を聞くためだ。



酒場の入り口に着くと、ちょうど荷物を抱えたケイトに遭遇する。



「おはようコータ。随分と早いな。」


「ケイトこそ。その荷物どうしたの?」


両手にかなりの量の荷物を抱えている。


「酒場に住むって話になってただろ?ちょうど騎士学院が休暇中だし、寮から移るなら早い方がいいと思ってさ。」


昨日の夜遅くに寮監の人に報告して、今朝部屋を引き払ってきたらしい。もともと家具付きだったそうで荷物は今持っている分で全てだそうだ。


「…そんなにシシリーと一緒に住むのが楽しみだったんだね。」


「な、いや、ダノンさんの言う通りシシリーだけじゃ危ないから、その、早めにだな。」


顔を赤くして言い訳をするケイト。物凄くイケメンだし、スタイルもいいし、料理もできるし、腕っ節も力仕事な部分もあるだけあって強い。性格もいいんだけど、昔から好きな人…シシリーが絡むと途端に残念になる。


絵に描いた美男美女なだけあって2人共この街では有名で、さらに本人達以外は街中が2人が両想いであることを知っている。


まだ2人がくっつかないのは、ケイトがヘタレなのと、シシリーが無自覚天然なのと、どちらも鈍感でその美貌から町の人たちに静観されているからだ。


ちなみに見た目は子供、中身はおっさんな俺は、前世での彼女も妻もいない歴が年齢と一緒で、万年肉が恋人だったため、リア充に介入するつもりはない。



狼狽えるケイトを居住スペースへ追いやって、ダノンおじさんの元に行く。


倉庫を覗き込むと、朝から肉を捌いている後姿があった。



「美味い塩漬け肉を作るねぇ。」


「塩漬け肉だけじゃなくて、燻製や腸詰めの種類も増やせればと思って。冒険者に は保存が効くものがあると助かるでしょ?それに美味しければ、冒険者以外で食卓にも使えるし。」


ひとまず俺が肉屋改革の第一歩として選んだのは、保存が効く加工肉だ。もちろんターゲットは旅する冒険者だが、美味しければ街でも広まるはず。それに加工肉は塩気があるものが多いから、酒場のつまみも出来るし提供出来るものの幅が広がる。


ダノンおじさんを説き伏せて、少しずつ試作品を作って商品を増やして行くことになった。



基本的に冒険者が買い求める加工肉は、パンチェッタと呼ばれる豚バラの塩漬け肉や干し肉が多い。燻製は手間が掛かるので、設備はあっても依頼がなければ作らないそうだ。勿体ない。


今回は試作品として、まずはハーブもふんだんに使った塩漬け肉を大量に仕込んで貰って、生ハム、ベーコン、サラミを作っていくことにした。


この3つが出来れば後は応用していけば良い。


幸いなことに今年はグリーンボアが大量発生しているので、材料は気にしなくていいとのこと。お言葉に甘えて大量に作る。といっても、俺はあまり時間がないのでダノンおじさんにお願いするのだが。


必ずお酒に合うことを約束したら、やる気を出してくれてよかった。


途中でシシリーも起きてきたのでダノンおじさんの手伝いをお願いした。


シシリーは細いけど大食漢で肉は好物だ。それにケイトの料理にも使えると聞いて俄然やる気が出たみたいだ。…なんであんなヘタレがいいんだろう。


時間になったので俺は冒険者ギルドの玄関へと向かう。既に全員が揃っていた。



街から離れた草原で、アスブレッド達を繋いでムドーさん達が腰掛ける。4人が並んでさながら審査員のようだ。


そして、その前には俺たち子供が並ぶ。ひとまずは実力を見ることになった。


俺は既に分かっているので、ムドーさん達審査員側に座る。あくまで孤児院の中での付き合いなので、みんなの本気は見たことないから楽しみだ。


それぞれの得意分野は伝えてある。


最初はムドーさんがラスターと模擬戦をすることになった。



冒険者ギルドで借りてきた訓練用の木剣を2人が構える。


アルルさんの合図で模擬戦がスタートした。



激しい打ち合いが序盤から始まる。

それに驚愕するのは、ラスターを知らないムドーさん達全員だ。


もちろんムドーさんは力量を測るために手加減しているくらいなので、実力差は歴然としている。それでも、ムドーさんが気を抜かない程にラスターの剣撃は凄まじかった。


ラスターの強さは、バランスの良さだ。


今はまだ子供なので単純な腕力は大人に遠く及ばないが、何かに特出するとこなく、速さ、回避、防御、技、間合い、判断力を成長する身体と共に鍛えている。普段の鍛錬を身体作りに重点を置いているため、身体のブレも少なく柔軟性もある。


ラスターは子供である自分が、将来の自分の阻害にならない範囲で強さを磨いている。子供の頃からの癖は抜けにくい。嫌に大人びた考え方で、個性を単に伸ばすのではなく、総合力をあげる下地作りに力を入れているのだ。


カーンッ!



ラスターの手から木剣が吹き飛び、模擬戦が終了となった。


あわよくばと思っていたのか、子供らしく悔しそうな顔をするラスター。そして、その頭をぐりぐりと撫でるムドーさん。


「こいつは俺の想像以上だ。面白いもん見せて貰った。坊主、騎士なんか辞めて冒険者になったらどうだ?」


「痛ぇ!余計なお世話だ!」



とりあえず俺が分かったのは、俺じゃ既にラスターに勝つことは出来ないことくらいだ。


騎士学院で腕をどんどん伸ばしてるみたいだ。後は意識の差だろうな。



「次は君ね。得意な魔法と苦手な魔法は把握してる?」


そうナターシャさんが声をかけたのはリッツ。ラスターは俺の隣に座って、リッツが前に出てきた。



「治癒魔法は適正がないから出来ないんだ。あとは全般使ったことあるけど、得意不得意はよくわからない。よく使うのは水、氷、火、風の魔法かな。」


「5歳でそこまで出来れば天才ね。魔法を受けましょうなんて馬鹿なことはしないから、私が作り出す的を毎回違う魔法で壊してって。」


そう言ってナターシャさんの周りに、雀ほどの大きさの物体がいくつか現れる。それぞれ色が違うことから、様々な属性を纏った小鳥のようだ。


「相性が悪いと壊せないから注意してね。あと、これは戦闘力の確認だから、小鳥も攻撃するから気をつけてね。じゃあスタート!」


そういうと、ナターシャさんの周りの小鳥がリッツへ向かう。


これ、子供相手に使う魔法じゃないんじゃないか?



「シールド!」


リッツに襲いかかった小鳥が、見えない防御に跳ね返される。


「無属性が使えるのね。」


跳ね返した小鳥達に追い打ちをかける。



水色の小鳥は、突然現れた狼型の炎に食べられて蒸発した。赤色の鳥は水球に閉じ込められた後に凍りつき、緑色の鳥は風の刃に切り裂かれ、茶色い鳥は圧力で潰されたのかペチャンコで地面に落ちた。


様々な魔法の攻防が繰り広げられて、さながらサーカスだ。リッツの凄さは知ってたつもりだけど、ほんの一部だったんだと実感した。



それに、物理攻撃に弱いと思っていたリッツだが、少し傷を負いながらもひのきぼうを強化しているのか棍棒のように振り回して対処している。


まぁセンスは無さそうだが。



「そこまでね。はい、終わり。」



ナターシャさんがそう言うと、小鳥達は消えた。


「孤児院の子達は規格外ばかりってことはわかったわ。魔法の種類や技術力もそうだけど、その魔力量どうなってんの?」


呆れた声でナターシャさんが呟く。


「魔力量だけは生まれつきなんでなんとも。」





その後、コジローやリタの力も確認した。


前の2人程、戦闘にインパクトはないので割愛しているだけで、この2人も規格外だ。


コジローはとにかく猿だ。


アルルさんが嫌だと嘆くくらいに、素早くて手数が多くていやらしい攻撃が多い。忍者のようだと思ってくれたらいい。


リタは規格外中の規格外だ。


治癒魔法も念のため傷ついた魔物を癒すことで確認し、補助系の魔法を見せ、最後に近接戦もする。


ムドーさん相手にお互い素手の勝負をして、近くの岩を砕き、ムドーさんを投げ飛ばしたりしていた。子供にしては巧みな技は、護身術の範囲も超えて立派な戦闘力になっている。


投げ飛ばされたムドーさんが効いたと言ってたから本物だろう。




お昼は仕込んでおいた鶏ハムとレタスのサンドウィッチだ。食後にフルーツも用意してある。フルーツはムドーさん達からの差し入れで、子供達のために調達してくれたみたいだ。普段食べれない果物を食べれてみんな幸せそうだ。


「それにしても、コータが霞むくらいに、他のメンバーがえげつないな。」


可愛い子供達をそう評するのはムドーさん。そしてそれに頷く彼の仲間達。


「正直言うと迷いの森では過剰戦力な気がするが、安全なのはいいことだな。」


「冒険者としてダンジョンに入るのはいい経験になるから、戦力はあっても困らないわよ。」


「これなら僕たちが後ろ盾しても、お釣りが返ってきそうだね。」


「後ろ盾ってどう言うこと?」


初めて聞いたぞ。


「ある程度のランクの冒険者は、後進の若手冒険者を育てるために後ろ盾制度を使えるの。その制度を使えば、ある程度のランクや制限飛び越えた活動が出来るようになるのよ。」


「お前らは年齢的に成人してないから、後ろ盾がないとダンジョンには入れねぇんだ。一応テストみたいなのをしねぇと申請出来ないようになってるから、今日やったって訳だ。」



「あまり目立つのも良くないから今回は初心者向けダンジョン限定だけどね。もしさらに上のダンジョンに行きたくなったらまた声をかけてよ。」



その後もいろいろとダンジョンについて会話した。


ちなみにアスブレッドでの移動については、リッツの魔法で解決した。一頭については巨大化の魔法を使ってアスブレッド自体を大きくし、3人乗りも可能とした。


こうしてまだ昼のうちに街へと戻ったのだった。

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