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冒険者ギルド直営のお肉屋さん  作者: 神崎ゆめり
10/22

から揚げドックと新たな従業員

「ビッグブルの肉ねぇ。」


「ビッグブルじゃなくてもいいんだ。似たような味がする肉が欲しいんだ。」


「肉の味で狩る魔物を決める冒険者は君くらいだろうね。」



俺は街を出て、初心者ダンジョンに向かっている。昨日は歩きだったが、一流の冒険者にもなると徒歩で移動では効率が悪いので、召喚獣と契約するのが普通だそうだ。


召喚獣は普段はそれぞれの魔物の生息地で暮らしているが、契約者の呼びかけに応じて転移して助けてくれる。たまに変わった形だと、主人が気に入り過ぎて召喚しなくても側にいる従魔と呼ばれるタイプもいる。どちらも契約するという点では一緒らしい。


俺はムドーさんの契約獣であるブラックベアに乗せてもらっている。一緒に乗るのはムドーさんとアルルさんだ。


女性陣は街で借りてきたアスブレッドという茶色い馬型の契約獣に乗っている。契約獣のいない冒険者はこのアスブレッドを借りることが多いそうだ。


子供の俺たちじゃ足が遅いので、今日はアスブレッドの乗り方と夜営の仕方などを教えてもらう。



そして、今日の予定にもう一つ加えて欲しいのが、マーティンへのお礼も兼ねた肉料理の材料を狩りたいという話だ。




「お前みたいな肉マニアじゃねぇから、肉の味や肉質の違いなんかわかんねぇが、とりあえずビッグブルみたいな魔物の肉が欲しいんだな。」


「この辺りにビッグブルはいないの?ダノンおじさんのところにいつもあるから、メジャーなのかと思ってた。」


「ビッグブルは平地の水場に近い場所を好むの。私達が今から行く迷いの森や、行き道には生息しないから狩れないのよ。」


ムドーさんが確認し、尋ねた俺にナターシャさんが並走して答える。



「どうしてもって言うなら、ダノンさんのところで買うのが一番だと思うよ。」


フィーナさんに諭される。


確かに肉屋で買いたいんだけど、マーティンの願いを叶えるには普通に買うと貧乏孤児院では痛い出費だ。


しかもマーティンが食べてたら他の連中が黙ってないはず。食い物に対してはみんなシビアだからなぁ。


「とりあえず何かしらの肉は持たしてやるから、お前も魔物を見つけたら報告しろ。」


「はーい。ありがと。」




やはり乗り物があると、スピードが違う。

慣れない俺の子供の足に合わせて4時間かかっていた道のりが、1時間程で到着した。



「着いたら早速アスブレッドの扱いの練習だ。」


そこからはメンバー全員からのアスブレッド講義。移動手段があるということは、冒険者には重要なことだ。


そして、その扱いも慣れていないと無駄にアスブレッドを死なせてしまう、もしくは自分の命も危ないので真剣に話を聞く。


たまたま今回トカーナはアスブレッドが主流だが、他の街では別の契約獣が主流の場合もある。多くはその土地に馴染んだ、比較的大人しくて調教できる魔物が対象みたいだ。


青空教室の後は、実践あるのみ。簡単に言うとアスブレッドは馬なので乗馬の訓練だ。


前世では狩猟経験とかはあるけど、図体ばかり大きくて、俺が乗ると馬が可哀想になるから乗ったことがない。前世も含めて初体験だ。



結果は何とか乗れるようになった。


馬といっても魔物なので、初心者がすぐに乗れる程大人しくはなく、何回も振り落とされてはムドーさんに受け止められることを繰り返して、漸く1人でも乗れるようになった。



予定が詰まっているので、アスブレッドは森の入り口に繋いで迷いの森に入った。



森の中は驚くほど薄暗い。


空は生い茂る木の枝に遮られて、陽の光があまり届かない。もちろんひらけた場所などでは空が見えるが、なんとも不気味な雰囲気の森だ。



地図を手に持ちながら、アルルさんの解説を聞いて、メモをしながら進む。迷いの森は、迷わなければ初心者向けのダンジョンだが、迷うと正しいルートに戻らない限り出られない。


魔物は強くないけど、疲労と体力や魔力の消耗によって生まれる隙から、油断して命を落とす人もいる。



この森がダンジョンたる所以はそこにある。

普通の森よりも危険な森。一般人が目的なく入るのは厳しい場所、それがダンジョンだ。



森の中を歩いて、3つ目にあたる休憩ポイントで腰を下ろす。ちょうどお昼時らしく、開けたこの場所からは太陽が真上に見える。



「皆さんどうぞ、食べてください。」


俺は約束通り、昨日のトッシン鳥料理を振舞っていた。さすがに野外で揚げ直したりはできないので、朝に温め直して調理したものを、魔法で収納して持ってきた。


シスターに頼んで焼いてもらったコッペパン型のパンに唐揚げと野菜を挟み、手作りマヨネーズをかけたから揚げドック。大量に作ったナゲットの残りには、マスタードとケチャップを添えてある。


まだ春先で肌寒くもあるので、お茶だけ火を焚いて沸かす。お世話になっているからと、シスターに渡された紅茶を振る舞うことにした。


付け合わせがから揚げドックなのが悲しいところだが。



「なかなかがっつりしてて美味いじゃねぇか。」


「このナゲットも、思ったよりさっぱりしてて味も変えられて美味しい。いくらでも入りそう。」


皆さんにトッシン鳥メニューは好評のようだ。


「こんなに美味しい料理が作れるけど、目指すところはお肉屋さんなんだね。」


アルルさんが不思議そうに呟く。


「肉屋たるもの、自分が売る肉をどう調理したら美味しく食べれるか知らないと、商売できないでしょう?」


前世でも主要客であるおばちゃん…マダム達は、献立の相談も兼ねて肉屋を訪れる。もちろん献立が決まっているマダムでも、その献立に合う肉を求めてくるのだ。


新米ママさんなんかは、調理方法もわからない人も多いので、俺がレシピを書いて渡したりもしていた。


食材を売るということは、その食材を美味しく食べる知識を売ることも含まれる。


俺はここに、前世でいうスーパーにはない、専門店だからこその価値があると思っている。特にレシピ本なんかは全く発展していないこの世界では、この知識は大きなアドバンテージになる。


この考えをギルドの肉屋で実践するには、まだ信頼も年齢も足りないので先の話にはなるんだけど。


前世のくだりは除いて、俺が語ると全員の顔がポカンとしている。


漸くムドーさんが言葉を絞り出した。


「…それだけのアイデアを向ける先が全て肉屋なのが惜しいところだが、お前らしい理由だな。ぶれねぇ。」




その後も継続して迷いの森の地理や魔物の知識、また夜営の仕方も教わった。


長旅ならテントも運ぶが、今回は2.3日の夜営の想定なので、木に吊るすタイプの蚊帳だけを持っていく。子供だけなので荷物が軽いに越したことはないからだそうだ。


蚊帳が必要なのは、森の中なので病原菌を持った虫の魔物からの攻撃を守るためだ。病人を引きずっての探索は洒落にならないのと、少しでも外敵から身を守る為だ。


あとは見張りの仕方や、水場の確保など夜営する際の工夫や注意点を教えてもらう。



一通りの話が終わると、迷いの森を後にした。

ムドーさん達と迷いの森を探索しきってしまうと、俺が入る意味がなくなるからと、途中で引き返した。


帰り道、思いがけない魔物に遭遇した。



大きな雄牛の頭を持ち、巨大で分厚い毛皮に覆われた二足歩行をする大きな身体。


ミノタウルスだ。

このミノタウルスが現れた瞬間、ムドーさんが切り掛かり、フィーナさんがムドーさんに身体強化の魔法をかける。


勝負は一瞬だった。

幸いにもミノタウルスの背後からの奇襲だったため、戦闘にもならずにミノタウルスが倒せた。



「…ムドーさん。ミノタウルスって食べれるの?」


アルルさんにミノタウルスの討伐部位について教えてもらいながら、解体する。


「ああ。こいつはそこそこ強い魔物だから、そこまで大々的に肉が売られることもないが、討伐があった日には肉屋にも並んでると思うぞ?」


「まぁミノタウルスの場合は、肉よりも毛皮やツノを高く買ってくれるから、肉まで持ち帰らない冒険者が大半よ。」


「この肉、僕が全部貰ってもいいですか?ツノや毛皮は要らないので。」


「そしたらお前の取り分が少な過ぎる。肉もやるからツノや毛皮の報酬も受け取れよ?」



そんなに肉の報酬は低いのか。



そんなやりとりをして、トカーナに帰った。ムドーさんの宣言通り、ツノや毛皮の報酬は五等分。肉はもともと捨てる予定だったからと、ただで俺が引き取ることになった。




ムドーさん達と別れた俺は肉屋と酒場の扉をくぐった。


中に入ると、オズワルドさん、ダノンさん、マーティン、マーティンが連れてきたであろう3人、そしてトカーナの冒険者ギルドの頂点であるギルドマスターがそれぞれ酒場の椅子に腰掛けていた。


「コータも来たので、改めて紹介させてもらいます。俺はコータと同じ孤児院にいるマーティンといいます。本日はコータの依頼で、この酒場で調理をする人、給仕をする人を合わせて3人連れて来ました。」


全く子供らしくない挨拶をしたマーティンに促されて、同じ席についていた3人が立ち上がり挨拶をする。


3人とも俺の知り合いだ。


「はじめまして。ケイトといいます。年齢は17歳で、騎士学院の食堂で働いています。マーティンやコータと同じ孤児院の出身です。騎士学院の生徒は夜には寮や自宅で夕食をとるので、空いている夕方から夜にかけて、自分の腕を磨く時間に使いたくて、こちらで働きたいと思っています。」


ケイトは黒髪で浅黒い肌、彫りの深い顔をした、長身のエキゾチックなイケメンだ。この辺りの肌色では珍しく、孤児院出身なこともあって苦労が絶えない兄貴分だ。


料理という共通点もあって、俺も小さい頃からケイトにお世話になっていた。料理に対する向上心も強いので、俺としてもケイトが手伝ってくれるのは願ったりかなったりだ。


「はじめましてアル。私はチャンです。5歳です。コータの手伝いしてたから、役に立てると思うアル。夜はシスターがダメって言ってたアルが、夕方は手伝うアル。」


次に自己紹介したのは、チャンだ。黒髪の可愛い妹分で、孤児院では俺がいない時の調理担当をしている。まだ5歳なので簡単な料理しかできないが、ケイトの指示があればチャンでもから揚げ作りの補助は出来るだろう。


「私はシシリーと申します。16歳です。元冒険者で今は仕事を探していました。記憶力や腕には自信があります。この店で働かせてください。」


綺麗なアメジストのような紫色の長い髪を後ろで三つ編みにし、目も同じ紫色の美女だ。貴族のご令嬢のような清らかな見た目に反して、ラスターが師匠と崇める剣の腕前。物静かで優しい性格だが、怒ると手がつけられないリタの姉貴分だ。


冒険者として旅に出ていたが、先日冒険者を引退してトカーナに帰ってきたばかりだそうだ。俺もシシリーが帰ってきていたのは知らなかった。ちょうど職を探していたところ、マーティンとばったり出くわしたそうだ。


マーティンがシシリーに会ったことが、偶然かとうかは疑問だけど。マーティンなら誰も知らなかったシシリーの帰還情報も知ってそうだ。


「ケイトは調理と夜の給仕を、チャンはケイトの調理補助を、シシリーはダノンさんの手伝いと夜の給仕を出来ればと思い、連れてきました。」


流石はマーティン。人選としては俺は太鼓判だ。あとは大人達の反応だが。


「私はマーティンの連れてきた全員を雇うのに賛成だ。実はギルドの職員からもずっと相談されていてね。酒場の給仕は朝から夕方まで働いている職員には酷だと。酒場を閉めることは出来ないから、ちょうど人を雇おうと思っていたところだ。それに冒険者ギルドとしても酒場が賑わうのであれば調理担当の採用は大いに歓迎する。」


ギルドマスターは賛成してくれるようだ。トップに賛成してもらえるなら、ほとんど確定だろうか。


「俺や爺さんも異論はねぇが、給金や待遇はどうするんだ?全員が同じ額って訳には行かねえだろ。そこの姉ちゃんなんかは住む場所も必要なんじゃないか?」


そう言ってシシリーに視線を向ける。


「用意していただけるなら有難いですが、元冒険者なので、安宿暮らしは慣れています。しばらくは宿で、落ち着いたらどこかで家を借りようと思っています。」


元冒険者とはいえ、シシリーは美女だ。流石に1人で安宿暮らしとかはよくないんじゃ…。


「儂はここには住んどらんからのぉ。酒場の二階なら部屋が3つ程余っとる。もともと宿屋もやろうとしてたから、どの部屋にもベッドがあるんじゃ。宿屋は面倒で結局やっとらんがのぉ。」


ナイスだ爺さん。


「オズワルドさんが良いのであれば、私は特に異論はありませんよ。」


ギルドマスターも賛成のようだ。


「俺も反対はしねぇが、条件がある。そこのヒョロいの、お前もここに住め。」


「俺ですか?」


何故かダノンさんはケイトにもここに住んで欲しいらしい。初対面なのにケイトとシシリーがお互い自覚なしの両想いなのに気づいたのか?


マーティンあたりはその辺はかってそうだな。


「元冒険者とは言え、見た目は儚い令嬢だ。全員が全員、姉ちゃんが勝てる相手じゃねぇだろ。女1人で酒場の上に住むなら、気心知れた男がもう1人くらいいた方が都合がいい。」


単にシシリーを心配してくれたみたいだ。


「…そういうことなら、学院に相談してみます。」


「でも、ケイトの仕事場からだと遠いんじゃないの?私の為に無理はしてほしくないわ。」


真剣に答えたケイトに、困った顔でシシリーが声をかける。


「もともと夜遅くまでここで働くんだ。夜疲れてから学院に帰るより、酒場で暮らして朝から学院に行く方が体力的にも楽なんだ。シシリーの為でもないさ。」


「…わかったわ。ありがとう。」


見つめ合いながら会話し、納得したらしい2人。2人を見る目が全員生暖かいよ?


これで2人共、小さい時から両想いに気づいてないんだから呆れる。



こうして、酒場と肉屋に新しい仲間が増えた。

そうと決まれば早速仕込みの開始だ。

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