異世界で肉無双
*別作品を中心に更新するので、更新速度は遅めです
*基本的には美味しそうな肉と肉料理で、主人公が飯テロします
「コータ!今日から見習い期間でしょう!起きなさい!」
朝から俺を起こす声と、毛布を剥がされた寒さで目を覚ます。
「シスターおはよー。」
眠い目を擦りながら、ふわぁと欠伸をこぼす。
「おはようございます。コータ。急がないと遅刻しますよ。」
そう言うと、シスターは俺の隣で眠るマーティンを起こしにかかる。
俺の名前はコータ。捨て子なので性はない。
トカーナというこの街の孤児院で暮らす6歳の少年だ。
そして、俺の前世の名前は鬼窪康太。いわゆる転生者だ。
物心がついた時から、徐々に前世の記憶を思い出し、今ではすっかり前世と性格まで融合している。
もともとガサツで子供みたいな性格をした前世だったので、案外すんなりと馴染んだ。
顔を洗い、寄付された古着に着替えて、食堂に顔を出す。シスターは子供達を起こして、洗濯をして、朝のお祈りをしてと忙しいので、朝食は俺が作っている。
孤児院の中での仕事は、俺を含む年長者が手伝うことになっている。
義務教育も発達していないこの世界、6歳になると貴族や一握りの優秀な子供が通う専門学院か、街中で職業見習いに出るのが一般的だ。
基本的には俺ら庶民は親の後を継ぐ子供が多いが、孤児院の子供はその親がいない。
シスターや孤児院に寄付をしてくれる人の紹介で働き口を見つけるのが常だ。そして6歳になると、大抵は住み込みで働くことが多い。
現在6歳以上でこの孤児院にいるのは、ちょうど誕生日を迎えたばかりの俺、孤児院でシスター見習いをするリラ、腕っ節の強さから異例の特待生枠で騎士学院に入学したラスター。
ちなみに騎士学院では特待生制度で学費や制服が無料なのだが、寮費は別で払う必要がある。高貴な身分の子供が遠方から通う場合もあるので、寮費を払うことは難しい。庶民はラスターのように通う場合が多いのだ。
細かい干し肉と野菜の切れ端を炒めて、といた卵を流し込む。少し固まったところでかき混ぜて、よく火を通す。
出来たスクランブルエッグもどきを皿に盛って、シスターが焼いたパンを添えれば簡単な朝食が完成だ。
「おい、リッツ。出来た皿から運んでってくれ。」
既に食卓に待機している1つ年下のリッツに指示する。
「はーい。俺の卵多めにしといてよ。」
栗毛で癖っ毛のリッツは、飄々としているが魔法適正が認められて来年には王都の魔法学院に入学予定だ。シスターが手を焼くほどのイタズラ好きで、賢いからかなりタチが悪い。
ガヤガヤと食堂に人が集まり出す。
上は6歳から下は1歳までの20人が集まる。
一番下のアリアを抱いたシスターが、お祈りの言葉を唱える。
「我らが7つの神々よ。新しい朝と恵みに感謝致します。さぁ手を合わせて。いただきます。」
「「「いただきます。」」」
なぜか、いただきますの文化は日本と同じだった。俺としては馴染みやすいからよかったけれど。
ちなみにこの世界は7つの神様が創造したといわれ、宗教も七神教という1つのみだ。7つの大神様の下にいくつもの神様が存在し、その下には精霊が仕える。そしてその精霊の血を引く人が、魔法を使えると言われている。
「コータ兄は今日から冒険者見習いだっけ?俺、ビッグブルのステーキが食いてえ!」
「わたちもおにくたべたい!」
口々に肉が食べたいと主張するみんな。
「こらこら。魔物を狩るのは危険なんだから、まずはコータが無事に帰ってくるように声をかけなさい。」
「シスターいいよ。最初はベテラン冒険者のムドーさん達のパーティに入れてもらえるみたいだから、今日は最初のお祝いで美味しいお肉を狩りに行く約束をしてるんだ。」
俺も美味い肉食べたいし。
「そういえば本人が一番肉好きだったわね。」
俺の前世の職業は精肉店オーナー。
祖父の代から続く商店街のお肉屋さんだ。
代々受け継ぐ肉の知識は勿論のこと、根っからの肉好きかつ肉オタクに育った俺は、美味しい肉の知識なら誰にも負けない程に豊富だ。
各種肉に関連する資格を始め、契約した酪農家や狩猟仲間から学んで食用の動物なら解体はお手の物。そして、それを美味しく食べるための加工技術、調理師免許なんかも持っていた。
とことん美味しい肉が好きな俺の夢は、世界一のお肉屋さん。大金持ちの肥あたり舌を唸らせる肉から、小さな子供が笑顔になるような肉まで、美味しい肉を提供できる店が俺の夢だった。
そんな夢半ばで、おそらく飲酒運転のトラックに突っ込まれて呆気なく前世を終えた俺。
せっかく戻った前世の記憶を武器に、第二の人生で夢を叶えるべく。まずは冒険者を目指すことにした。
え、なぜ冒険者かって?
肉屋は冒険者ギルドが運営するからだ。