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永遠にリスポーンする恋物語  作者: いのりさん
第二章 名無し編 ~最強執事だ~
9/61

八話目 【彼は人気者】

 アスト王国総合魔術大学。

 その校門から校舎への道をたくさんの生徒と共に歩いていく。


「おはようございます師匠、マティルダさん」

「おはようマイク」

「おはようございます」


 後ろからマイクが走ってきた、後ろから見つけたようだ。

 今日はフリュウは家庭教師の仕事だ。もはや家庭ではないが。

 アスト王国が誇る最高峰の大学、今日もここが仕事場だ。

 家庭教師が終わったら守護兵団の訓練をする、ハードな毎日だ。


「ちょっとマイクに聞きたいんだけど」

「どうしましたマティルダさん」


 マティルダがマイクに話しかけるのは珍しい。疑問に思いながら彼は背を少し縮める。


「この学校の名無しの扱いってどうなってるの?」

「……どうかしましたか?」


 疑問文を疑問文で返したらいけないんだぞ。

 マイクはそんなこと普通はしない頭のいい学生だ、動揺を隠せない。


「実はだな、俺が復讐者アヴェンジャーズから勧誘を受けてだな」


 フリュウが話をかわった。

 マイクは突然目の色を変えた。獲物を狙う狼のような凶暴な目だ。


「まさか入ったんですか」

「断ったが、気になったんだよ。

 名無し達がクーデターを起こしたくなるような扱いをしてるのか?」

「……」


 マイクは逃げるように下を向いた。


「少し話をしましょうか」


 マイクは校舎前のベンチに二人を誘った。


「名無し達への扱いは、確かに悪いでしょうね」

「どうしてそうなってるの?」


 マティルダがいつもより高圧的だ。同じ名無しとして許せないところがあるのか。


「……ふふふ」


 マイクは何かのスイッチが入ったように笑う。


「マティルダさんや師匠は名無しでも道の端を小さくなって歩いたりしませんよね」

「そんなことする必要がないからな」

「普通はそうなんですよ、別に俺たちにも何か理由があるわけでもないですし」


 マイクは吐き捨てるようにばつの悪い顔をする。


「差別を感じてるのは、差別を受けてる側の人なんですよ」

「……」

「……はぁ」


 これには二人とも言い返せない。自分でもある程度感じている、感じていなくても分かっている。


「確かに、名無しは魔術の平均レベルも劣ってる、剣術のレベルもだ、授業についてこれなれないのは名無しばかり。

 でも!あいつらは、それを血のせいにして、自分で道の端を歩き出す」


 マイクは地面を強く蹴った。魔術での強化をしてだ。

 ドンッと大きな音が響き、周りの生徒からの注目が集まる。


「……それを俺達になすりつけ、今の扱いになってるわけです」

「そーだ!あいつらは自分でその道を選んだ!」

「副会長の言うとおりだ!」

「名無し達に何か言われる筋合いはない!」


 周りの貴族らしき生徒達が集まってくる。

 名無しは貴族を嫌うように、貴族も名無し達に不満を持っていたようだ。

 これがこの学校の日常なのだ、当たり前のようにマイクの周りに集まった。


「名無しは生徒会に入れないなんてのは、ルールなんかじゃない。

 ただ、名無し達が努力をしていないからです」

「そーだ!」

「そーだ!」


 いつのまにか登校中の生徒が集まり、生徒会副会長の演説会になっていた。

 生徒会に入る、最高峰の学校の生徒会というのはそれだけで権力を持っている。そしてこの口振りだと名無しで生徒会に入れた生徒はいないようだ。


「理不尽なのは名無し達、お前らだ!」


 短い演説だったが、しっかりと言いたいことを細かくまとめた。これはマイクのカリスマ性がなせる技だろう。

 周りから拍手が上がる。

 それを横目に見ながら校舎への歩いていく名無し達、彼らは全員下を向いて暗い顔をしている。これではなめられても仕方がない、そんな雰囲気だ。


「フリュウさんは名無しの味方なんですか?」

「……」


 マイクのこの演説はフリュウを取り込むための戦略なのだ、フリュウはそれを一瞬で理解した。

 フリュウは長い人生経験から、相手の思考を読むことはお手のものだ。好意以外は。

 今の発言の「味方なのか」から漂う彼の思惑を正確に察知した。


「いや、どっちでもないな」


 間違えた選択はしない。

 ここでどちらかに賛同する答えをしてはいけない。彼は自分からこれからの選択肢を少なくすることはしない。


「私は、それでも名無しへの扱いはどうかと……」


 フリュウの曖昧な言葉に抗議をあげる。

 マティルダはまだ納得してない。理由があろうと悪いものは悪い、そんな考え方をする彼女だから仕方がない。


「……お二人は名無しでも、俺は馬鹿にしたりしませんよ。むしろ尊敬してますから」

「おいおい、大衆の前では控えろよ……」

「あ……、すいません」


 演説を聞いていた生徒がまだ残っている。マイクは場を考えない発言と認めて悔やんだ。


 ということはなかった。


 フリュウはこれも彼の思惑の1つだと理解した。

 大衆の前で名無しだと公開する、名無しの一人をマイク陣営に引き込んだ、それをアピールしているのだ。

 そして「尊敬している」と発言、実力があれば貴族達を変えられる、それを名無し達に聞かせミスリードし、暴動という実力行使の選択に引き込む。

 暴動によって決定された権威はすぐに崩れる。しかしそれは悪が勝利した場合だ。正義が悪を叩きのめす、それは人の心に強く残り、簡単には崩れない。。

 マイクは復讐者アヴェンジャーズを悪として確立するつもりだと、フリュウは理解した。

 だからこそ、嫌になる。


「今日も授業さぼるんだろ?今日もみっちり鍛えてやるから」


 フリュウは誰かの手のひらの上で踊らされるのはゴメンだ。

 嫌になって彼は逃げるようにベンチを立った。

 逃げるは恥だが役に立つ。本当にその通りだ。


「お願いしますね師匠」

「まかせとけ」


 マイクの顔も貴族達を率いる生徒会副会長から、素直な弟子の顔に変わっていた。

 三人の前の人々は自然と道をあけた。

 これは名無しと同じだ、その人々は自分から彼らに道をあけたのだから。

 彼らは目の前の異形に恐怖したのを自覚してないだけである。




 ~~



「変わりませんね……」

「ああ」


 マイクとの訓練を終えたら、いつも通りランチを奢ってもらい、学校を回った。

 マティルダがこの学校に入ったらすぐに生徒会に入れそう、それほど彼女のレベルは高かった。学ぶものは無いに等しかった。

 だが、この学校に来ることの新しい目的が出来ていた。


「悔しいか?」

「悔しくはないです、ただ申し訳ない」


 二人は校舎の2階に用意されたテラスから下校途中の生徒達を眺める。

 マイクの演説のまま、暗い顔をして歩いていく名無しの生徒。

 校舎では同じような仲間と楽しそうに会話をしているのに、自分が名無しだと自覚させられる場所にくると、こうなってしまう。

 マティルダは奥歯を噛みしめた。

 彼女は知っている。

 彼女が時を旅する前の記憶では、こんなことにはなっていない。

 パラレルワールドになった過去では、こんなことにはならなかった。

 自分とフリュウが名無しとしてこの学校に入学し、名無しへの差別などなかった。

 それがフリュウへの恐怖だとしても、多くの人が救われたなら、それでよかったはずなのに。


「フリュウさん、あの人達を救わないの?」


 いつの間にか涙を流している。


「……救えない」

「なんで……、フリュウさんだって思ってるはずだよ、絶対おかしいって」


 マティルダはフリュウに倒れこむように願う。

 拒絶に阻まれても、その拒絶に倒れこんだ。


「……救えないって言っただけだよ、救わないわけじゃない」

「……え?」


 フリュウは倒れてきた少女の背に左手を回した。


「とりあえず、その顔はもうダメだよ」


 あいた右手をマティルダの顔に近づける。

 頬を流れる涙がすべてパリパリの氷にかわり、四散した。


「ど……ゆこと?」


 涙声は変わらないが、しだいに落ち着きを取り戻していく。

 フリュウは彼女をなだめるように優しく微笑んだ、顔を同じ高さにして語りかける。


「前に言っただろ、当たって砕けろだって」

「ん……、もうっ」


 フリュウがマティルダの頬をなでるように手をだし、それに甘えるマティルダ。

 拒絶に阻まれても理解者ならば分かる。彼の暖かさに身を委ねたい。

 そんな甘い雰囲気をぶち壊す者がいた。


「おい」


 後ろ、テラスの入り口に複数の男子生徒がいた。


「ん?」

「……」


 雰囲気を壊されてもマティルダは甘えるのをやめない。

 フリュウの手を守る拒絶に顔を埋め、……スリスリしてるわけだ。


「マティルダ?」

「はい」

「ダメだよ?人前で甘えるのは、そこの童貞達に失礼だろ?」


 親子の時間を邪魔されてフリュウは陰湿な嫌がらせをする。


「すいません、……頑張ってくださいね」


 前半はフリュウに、後半は邪魔者達に言った台詞。

 恋人の時間を邪魔されたマティルダもフリュウの陰湿な嫌がらせに乗っかる。

 哀れみの目を向けて。


「チッ……、お前ふざけんなよ」


 哀れみの目を向けられた男達はイラついて二人を囲った。

 囲ったのは5人、魔術や剣術で邪魔にならないように距離をとっている。


「おい、ちょっとツラかせや」

「ふふふ、誰が素直に従うんだい?」


 この5人の中ではリーダー格なのだろう、短めの茶髪男子がフリュウを見下している。

 フリュウはそんな態度では動じない。

 守護兵団の仲間のほうがよっぽど圧力を放っている。余裕な顔で見上げている。


「フリュウさん」

「心配しないで、大丈夫だよ」

「心配はしてません」

「ならどうしたの?」


 マティルダはフリュウの中で震えている。

 恐怖ではなく怒りだ。

 愛しの彼に敵意を向ける者への怒り。


「……この人達、もらっていいですか」


 マティルダの身体が赤く光る、魔術発動の前兆だ。そして身体全体が光ったということは極至炎帝。


「ダメだよマティルダ、とめて」

「……なんでですか」


 魔術をとめさせた、それを降伏だと受け取った男達はニヤニヤと余裕の顔をしている。

 次のフリュウの言葉を聞いたら真逆の反応をするだろうが。


「マティルダはまだ手加減を知らないだろ?帝級魔術を使ったら殺しちゃうよ」


 マティルダだけに聞こえるように小さな声で言った。


「……分かりました」

「いい子いい子」

「へへへー」


 フリュウはポンポンと頭を叩くと、茶髪を見上げた。


「断る、いくよマティルダ」

「はい!」


 囲んでる男達を無視して帰ろうとする。


「ふざけんなよ!やれ!」

「「おう!」」


 3人の男が手を前にだし魔術を発動させる。


「うっ……」

虚無空間ヴァニティルームか……」


 虚無空間は特殊な術式を放ち、魔術を使えない空間を作る無系統の初級魔術。

 一人では魔術を乱すだけの効果はなく、普通は10人ほどの魔術師が使ってようやく効果を発揮する。

 それを3人でやっている、彼らのレベルにフリュウは素直に賞賛した。

 マティルダは頭を抱えて苦しそうな顔をしている。特殊な器官である魔力経路をもつ魔術師、魔力経路は臓器だ、それを乱されて気分が悪くなるのは当然だ。

 フリュウが平然としているのは彼が常に発動している拒絶のおかげだ。


「もう大丈夫だ」

「はぁ、はぁ、ありがとうございます」


 フリュウが拒絶を発動する。虚無空間が二人に当たることを拒絶した。

 マティルダは深く息を吸って落ち着いた。


「なっ!?効いてねぇぞ!」

「チッ、お前らもかかれ!」

「おう!」

「素直に従わないなら実力でつれてくだけだ!」

「なめんな!」


 男子生徒がフリュウに襲いかかる。

 最初に向かってきた二人は剣で切りかかった。

 一人は正面、もう一人は回り込むようだ。

 後ろの三人は虚無空間をやめて他の魔術の準備をしている。


「日輪丸、いくよ」


 フリュウは日輪丸という愛刀に声をかけ、風水流で正面の剣を流した。


「な!?」

「弱いよ」


 グニャンと振りおろしたはずの剣を流され理解が追い付いていない。

 風水流は和国の流派だ、アスト王国だけでなく和国以外の国では無名の剣術である、それ故に剣士としてあってはいけない隙ができた。

 風水流の戦いかたは流してからのカウンターだ。

 フリュウは日輪丸をコンパクトに振り抜いた。

 ブシュッといい音がして男子生徒の両手が切り落とされた。


「てめ!」


 フリュウには後ろからの攻撃も視えている。

 だが、避ける必要はない。


「はぁ……」


 避けるかわりにため息をついた。

 殺されない自分に。

 何をしようと届かない自分に。

 負けたくても勝ってしまう自分に。


 パキパキと拒絶の氷が形成される。

 拒絶の氷は簡単に剣をとめた。


「おいおいマジかよ、完全に死角だったろーが」

「ふふふ、……ごめんね」


 フリュウは謝罪した。

 理不尽な自分と戦う相手がかわいそうで、謝らずにはいられない。

 それが無礼な邪魔者でも。


 フリュウは後ろを振り向き、拒絶を付与した蹴りを放った。

 彼の拒絶はどんなものにも働く。

 概念だろうとこの世界に存在するものなら彼は拒絶できる。

 彼は男の意識を拒絶した。簡単に言えば触れただけで気を失わせるのだ。


「ひぃ……」


 二人目の仲間が倒れたのが見えた。

 仲間二人を一瞬で地に伏せさせたフリュウに恐怖しているのだろう。魔術師三人はずいぶんと小さくなり、可愛い声を出している。

 魔術師は剣士と戦うには距離が必要だ、だが今は5mも離れていない。近すぎた。


「一人でいい」

「え?」

「一人、どこに連れていくのか案内しろ。残りは治癒魔術しとけ」




 ~~



「ここです」


 男が案内したのはアスト王国の倉庫地帯だ。


「ここがお前らの本拠地か」

「嘘じゃないでしょうね」

「そっそんなことないですよ……、まじすいませんした」


 すっかり頭が上がらなくなった男は逃げるように倉庫の中に入っていった。

 二人は影から話を聞いている。


「帰ってきたぜ」

「お、どうだった」

「連れてきたんだろうな」


 そんな会話だ。


「ああ、連れてきたよ」


 そんなわけでフリュウは倉庫に入ることにした。


「マティルダは待ってて?」

「分かった、ここから見てる」


 中にそうとうな人数が居ることが分かった、危なくないようにマティルダにも拒絶を付与してから入っていく。


「よう、センスねぇ場所にいるもんだな」


 倉庫に隠れるとか本当にセンスないと思います。ベタすぎます。


「ああ?」

「ふっざけんなよお前!」


 とまぁこんな声が返ってくるのは予想していた。

 人数は余裕で3桁いっているだろう。


復讐者アヴェンジャーズだっけ、俺を勧誘するために呼んだのかな?」

「残念です、フリュウくんには協力して欲しかったのだけど」

「……ヘイランさんだっけ」


 聞き覚えのある声が返ってきた。

 どうやらヘイランはこの組織の中心的存在のようだ。


「もう皆我慢の限界です。だから明日、クーデターを起こすつもりよ」

「そうか」

「あなたは、それを砕くって言ってたわ、だから邪魔しないでほしい。

 復讐者アヴェンジャーズに入るつもりなら、このまま帰っていいわ」

「入るつもりはないけど、帰らせてもらう。俺は一言挨拶をしにきただけなんだよ」


 フリュウはクルリと身体を半回転させて帰路につこうとした。


「くっ、彼をとめて!」


 ヘイランの声が倉庫内を響き渡る。

 雄叫びを上げ、名無しの大群が戦闘体制に入った。


絶対零度アブソリュートゼロ


 氷の帝級魔術が発動した。

 倉庫内の時間がとまったのだ。


「お疲れさまです」


 倉庫から出てきたフリュウを柔らかい笑みで迎えた。


「ほんとに疲れたよ」

「私に甘えますか?」

「そうしようかな」


 マティルダは大きく手を広げ、フリュウは背丈をあわせて抱きつかれた。


「もういいよ、帰ろうか」

「はい!」


 10秒ほど抱きつかれてフリュウは娘の愛らしさに癒された。

 二人は一度も振り変えることはなく倉庫地帯を後にした。


 凍らされた名無しの大群が動き出すのは、二人が去ってからである。

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