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永遠にリスポーンする恋物語  作者: いのりさん
第二章 名無し編 ~最強執事だ~
8/61

七話目 【その氷は暖かい】

 花の季節、出会いの季節である。

 全体的に明るい雰囲気の流れるこの時期の国、雰囲気に任せて出掛ける男女が多数出没する。

 その雰囲気に流されたい女性がここに一人。


「フリュウさん、ずっとその服着てるよね」


 その一人とはミコトである。

 巫女服を大量に持っている自分のことには目をつぶっているようだ。

 もちろん今も普段の巫女服である。


「そうだな、和国にいたときから着てたからなぁ、愛着があるんだよ」

「だいぶ傷んでるでしょ」

「何年かごとに縫ってるけど、傷んでるのは確かだな」


 フリュウも甚平を大量に持っているが、一着一着に愛着があるのだ。

 今来ている紺色の甚平をつまみながら身体を見渡す。


「これから私、服買いにいくからさ、フリュウさんも来ない?」

「いいのか?」

「うん!フリュウさんの服も選んであげるね」


 ミコトの巫女服以外の姿は珍しい、雪の季節に外に出るときコートやセーターを着ていたが、センスは間違いなかった。フリュウは女性のセンスに任せてみることにした。

 大きなお世話だとは思わない、フリュウは拒絶のせいで触れられないぶんだけ仲間との時間を楽しみにしているのだ。

 満面(計画どおり)の笑みをするミコトは見事にフリュウとの買い物デートを掴んだのだ。


「ならマティルダにも一言言ってくるよ」

「え……」


 フリュウのこの行動は当然とも言える。

 ムラマサとレイティアは守護兵団のほうに行っていて不在、マティルダは勉強中だ。少女一人に留守番させるとしたら一言報告は必要だろう。少女じゃなくても出掛けるなら報告をするのが普通だ。


「じゃ、じゃあ私が伝えてくるよ」


 まずいと思ったミコトがすかさず最善策を考えた。

 フリュウは何一つ間違ったことは言ってないのだ、下手に粘るのはダメだ。

 ミコトは「デート行きましょう」とかは言えるのだ、だが「二人だけで行きたいな」とかは言えない性格なのだ。


「そうか」

「うん」

「じゃあ外で待ってるよ」

「はーい」


 一応伝えにいく。

 後でマティルダに「何も聞いてないよ?」などと言われては堪らない。

 残念そうな顔をして階段を上がり、フリュウの部屋をノックした。


「マティルダ、入るよ」

「ミコト!?ちょっと待っ……」


 焦ったマティルダの声が返ってくる。

 不審に思ったミコトはそのままドアを開ける。

 もし自分の子供の部屋を開けるとき、かならず何秒か間を開けましょう。何とも言えない重苦しい空気になるかもしれません。


「あ」

「あ」


 マティルダが布団に寝転がり、フリュウの枕に抱きついてる。

 ミコトに嫉妬の感情が生まれる。それをマティルダは羞恥で返した。


「何やってるんですか……」

「あー、いや、お昼寝を……」


 二人とも唖然としている。

 ミコトは嫉妬の目で見て、マティルダはそれをそらすのに精一杯だ。


「はぁ。邪魔しましたね、寝ててください」

「何かようなの?」


 ミコトは呆れながらも立場を変えて考えた。自分でもそうするだろうという結論に至った。

 マティルダは完全に開き直って、正座しながらフリュウの枕に抱きついている。

 それを見て拳に力をいれつつ話を続けた。


「これからフリュウさんと二人で(・・・)買い物に行ってきますから」


 二人でを強調している。つまり来るなということだ。


「なっ、それはズルですよ!」

「毎日フリュウさんに勉強を付きっきりで見てもらって何がズルいんですか!」

「私も行くー!」

「ダーメーでーす!」


 ドタドタと暴れる二人。細かく言うとマティルダが部屋から出ようとしてるのを邪魔するミコトだ。

 もちろんミコトは手加減などしていない。

 大人VS少女ですごい不公平な対決だがミコトは支援魔術師だ、近接戦闘は想定していない。対してマティルダは近接戦闘をメインとする魔剣士志望だ、体格のハンデは無いに等しかった。


「何やってんるんだー」


 下から声が聞こえる。

 ドタドタと音がしてたせいでさすがに聞こえてしまったようだ。


「フリュウさーん、私も行きまーす」

「あ、ちょっと」


 ここぞとばかりにマティルダが飛び出した。


「もう……、せっかくフリュウさんとデートなのに」


 残念がるミコトだが、ある考えに至った。

 他人から見たら私とフリュウさんが夫婦で、マティルダが娘なのではないか……。という思考だ。

 そうミコトはポジティブなのだ。


「しっかたないなぁ、へへへー」


 表情を一変させ、頬の筋肉緩みまくりでマティルダの後を追った。




 ~~



「両手に花とはこのことだな……」

「もうっ」

「えへへー、フリュウさんは贅沢ですね」


 三人でアスト王国の大通りを歩いている。

 中央区域セントラルと呼ばれる国王の城を中心とした貴族達の住宅街には店がほとんどない。なのでだいぶ歩いて買い物に行くことになる。

 遠出をしても空気が悪くならないのは二人が途絶えることなく話を振るからだ、もちろんその二人はマティルダとミコトである。


「フリュウさんはどんな女性が好み?」

「ちょ、マティルダ何聞いてるの!」

「ミコトも興味あるでしょ?」

「それは……、そうね」


 ミコトの思わせ振りな態度をするがフリュウは平然としている。

 拒絶の能力を持っている彼にとって二人はどうしても友人以上の関係になれないと割りきっているからだ。


「そうだな、大まかでいいか?」

「はい!」


 身を乗り出したミコトに拒絶が反応する。

 突然フリュウを守るように展開された氷にミコトは阻まれた。


「……ごめん」

「いえ、気にしないでください」


 せっかくのいい空気を変えてしまった、フリュウを傷つけてしまった。そう思ってかミコトはうつむいて謝罪した。


「そうだな、清楚な……、ミコトみたいな女性が好みかな」

「へっ?ほんとですか!」


 フリュウの気を聞かせたコメントを聞いて、ミコトがまた身を乗り出した。

 またしても発動する拒絶。


「すいま……」

「気にしないで?」


 謝るミコトにフリュウが抱きついた。


「……!?」


 もちろんミコトには触れることは出来てない。

 抱きついたフリュウの内側に発生した拒絶の氷に阻まれた。


「フリュッ……さん?」

「謝らなくていいんだよ?」


 突然のことにミコトは目を丸くする。

 それなりに大きな道でのことでもちろん周りに人がいる。

 それを見ていた周りの「ヒューヒュー」や「パチパチ」といった歓声を受けて顔を紅にしてうつむく。

 どこからどう見ても娘をほったらかして妻とイチャつく夫の姿だ。


「わ、私は?」


 ねだるように手を大きく広げて待っているマティルダ。とても可愛い。


「マティルダみたいな明るい女性もいいなー」

「えへへー」


 フリュウはしゃがんでマティルダの背の高さに合わせてから抱きついた。

 これも触れることは叶っていない、ギリギリで拒絶の氷に阻まれたが、お互いに満足していた。

 完全にとろけきった笑顔でうっとりしてる二人。


「おーい」

「「はい!」」


 うっとりして何秒ほどか放心状態になっていた二人を覚醒させる。


「すいません、ちょっと余韻に浸ってました……」

「……よくそんな恥ずかしいこと言えるな」


 照れ臭そうに頬に手をあてて顔をそらすミコト。

 どことなく大人の美しさと同時に色気がにじみでている。


「行くよ?」


 フリュウはもう一度抱きしめたいのを我慢して、手招きした。

 三人はまた歩き始めた。




 ~~



「えっと、ミコト?」

「うん?」


 商業区域で一際目を引く店の前で二人は固まっていた。

 食材を一通り買い終わり、三人は服を買いに来たのだ。ちなみにミコトいきつけの店だ。


「ここで買ってるの……」

「高そう……」


 フリュウとマティルダは開いた口が塞がらない。

 店に入っていくのは高そうな私服用ドレスを着た貴婦人や、葉巻をくわえ肥え太った男爵的な人ばかりだ。


「王家の人もここで買ってるくらいだからね、……なんで帰ろうとしてるの」


 ゆっくりと自然な感じをかもしだして引き返す二人。


「いや、ちょっと着替えてこようかと……」

「私も……」


 フリュウの服装は甚平だ。士族がフリュウしかいないこのアスト王国では浮きまくっている。

 マティルダは赤を基調とした私服用ドレス、子供らしさのあるフォルムが気になるのだろう。


「心配しなくていいって、開拓者もくるくらいだから」

「そうか、なら安心だ」

「安心なのかな」


 開拓者とは様々な依頼を受けて報酬をもらう者達の総称。

 ほとんどの国には開拓者ギルドがあり、そこに登録してる者達のことを指す。

 ハンターとか冒険者とか言われることもあるが、正式には開拓者である。

 人が集まれば土地がいる、土地を確保するためにモンスターと闘った者達を開拓者と呼び、彼らを指揮して統一した開拓者ギルド。開拓者ギルドはその功績から国に保護され現在まで残っている、そのため名前がそのままで変わっていない。

 貴族とか政治とかに関心がない開拓者達は荒くれ者が多いわけだ、フリュウのような場違いな見た目をしている者も少なくない。


「それに私達の家のサイフ事情知ってるでしょ?」

「一生遊べるくらいはあるな……」

「そんなにあるんだ……」


 フリュウの言葉を聞いてマティルダは苦笑する。

 守護兵団はアスト王国で一番の給料が高い。

 アスト王国の切り札とか言われている騎士団だ、歴史も長く、他の騎士団と比べても階級が高い、そこらへんの貴族以上の階級に位置している。


「まぁ、服は大事だからな。じゃあ俺の服はミコトにお任せしようかな」

「まっかせてください!」


 ミコトは張り切って胸を叩いて、二人を先導するようにドアを開けた。


「これはこれはミコト様、ようこそおいでくださいました!」


 店に入るとすぐに店員が寄ってきた。ミコトはそうとうよく使っているようだ。

 店員は控えめな印象の店の制服を着ていた、店員もセンスがいい、美しいが客を引き立てるように控えめな美しさだ。


「今日はどんなご用立てで?」

「後ろの二人服をお願いしようかな」

「かしこまりました」


 そういって店員は店の奥に案内する。


「失礼ですが、フリュウ様でしょうか」

「ああ、フリュウだが……」


 店員がミコトと何やらひそひそ話をしている。

 少しするとミコトの頬が朱を帯びる。


「どうかしましたか?」

「いえ、守護兵団の団長様、これからもお願いします」

「ああ……」


 どうやらミコトがフリュウのことを自慢していたらしい。

 何がお願いしますなのか疑問に思うが、この店をこれからも、という意味だと理解しておいた。


「団長様にはこれなんていかがでしょうか」


 そういって持ってきたのはシルバーの鎧のついた薄い貴族服、騎士らしいマントもついている。

 パーティなどでも失礼にならないが軽く動きやすい服装、機動力を重視するフリュウの好みだ。


「いいなこれ、俺好みだ」

「採寸いたしますので、こちらに……」

「あ、採寸は私が!」


 店員を押し退けてミコトが向かう。


「そ、そうですか、ならお言葉に甘えて」

「へへー、フリュウさんどーぞ」


 店員も何がしたいか分かったのだろう。

 つまりグルだ。


「……」


 マティルダは敗北感いっぱいで二人を待った。




 ~~



「待ったかな?」

「そんな、私も少し前に来たところです」


 花の季節の夜は稀に国王の城の庭園が解放される。

 お目当ては薔薇だ。

 国王の庭園には赤薔薇、青薔薇、白薔薇が年中咲いている。これはフリュウが拒絶を付与したからだ。

 そのおかけでフリュウは優先的に入ることができる。

 ここは誰にでも解放されるわけではないのだ、特定の身分が必要だ。周りを見ても貴族らしい格好をした者がちょこっといるだけ。フリュウ達の他には二組の男女がいた。


「少し前って言うあたり、マティルダらしいな」

「さっき来たばかりと言ったほうがよかったですか?」

「ふふふ、その巫女服似合ってるよ」

「フリュウさんもその、……服似合ってますよ」


 マティルダが着ているのはミコトから借りた巫女服、幼い容姿で着用すると何か危ない属性に目覚めそうな格好だ。

 ナース服に興奮する男もいるのだから巫女服に興奮する男もいるだろう。露出を控えてもチラッと出る幼い未成熟の素肌が何かいけないものに見えてしまう。

 そしてフリュウが着ているのは今日買ったばかりの……、形容するのに困る服装だ。

 貴族っぽい型をしているが、鎧がついておりパーティなどでは護衛兼参加者になるだろう。


「フリュウさんの服装だと、私守られてるみたいですね」

「一応、護衛役の人がパーティで着るものをアレンジしたらしいからな」


 そういってフリュウは魔術を発動させた。

 左手が光を帯びる。

 ブワァンと小さな音をたてて二人を追跡するように光を放つ球体が展開される。

 光球シャインという無系統の初級魔術。

 雰囲気を考えてか光量はかなりおさえられている。


「ほらっ、行きますよ」

「夜道はあんま走るなよー」

「はーい」


 珍しく先導するマティルダ。

 二人は庭園をゆっくり歩きだした。


 国王の庭園青薔薇ゾーンに入った時のことだ。


「フリュウさん」

「なんだい」

「ギューってしてください」


 マティルダは背伸びして両手をめいっぱい広げた。

 フリュウは躊躇いながらも膝をついて背をあわせてマティルダを抱いた。


 パキパキと創られていく拒絶に阻まれながらも、マティルダは必死にフリュウに抱きついた。


「フリュウさん、知ってますか?青い薔薇の花言葉」

「知らないな……」


 フリュウは苦しくなってきた。

 もちろんマティルダにだ。

 これだけ頑張っているマティルダを拒絶してしまうのが苦しかった。

 だが離れられない。

 マティルダは必死に抱きついている。フリュウは自分の拒絶の中に閉じ込められていた。


「青薔薇の花言葉は……、不可能です」

「……そうか」


 もう、フリュウは逃げ出したくなった。


「今は確かに、フリュウさんに触れることは不可能です。

 フリュウさんは誰の温もりも感じることは出来ません」

「………………そうだな」


 逃げ出したくても、自分の拒絶を拒絶することはできない。

 他人がつくり、自分が仕掛けた罠に閉じ込められた自分。その罠の構造はわからない、解く方法も知らない。


「まだあるんですよ。2つ目の花言葉は奇跡です」

「……」

「奇跡は、努力した人にしか起こりません。

 誰よりも努力したフリュウさんなら、奇跡を起こせます」

「……なんでそう思う?」


 氷に遮られても声だけで分かる。

 今マティルダはすごく優しい微笑みをしているはずだ。

 フリュウはその氷の先に確かな光を見いだした。


「フリュウさんは知らないかもしれませんけど、この氷、すごく暖かいんですよ?」

「……」


 反応はないが、聞こえているのは分かる。

 だから満足した。言いたかったことを言えた。


「……すいません、答えになってませんよね。

 口下手っていうのはこんなときに困りますね」


 マティルダははにかんで照れ臭そうに笑った。


「……ほんとだよ、でも伝わったよ?マティルダの暖かい気持ちは」

「なら満足です」


 二人は抱き合うのをやめた、同時に暖かい拒絶も消える。

 お互いに満足して、庭園デートを再開した。

 無論、フリュウはデートだと認識できてないが。


 3つ目の青薔薇の花言葉、それは「神の祝福」。

 4つ目の青薔薇の花言葉は「夢は叶う」。


 フリュウは青薔薇。

 マティルダは自分を白薔薇に例えた。いつか赤く染まることを誓って。

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