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永遠にリスポーンする恋物語  作者: いのりさん
第二章 名無し編 ~最強執事だ~
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六話目 【名無し達】

「まじかよ」

「誰だあの人」

「副会長を倒すとか強すぎだろ」

「副会長頑張れー」

「ざまぁねぇな二年坊主が」


 色々な声が聞こえてくる。

 自分達のリーダー的存在である副会長を倒したフリュウさんへの賞賛と、立ち上がり続ける副会長への応援が。そして心ない言葉も。

 私とフリュウさんはアスト総合魔術大学にお邪魔している。

 理由はいろいろある。

 この大学にマイクの相手ができるような実力者がいないこと、授業で習うような技術をほとんど習得していること。

 なので授業をサボってアスト大学の巨大な運動場を使って組手をしている。


「あれ、観客集まってるじゃん、続ける?」


 マイク副会長に他の生徒が向けるイメージは圧倒的強者。

 フリュウの言葉はそんなイメージを壊さないためのものだ。


「いえ、観客なんて関係ないです、続きお願いします!」

「了解」


 フリュウの提案にマイクは首を横に振った。

 周りからの評価なんて関係ない。そんな意思があるのだろう。貴族である以上周りと比べられるのは仕方がないと割りきっているのだろうか。


 マイクの技術は過去の記憶を残している私でも勝てないかもしれない。

 さすが8年制の大学で2年で副会長になった天才。それ相応の実力を持っていた。

 この大学はアスト王国が世界に誇る最高の学校だ。

 アスト王国は何百年も戦争をしていない世界一平和な国だ。だからこそ文化の発展に専念してきた結果だ。

 ここに入るために遥々遠くからやってくる人も少なくない。

 だからこそ、2年であっさり自分達を追い抜いてしまった彼に嫉妬する学生もいるのだろう。

 まぁ相手が悪いだけだ。


「やるねぇマイク、俺じゃなかったら死んでるよ」

「くっ……」


 マイクは加速、自己強化、装備系魔術によるバフを何枚も重ねた渾身の拳を受け止められ歯を軋ませる。


「まだだ!」


 組手は何時間も続けられた。

 組手といってもマイクの攻撃をフリュウが受け止め続け、隙ができれば一撃を入れる。

 感覚派の二人だからこその授業だ。

 そんな授業も昼休みの合図で終わりを告げた。




~~



「悪いな、昼奢ってもらって」

「すいません私まで」


 大学で人気の焼き肉定食を奢ってもらった。人気というだけあって満足できる味だった。

 二人は食事まで邪魔するつもりはなかったのだが、マイクがどうしてもと言うので食堂まで来ていた。

 学校で数席しかないテラスでの食事だ。テラスを使う人は決まっているらしい。

 特別生と呼ばれる学生だけがテラスを使う権限を自然と手に入れている。この学校の暗黙の了解だ。

 特別生は授業に出なくても進学できるようで、貴族や王族、有名な開拓者のみなれる。学校が名前だけ貸してくれというやつだ。

 将来有望な人材とパイプをつくりたいがために設立された制度である。

 テラス席には椅子が足りなかったので、土魔術でつくった腰掛けに二人は座っていた。


「気にしないでください、学食なんて安いもんですよ」


 テラスで食後の紅茶を飲みながらマイクは笑って受け流す。

 室内からの奇異な視線をまったく気にしていない。

 だが二人の部外者はそうはいかなかった。


「目立ってるね、これからの予定は?」

「午後の授業はでようと思ってます、見学していきますか?」


 フリュウの言葉には「はやくここから出よう」というメッセージがあった。マイクはその意味を理解して師匠を自由に動ける案を提案した。


「マティルダはどうする?」

「そうですね」


 私とフリュウさんが入らなかった影響を見ていくチャンスだ。マティルダは過去、この学校で学んでいた記憶があった。

 少し悩んでから答えを出した。


「私はこの学校を自由に回りたいです」


 マティルダの本心とは違うが、フリュウはこの言葉を向上心と読み取った。この言葉を向上心と読み取るのは自然な流れ、むしろ本心を読み取るほうが難しいだろう。


「じゃあ……、どうすればいいんだ」

「見学者カードを職員に作ってもらってください、案内します」


 娘の向上心の協力をしてあげたい、しかしこの学校の知識のないフリュウの困り顔を見て、マイクは立ち上がって周りからの視線をまったく気にせず歩きだした。




 ~~



「学校の図もらったけどさ、ほんっと広いな」


 フリュウは白い紙にペンで描かれた四角の数の量を見て引いている。

 ちなみに四角で描いてあるのは教室だ。

 アスト王国が世界に誇る大学、その敷地は広大だ。

 国王の城と比べても申し訳なくないほど広いのだ。

 生徒数一万人を越える大学なのだからこのくらい必要なのだろう。

 ちなみにこの紙だが、特別生の友人として学校の構図はサービスで教員が描いてくれた。

 特別生は一万人以上の生徒の中で十数名しかいないらしく、教員もパイプが欲しいようだ。


「どこから見ます?」

「マティルダが見学したいとこでいいよ」


 マティルダが希望したのだから主導権を握るのは彼女なのだが、彼女はフリュウの同意なしで動かない。そのことをフリュウも最近分かってきた。


「じゃあ、ここで」


 マティルダが紙の地図を片手に向かったのは装備系魔術の実戦授業。


「マティルダは装備系魔術得意だもんな」

「得意ってほどでは……」

「いーや、上手だよ」

「えへへ」


 この会話が親と娘のものであるのならば普通なら頭なでなでがくる台詞だが、その娘は事情を知っているので違和感はない。

 むしろ褒められた嬉しさで頬が緩んでしまう。

 彼女は恋人に向ける笑みを浮かべ、彼は肉親に向ける温い笑みで返す。

 二人の感情には感覚の温度差があるものの、二人は満足だった。




 ~~



 フリュウと共に見学を終えたマティルダ。

 マティルダは下校途中の校門の通路にフリュウを連れていった。

 過去の記憶で、この時間のこの場所を覚えていた。

 変わってしまった現実を見るために。


 サークル活動をしていない生徒が帰っていく時間だ。その光景には特定の人を不快にさせる要素が混じっていた。

 道の真ん中で威張るように、従者や友人と共に歩く貴族生徒。

 それを無視して歩く一般生徒。

 そして怯えるように隅を歩く名無し生徒。

 もちろん名前がないのではなく、名字がないのだが。


「あまり……、マティルダは見ないほうがいいよ」


 フリュウは口をつまらせる。

 この国の差別を分かりやすい形として見てしまったからだ。

 空白の間に何と言うべきか考えて、彼は逃避を選択した。

 娘に辛い現実を見せたくないのは当然だろう、しかし差別をする側の人間であれば許容できる範囲のものだ。

 しかし彼は部外者、あまりいい気分にはなれない。

 さらに今の彼は差別を受ける側の人間だった。


「そうですね」


 マティルダは小さな肩をさらに小さくして道を引き返す。

 過去の記憶ではこんなことにはならなかった。

 それは名無しとして入学した自分とフリュウがいたからだったのだと分かってしまった。

 変えてしまった過去、それの被害者への罪悪感でいっぱいになった。


「いこうか」

「はい」


 とぼとぼと歩くマティルダ。歩きながら彼らに心の中で謝罪した。




 ~~



「あの、ちょっといいかな?」


 マイクとの待ち合わせ場所のカフェに向かう途中、廊下で一人の女子生徒に声をかけられた。


「ヘイランです」


 銀色の髪を肩まで伸ばした生徒は名乗り、正面から二人を見つめた。

 その視線は相手に目をそらさせない強さを持っていた。

 初対面へ突然名乗る一方的な挨拶はどうかと思うが、その強い眼差しで誰も気にとめなかった。


「フリュウだ」

「マティルダです」


 優しい声音は相手に好意的な印象を与える。

 三人とも姓を名乗らない初対面としては異様な挨拶だが、この三人とも同じことを察していた。だからこそそれに関しては失礼とは思わない。他は別だが。

 ヘイランからしたら事前に知っていることだった。


「俺達に何か用か?」


 突然声をかけられた時、ほとんどの人はこう反応するだろう。

 無礼な相手相手だが、フリュウは微笑んで、怖がらせないように注意して返答をする。


「マイク先輩との待ち合わせはカフェなんですよね」

「ああ」


 フリュウはそっけなく答えるが、声は高く、好意的姿勢を示している。

 なぜ知っているとは聞かない。

 フリュウは口下手なのだ、怖がらせないように意識をしただけでも上出来としておこう。


「そこで話しませんか、生徒会の仕事で遅れると思いますし」

「わかった」


 突然名乗って、指示までして、あまり礼儀を知っているとは思えないが、同年代ならぎりぎりセーフだ。

 実際にはまったく年齢の違う三人だが、そこは無視した。

 マティルダは、あまり好意的感情を抱けなかったが、彼女の立場を考えれば当然だろう。

 目の前で自分を無視して話を進めているのだから仕方がない。

 ヘイランも目の前のある意味で太陽的存在フリュウに目が眩んでいるのだ。

 彼女は太陽に隠れた月を引き込むことを忘れていた。


「あなたも……、名無しなんですよね」


 カフェで窓際の奥の席につくとヘイランは既知の事実を聞き返す。

 確認する意図があるがカフェには他にも生徒がいる。どこで聞かれているか分からない。

 フリュウとマティルダはこの学校ですでに有名になりつつあった。

 近くの生徒は聞き耳をたてているのは分かっていた。

 意図して聞かせているのだから。


「そうだ、それがどうかしたか」


 フリュウは可能な限り平静を装った。

 この国で生きるためには名無しというのは大きなディスアドバンテージだ。

 あまりこのことを自覚したくなかった。

 差別する側も理由は分からない、過去から続いていることだから、という理由で行われているものだからだ。だからこそ覆しにくいものだった。

 視線を感じてフリュウは自身の右下に目を向けた。


「フリュウさん……」

「マティルダはカフェの外でマイクを待っててくれないか?」


 マティルダは心配そうに彼に顔を向ける。

 向けられた彼は、これからの話があまりいい影響を与えないと分かっていた。

 フリュウは娘に対して優しく微笑んでから、避難するように言うが、その娘は見た目どうりの思考を持っていない。


「いえ、この女が気に入らないので……、ここにいます」


 そう、嫉妬深いのだ。

 フリュウの傷口をえぐりにくるこの失礼な女に敵意を抱いていた。

 ヘイランは完全に月を取り込むことに失敗していた。


「だそうだ、話を続けてくれ」

「……分かりました」


 フリュウは父親として娘に気に入られなかった人に好意的感情を抱くことはない。

 それでも、失礼な相手にでも気にしてないよと言わんばかりに軽い口調で言う。

 ヘイランは焦っていた。

 ヘイランがこれからやろうとしていることに月を取り込むことが必要だったのを悟った。

 悔しげな表情を隠して話を続ける。


「名無しってだけで差別を受ける、それに納得いかないとか感じてない?」


 悔しげ感情は彼女の中から完全に消えた。

 差別を受けている人に同情する、それはまともな感情を持っている人ならば誰でもする行為だ。故にこの切り札を投下した時点で彼女は作戦の成功を期待している。


「納得ねぇ、マティルダはどう思う?」

「わ、私ですかっ」


 突然話を振られて準備ができてないマティルダは体を大きく震えさせた。


「私はなにも感じませんが……」


 マティルダは普通の生活をしてきていないのだ。

 机に向かっているか、野原で魔術の訓練をしているか、家庭教師をしているか、守護兵団の訓練に混じっているかだ。

 実力で認めさせてきた彼女に差別は目に入らなかった。


「な、ならっ、フリュウくんはどう?」


 ヘイランはくんづけで呼ぶことに決めたようだ。彼が年下の容姿を持つのだから仕方がないが。


「俺も気にしたことはないな。

 ま、俺を差別をしようとするやつは、世間知らずの馬鹿なやつだと決まってるんでね」


 フリュウも普通の生活をしてきてない。

 マイクとの初対面で名無しを気にされたことくらいだ。

 しかし、彼の言う世間知らずの馬鹿はあまり適切な表現とは言えない。彼は帝級の実力者だが、あまり世間には知られていないのだから。


「……そんな有名人なの?」

「え、あー」


 フリュウは赤面する。

 見栄をはったのを指摘されたからだ、しかも初対面で。


「……有名じゃないかも」

「そんなことありません、フリュウさんはもっと世間に名前を売っていいのに……」

「ありがと」

「にへへー」


 そんな恥ずかしいフリュウのフォローに入ったのはやはりマティルダだ。

 これは彼女の本音だった。

 娘の愛らしい言葉に思わず笑顔がこぼれる。

 マティルダもそれにつられて頬の筋肉が完全にとろけてしまった。


「えっとね……、用件だけ伝えると「報復者(アヴェンジャーズ)」に入ってくださいってことなんだけど」


 親子こいびとの微笑ましい光景を見せつけられて、あわてて話を変えにきた。


報復者アヴェンジャーズ?」

「そう、名無しへの対応改善を求める組織なんだ」

「それで俺にも勧誘がきたわけか」

「そう、この国にある唯一の汚点を取り除こうとしてるの」


 ヘイランは自慢気に少しある胸をはって宣言した。

 この国は平和で文化の発展も凄まじい、貧富の差を無視したら差別は唯一の汚点と言ってもいいだろう。


「けっこうだな、どうやってやるつもりなんだ」

「そうね、まずはこの学校でデモをするの」

「……むぅ」


 ヘイランは小声で周囲を気にしながら言った。

 当然フリュウとヘイランの顔が近づく、マティルダはまた無視されたと感じて顔をしかめた。


「その時、フリュウくんもいてくれると助かるんだけど……」


 さらにヘイランは上目使い攻撃も仕掛けた。男性には効果抜群だ。

 フリュウは顎に手をあてて考える姿勢を示してから結論を出した。


「……そうか、勝手にやっててよ」


 フリュウのだした結論はヘイランの期待とは真逆の答えだった。


「なっ、何言ってるの……」

「入らないと言ってるんだ」


 その聞き方ではこの答えしか返ってこない。


「じゃなくて、どうして入らないの」

「理由か。俺の教訓だな」


 ヘイランは焦った。同情を誘うのは数ある勧誘方法の中でも最も成功率が高いといっていいだろう。相手の不満につけいり、打開案を示すのは効果的だ。

 だが、フリュウは話を聞かない性格だった。周りに散らばる意見などは気にもしない、自分の経験豊富な人生を最も信じている。


「でかい失敗をしないと人は変わらないからさ」

「えっと……、つまり?」

「当たって砕けてこいよって言ってるんだ」


 そう言うとフリュウはマティルダをつれてカフェから出ていこうとした。

 マイクとの約束を忘れたわけではない。ただこの場所に居たくなかった。


「……絶対に後悔するわ、その娘の未来を見据えてからもう一度考えてみて」


 ヘイランは悔しそうな表情をもう隠そうとはしていない。


「何度考えても、それが答えだよ」


 もうフリュウは後ろを見向きもしない。

 マティルダは悔しそうなヘイランに一礼してからカフェを出た。

 振り向いた瞬間、ヘイランの顔はもとの優しい表情になっていた。




~~



「ねぇ」

「なんですかマティルダ先生、今集中してるんです」

「……ごめんね」


どうしても気になった。

今の貴族が名無しのことをどう見ているのか。

ジルはもくもくと引き算の問題を解いていってる。

ジルはすっかりいい子になって、机に向かってる顔は真剣そのものだ。


「どうしたんですか?」


ジルはマティルダの出したひき算の問題を全て解ききった。

顔を右に回してマティルダを見る。


「えっとね、私……、名無しなんだ」


一気に言った。


「それがどうかしましたか?」

「えっ」


マティルダとしては意外な返事が返ってきた。

てっきり馬鹿にされるものだと思っていた。

貴族達の中には名無しを奴隷のように使う家もいるのだから、相応の覚悟を持ってカミングアウトしたのだ。


「馬鹿にしないの?」

「そんなことしてたらアダムズ家の名が汚れます」


ジルは当たり前だと言わんばかりに少し声が強い。


「そうかな」

「もちろんです。誰かを貶して得た信頼なんて将来必要ないですから、むしろこの家の未来を暗くする」


ジルは分かっていた。

何が正義で何が悪なのか。

清々しい顔をして言い切った。


「お兄様は……、学校に入ってから名無しに敵意を抱いてるようですが」

「あー……」


ジルは残念そうな顔をして弱々しく言った。

マティルダにも心当たりがあった。

学校では名無しと他の生徒ではいざこざがある。心変わりもするだろう。


「なら僕と結婚しますか?アダムズの名前がついてきますよ?」

「そういうのは将来好きな子ができたら言いなさい」

「マティルダ先生が好きなんですよ」


軽く笑って話しかけるジル、その声に真剣さが混じっているのにマティルダは気づいている。

少し頬を紅に染めながらも、気を強くもって彼女は言い返す。


「ならもうちょっと年取って、家を背負ってから言いなさい」


腕を組んで目をそらしているマティルダにジルはより一層好意の視線を向けた。


「分かってますよ、フリュウ先生のこと好きなんですもんね」

「なっ……」


マティルダの顔には「なぜバレた」と大きくかかれている。

ジルは呆れ顔だ。


「好きな人のことは観察していまいます、だからマティルダ先生がフリュウ先生に熱い視線を向けてることも分かっちゃいました」

「はぁ……、ジルは鋭いですね」

「もっとほめてください」


ストーカー予備軍宣言をされても子供のやることだ、呆れてすませた。

ジルは自慢気に口角をつりあげた。


「フリュウさんもそのくらい鋭ければいいのに……」


マティルダの想いは届きそうにない。




~~



「お疲れ様」

「フッ、フリュウさん!?」


マティルダが家庭教師の仕事を終えてアダムズ家の広い庭を通り、門を通った時突然左から声をかけられた。


「……何でそんな驚くんだ」


マティルダからしたら「これは驚愕ではなく歓喜の叫びです」と言ったところだが、そのまま言えるはずもない。


「もうっ、気配を消して忍び寄らないでください」


マティルダは腰に手をあてて身をのりだし、怒ってますよアピールをするのに精一杯だ。まったく怖くない上に可愛い。


「あ、いや。ごめん……」


そしてフリュウは娘には甘いのだ。明らかに嘘だと分かる態度をされても正直に受け止めてしまい大きく落ち込む。


「え、そんなつもりじゃ……、すいません」

「なんでマティルダが謝るんだよ」

「えへへ」


そんしマティルダもフリュウに甘いのだからこうなることは仕方がない。

そんな悪い空気も、苦笑だけで一気に変えてしまうあたり、これが信頼の力というやつだ。


「帰ろうか」

「はい!」


彼のの微笑みに彼女は満面の笑みと最大限の明るい声で返した。


「フリュウさんがお迎えに来てくれるなんて、明日は雪が降りますね」

「雪?マティルダが雪を望むなら、いくらでも降らせるよ」


フリュウは右手を天に向けた、そのその手は青白い光を放っている。

魔術の使用の前兆だ。


「ああー、待って待って」


マティルダは焦って止めにはいる。手をワタワタと忙しく動かす姿はとても愛らしい。

フリュウは氷の帝級魔術師だ、規格外の魔力保有量を持つ彼には、アスト王国全てを白銀の世界に変えることなど容易い。


「ふふふ、いつでも俺を頼ってくれよ」

「もうっ、冗談ですよ」


口では怒ってるように見えてマティルダは嬉しさで一杯だ。

フリュウに身を委ねるようにマティルダは倒れこんでいくが。


「……俺のことをそんな信頼してくれてるんだよね、嬉しいよ」

「……すいません」

「気にしないでくれ」


場の空気を読まない理不尽な拒絶に阻まれる。

フリュウは口では嬉しいと言っているが、表情は悲しそうだ。


「……話を戻そうか」

「はい。なんの話をしてましたっけ?」

「何で俺が迎えに来たのかって話だよ」

「そ、そうでしたね、何でですか?出来れば……、その、毎日お願いします」

「毎日いくよ」


うちの娘はまったく駄々をこねないからな、望みの1つくらい叶えさせろよ。というフリュウの親の心理が働いている。

顔を紅に染めてうつむいて恥ずかしそうに身をよじるマティルダの姿は容姿のせいでまったく似合ってないぎこちない動きだが、そのぎこちなさが実に可愛らしい。


「……理由はだな、暗い夜道を女の子一人で歩かせるのは気が引けてだな」


口下手なフリュウ、コイツもぎこちない口調で精一杯の気持ちを伝える。

こちらの想いはすぐに届く。


「……ありがとうごさいます」


彼ら二人は微笑ましい雰囲気に包まれて歩いていく。

空は雪など降る気配などない星空だった。


教訓


「でかい失敗をしないと人は変わらない」

フリュウ

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