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永遠にリスポーンする恋物語  作者: いのりさん
第一章 再会編 ~幼女でも恋したい~
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三話目 【帝の実力】

「ん……はぁぁあ」


 気がつくとベッドに寝かされていた。

 そういえば私は氷魔術の練習をしてて倒れたのだった。

 うう、まだ身体が重い。

 初級で気絶するなんて、氷が炎と比べて適性がないのは誰が見ても明らかだった。


「お、やっと起きたか」

「ひやぁい!」

「……ふふふ、そんな驚かないでよ」

「すいません」


 ベッドから横を見たらすぐの場所にフリュウさんはいた。

 なぜ気づかなかったのか。

 和国には隠密行動に長けた民俗がいるらしいし、その類いのことをしたのか。

 だって私がフリュウさんを認識できないはずがないじゃないですか。


「若い間に限界まで魔力を消耗させる、そうすると少しずつ限界が広くなっていく。

 マティルダ、才能がないからといって諦めてはダメだよ」

「もちろんですよ」


 私には確かに氷の才能はない。

 炎はもう中級ランクの規模を操れるようになったにも関わらず、氷は初級すら満足に使えない。

 でもまだ幼いこの身体、時間はまだあるのだから。


「はっきり言って、マティルダは天才だよ。

 炎に関しては、この調子なら過去最年少で上級までは余裕でいける。

 氷が使えなくても、他でカバーすればいい。

 マティルダにはそんなことができる天才だ、自信を持ってね」

「はい!」


 フリュウさんに褒められるのはいいものですね。

 むしろ学生的な立場になったおかげでフリュウさんとの接点が増えた。

 これレイティアが拗ねて文句を言ってくるかもしれない。


「じゃあ倒れない程度に……、今日は水魔術をやろうか」

「はい!」


 私のスケジュールはこの年齢ではかなりハードなものだった。

 起きてる時は魔術か勉強。

 魔力が尽きたら勉強して、回復したら魔術を使うを繰り返す。

 遊ぶ時間はない。

 フリュウさんは遊んでいいんだよ?と言ってくれますが。

 私の楽しみがフリュウさんとの時間というのもあるでしょう。

 フリュウさんが家にいるときは基本的に付き添ってくれますし、不満はありません。


 フリュウさんからレベルの高い魔術を教わって一ヶ月。

 私はこの幼い容姿で、過去の自分と同レベルにまで達した。


極至炎帝ゴクシエンテイ!」


 これを使うのは室内では危険と言うことで、ためしに国の外の丘で使うことにした。

 フリュウさんはいつでも治癒魔術を使えるようにスタンバっている。

 幼い私の身体が炎に包まれ、その炎は硬化して透過した。

 炎魔術の最高峰「極至炎帝」はあっさり習得できた。

 一ヶ月ほど魔力を蓄える量を拡張することのみに集中してきたかいがあった。

 フリュウさんは驚いていた。

 異例の早さで帝級魔術を習得したのだから当然か。

 私としてはこのくらいできて当然なのだが。


 だが私は炎帝になったわけではない。

 この身体では満足に戦うことは出来ないだろう。

 炎魔術はサポートには向いていないため魔術専門でも後ろから援護するだけというわけにはいなかいのだ。


「フリュウさん!」

「どうした」

「いきますよ!」


 炎の鎧を纏ってマティルダはつっとぶ。

 まだ身体がなれていないので鎧は薄いが、帝級魔術だ。

 上級と帝級とでは魔力の密度が違いすぎる。


「お、おい」

「やぁ!」


 衝撃波が平和そうな丘の野原に走った。

 近くの木は大きく揺れてその威力を物語る。


 パキィィィィン!


 ガラスが割れるかのような高い音が響いた。


「……っ」


 炎帝の鎧が砕けた。


 フリュウの無意識に発動する氷の壁によって。

 砕けたのは炎帝の爪の部分。

 鎧は透過して陽炎のように視界を遮ったまま。

 砕けた爪は主をなくし、統率できずに四散した。


「マティルダ、怪我はないか」

「ええ……はい」

「そうか」


 上級と帝級には圧倒的な差がある。

 何年もかけて鍛え上げられた上級魔術でも小さな帝級魔術に敗北する。

 あくまで対等な正面での勝負ならの話だが。

 つまり分かったことがある。

 フリュウの無意識の氷の壁は帝級以上の域にあるということを。


「すいません……」

「驚いただけで問題ないよ、むしろ実戦稽古を取り入れていこうか」

「はい!」


 マティルダはフリュウに対しては基本的にYesマンだ。

 何でもオッケーするわけではないのだが、フリュウが変なことを言わないせいでこうなっている。

 フリュウの長い人生経験を織り混ぜて的確な判断を下す、なので断られることはないわけだ。




~~



「はぁぁ!」

「もっとタイミングずらして!」


 剣をもったマティルダがフリュウに向かって走る。

 マティルダはとにかく炎帝の鎧を纏い続ける。

 マティルダの才能を可能な限り引き出すためだ。

 炎帝の鎧を纏って能力を引き上げてるマティルダなら木刀を持つことはできる。


 フリュウも木刀を持って、マティルダの強化された剣をすべて受け止めている。

 剣が交わる度に空気が揺れる。

 小さくても帝級魔術なのだ、帝級どうしの衝突は大戦にも匹敵する。


「負けない!」


 マティルダは力いっぱい木刀を振るう。

 この木刀はフリュウの拒絶が付与されている魔力付与物(マジックアイテム)だ。

 普通の木刀であれば、とっくに燃え尽きている。


「あー……、剣振ってるだけじゃダメだぞ」


 力いっぱい振りおろされる剣をフリュウは軽く流していく。

 フリュウの家の伝統的流派、風水流の剣術だ。

 流れるように相手の攻撃を受け流す、隙を見て確実に攻撃を決める戦いかたをする。


 バランスを崩したマティルダの脇腹にフリュウの蹴りが入る。

 炎帝の鎧は強固、物理攻撃は簡単には届かない。

 しかしフリュウには拒絶がある。

 鎧のもつ灼熱の防御壁も、強固な守りもフリュウには通用しない。

 だがマティルダを傷つけないように拒絶しているのは灼熱の防御のみにとどめている。


「なっ!!」


 マティルダは攻撃が当たるのが予想外だったようだ。

 彼の足は鎧に阻まれながらも無理矢理蹴りとばす。

 ゴロゴロと丘を転がりながら鎧の炎で草を燃やしていくマティルダ。

 しかし鎧のおかげで傷はない。


「はぁ…はぁ…」


 何度目になるだろうか。

 マティルダは魔力を使いきってその場で倒れた。

 それを見たフリュウが内心焦っているのは、倒れたマティルダにもお見通しだった。





 ~フリュウ視点~



 国を出た丘からの帰り道。

 倒れたマティルダを大切そうに抱き上げたフリュウは、帰路につきながら自分の行いを考える。


「ちょっときついかな」


 好きな女の子にはイタズラをしたくなるものだ。

 マティルダは俺の娘的な存在だ、ここ一ヶ月で大切な存在になっている。

 マティルダは大好きだ。

 素直で女子力が高い、魔術の才能は凄まじい。

 可愛い自慢の娘だ。

 だからこそ気絶するまで魔術を使い続けるという毎日に疑問を持ってしまう。

 将来必ず彼女のためになるとしても。


『そんなことはない』


 俺は独り言のつもりだったのだが、珍しい声が返ってきた。


「魔族だし年齢は見た目より高いと思うがよ、身体の年齢は人族の十歳ってとこだろ」

『人の脳は幼いうちに学んだほうが成長するからな』


 それはアスト王国で言われていることだ。

 アスト王国を代表する、世界一の天才達が集まる「アスト総合魔術大学」でも何年か前から一桁の年齢でも才能があれば入れるようになった。


「でもマティルダ嫌がってないかな……」

『お前はそんなに鈍感じゃないだろう』

「……まぁな」


 自分は鋭くはないのは自覚している。

 しかし、マティルダが毎日抱きついてこようとしたり。

 マティルダに毎日枕元で愛を囁かれたり。

 レイティアが媚薬を飲ませようとしたり。

 ミコトは……いつもどおりデートに誘われるくらいだが。

 さすがに気づく。

 少なくともマティルダには嫌われていない。

 だが、皆無理してる気がしてならないのだ。


『このやりかたに納得がいかないなら、別のやりかたに変えればいいだろ』

「例えば?」

『家庭教師をつけるとかだな』

「なるほど」


 たしかにいいかもしれない。

 俺は感覚派だからな。

 理にかなった教え方をしてくれる家庭教師はいい案だ。

 だが。


「マティルダと離れたくないなぁ」

『親バカになってきたもんだな、ついこないだまで歩く死体のようだったお前が』

「最高のプレゼントだったよ」

『それはよかった』


 人が努力する姿を近くで見るというのが、ここまで心に染みるのは思ってなかった。

 もっと彼女の人生を見ていたくなったのだ。

 話がそれたな。


「とりあえずマティルダが俺から離れるのはダメだ」

『なら連れていけばいいだろ』

「は?」

『貴族のやつらから家庭教師の依頼が山程きてるだろ』


 確かに山のようにきている。

 上級でも家庭教師の依頼が凄い量になると言われているのだ、その上にいる俺はそれ以上になるだろう。

 どちらかというと俺とパイプが欲しい、という貴族が半分ほどいるのだが。

 なんせ、俺は国と互角に戦えると言われる帝級なのだから。

 政治的なことに巻き込まれるのはごめんだ。


「けどそれじゃ結局俺が教えてないか」

『普通のレベルとどれだけかけ離れた練習をしているかを知るいい機会だろ』


 なるほど、なるほど。

 たまに言ってくる案には毎回納得させられる。


「帰ったら、久しぶりにあの手紙の山を読んでみるよ」

『そうするといい』


 オニマルのことは信頼している。

 口数こそ少ないが、俺より人生経験があり、的確な判断、何より俺のことを考えて導いてくれる。

 オニマルは第二の父親だ。


 家につくとマティルダが目を覚ました。


「……また倒れちゃった」

「落ち込むなよ、無理矢理最短ルートを通ってるんだ、我慢できるか?」

「フリュウさんが近くにいるなら平気だよ」


 マティルダは疲れた顔を精一杯に鞭うって笑顔をつくった。

 俺みたいなやつをそんなに信頼しないでくれよ。

 心が痛くなる。

 ここまで近くで接したのは人をやめてからこの赤髪の少女が初めてだ。

 フリュウはマティルダのことが愛しくなっていく。

 そして泣きそうになる。

 この少女の気持ちに答えられない自分、そして何より報われないマティルダが可哀想で。


「明日からは、無理しなくていい」

「へ?」


 赤い美しい髪を揺らして、キョトンと効果音がつきそうな顔をした。

 マティルダからは希望にも思える表情がにじみ出ている。

 やはり辛かったのか。

 無理をさせていた、それは事実だったようだ。

 確かに急ぎすぎていた、それは自覚している。

 この身体で帝級魔術を使うなど負担が大きすぎたはずだ。

 こんな顔をさせてしまった俺は……、親失格だな。


「家庭教師を頼まれていてな」

「私はフリュウさんに教わります!」


 確かにあれは希望だったはずだ。

 だがマティルダは俺についてこようとする。

 なんか……、愛されてるな俺……。

 どちらにしろ勘違いだ。


「違うよ、俺に家庭教師をしてくれって依頼が殺到しててね。

 マティルダもついてくるといいよ。

 構ってあげられる時間は減るかもだけど、他人のレベルも見てみると新しい発見とか改善点があるかもしれないからね」

「なら、いいよ」


 構ってあげられる時間が減る、と言った時のマティルダの顔が大きく歪んだのは見逃していない。

 毎日一緒に寝ているし、守護兵団の訓練監督以外の時はほとんど一緒にいるのだが、減るのは嫌らしい。


「一人で読むの大変だから、手伝ってくれるか?」

「うん!」


 素直だ……。

 なんだろう、俺の娘可愛い。

 守りたいこの笑顔。


 俺の部屋のダンボールの中にそれはあった。

 改めて見てみると内心うんざりする。

 マティルダは「フリュウさん人気者だねっ」と微笑んでくれたが。


「ラキナ・ブルーバード、金貨3だって。どうですか?」

「報酬で決めるのはダメだよ、出来たら教えてもらいたい人のレベルは高いほうがいいかな」

「ならそこそこ有名な家の人がいい?」

「うん、マティルダより明らかにレベルが低いのは……」

「なら中級くらいは持ってる人がいいよね、いるかな?」


 マティルダと山のように積まれた依頼文を読む。

 名字が色と何かで構成される家は貴族だ、シルバーソードとかレッドロールとか、アスト王国にはかなりの数のそういった貴族がいる。

 それはアスト王国が裕福な国だということだが。

 だがその家は貴族の中でも地位争いが終わっていない家だ。

 地位が確立しておらず、俺を客として招いて利用したいはずだ。

 ちなみにアスト王国の貴族はほとんどそれである。

 利用したいという俺の勝手な想像の根拠として、まず報酬が相場より高い、教えてもらいたい人の技術が低い。

 相場より高いのは単純に目を引くため。

 技術が低いのは魔術や剣術を重要視していないためだろう。


「この人知ってるよ、マイク・アダムズ、金貨1だね。

 あとできれば追加で金貨1で弟のジル・アダムズもお願いしますだって」

「アダムズ家か、いいじゃないか」


 アダムズ家はこの国の最上位の貴族だ。

 すでに地位が確立しており、政治に巻き込まれることは少ないだろう。

 マイクほうの魔術は炎土が上級なりたて、他は初級。剣術も中級をいろいろな流派で持っているらしい。

 かなりレベルが高く、そこらへんの教師ではスキルのレベルアップは望めないということで俺に手紙がきたのが分かる。

 ジルのほうは完全なる初心者といった感じだが。

 ジルをマティルダに任せるのもいいかもしれんな。


「ちょっと手紙返しにいこうか」

「返すの?」

「ああ、手紙できた依頼は印押して返却することで受ける意思表示になるんだよ」


 めんどくさい習慣だとは思うが、事前に何もなしで家に乗り込むのは気が引ける。

 サインをしてアダムズ家にでかける。

 手紙を届ける仕事もあるが、同じ国、しかもわりと近いのだから自分でいくことにした。

 そしたらもう予想はつく、マティルダもついてくる。


 マティルダはご機嫌だ。

 そりゃあもうトロトロの笑顔だ。

 筋肉が緩みきっているマティルダ、だらしないよりも可愛いが先にくるのは俺が親バカだからなのか。


「えへへ、デートだねー」

「……うーん」


 こんな他人の家に手紙を届けるだけのロマンチックでも何でもない散歩をデートと言っていいのだろうか。

 恋人が二人でいたらそれはデートなのかもしれないが。

 いや、そもそもマティルダとは恋人ではない。


 とろけきった笑顔で、でもデートという言葉に顔を赤らめるマティルダは、娘じゃなければ俺のストライクゾーンど真ん中だ。

 この幼い身体であるが、俺は顔とか身体とかあまり気にしないタイプだ。

 あまりなので完全に無視できるわけではない、だがマティルダは将来が楽しみな可愛らしい顔、胸も……、成長するんじゃないかな。

 家事とかそこらへんができて、努力家で、俺を愛してくれる少女に恋心を持たない男は俺はいないと思っている。

 それが自分の娘なら例外だが。


「私っ、大きくなったらフリュウさんのお嫁さんになります」

「ふふふっ、ありがと」

「バカにしてるでしょ」

「……そんなことないよ」


 間があったせいか、マティルダは信じてないぞと言わんばかりの目を向けてくる。

 実際信じてない。

 年齢を重ねると共に親への愛は薄くなっていく、それに別の誰かに恋するだろう。

 そう考えてみれば、俺は一度もお父さんと呼ばれたことはない。

 ずっとフリュウさんだ。

 もしかしたらマティルダは俺のことを親として見てないのかもしれない。


「言ったねーフリュウさん」

「?」

「約束だからねっ」


 そういって小指を俺の方へもってくる。

 何かを約束するときはお互いの小指をひっかけあうのが習慣だ。

 別に人差し指でもいいのでは、と聞くのはダメだ。ジンクスとはそんなもんだ。


「その時は考えさせてくれよ」


 だが俺はそれを断った。

 そもそも俺には触れられない。

 マティルダは悲しそうな顔をするが、すぐに普段の優しい笑みに戻った。

 もしかしたら、その行為をしようとする俺の気持ちが欲しかったのかもしれない。


「そ、そうだよねっ。私は気持ちを変えないから、その時はねっ」


 声は少し震えているが。




~~



「それで明日の夕方ぐらいから行ってくるのね」

「ああ、家は任せたよ」

「家は任せたって……、もうフリュウくんそれは結婚してからで……」

「ならミコト頼んだ」

「はい!お任せください!」

「ちょっとフリュウくん、ミコトばっかりずるいじゃない」


 夕飯の席だ。

 相変わらず騒がしい。

 俺が旅から帰ってきてから一ヶ月、これにもなれた。

 レイティアがグイグイくるようになった、悪い気はしない。むしろ嬉しい。

 俺はアダムズ家に手紙を届けてきた。

 門番らしい人がいて、手紙を渡して帰るつもりだったが、話を聞いた家の主に呼び止められた。

 アギラ・アダムズ、茶髪を短く揃え顎髭のあるダンディな男性だったのを覚えている。

 理想の中年男性といった感じだ、俺もああなりたかった。

 彼の息子はマイクのほうは学校では無敵、天狗になりつつあるらしいから上を見せてやりたいとのこと。

 上級魔術を使える時点でこの国でトップクラスの戦闘力はあるだろう。

 だが問題は天狗になりつつあるというところか、最上位貴族として生きていくには慢心は禁物だ。ちょっと本気で叩いてみるか。

 ジルのほうは魔術だけでなく剣術も才能がないらしい。

 まだ十歳らしいので決めつけるのは早いと思うが。

 ここはマティルダ同様、魔力をとにかく使いまくって限界値を上げるのがいいか。

 マティルダに自身の異例さを再認識させるいい機会だろう。


「そういえばマティルダ、帝級使えるようになったんでしょ」

「ええ、私にかかればこんなもんよ」


 マティルダも天狗になりつつあるのかもしれない。

 いつも思うが、俺の前だと子供っぽいのに(夜は例外)、レイティアやミコトには大人びた返答が目立つ。

 あれか、友達感覚か。


「フリュウさん、任せてください!」

「何がだ?」

「フリュウに言い寄る女どもは私がこれで燃やし尽くします!」

「……え、うーん」


 これと言うのは極至炎帝のことだろう、そして言い寄る女というのはレイティアとミコトか。

 悪いけどそれは困るし、たぶん今のマティルダじゃ無理かな。

 だが目をキラキラさせて俺をまっすぐ見つめてくるのだ、拒否できない。


「それは私への挑戦かな?」

「いいですよ、試しましょうか?」

「あれ、誰があなた達のことって言ったっけ、もしかして自覚してる?」


 女性陣は勝手にヒートアップしていく、食事中だというのに。

 しかもマティルダ、どこでそんな言葉を覚えたんだ……。

 睨みあう三人を無視してパンを口に入れてるとムラマサが隣に座った。


「この家も楽しくなりましたね」

「……そうだな」


 マティルダが来てから口数が増えた気がする。

 マティルダが積極的に話をしてくれるので、それにつられて家全体が明るくなった。


「愛されてますね」

「あー、ムラマサ嫉妬してる?」

「いえ」

「正直に言ってくれよ」

「してません」


 ありゃりゃ、失敗失敗。

 そういやムラマサまったく女の話ないよな。

 これだけ愛されてるの怖い。

 レイティアとか隙あらば襲ってきそう、しかも本気になれば俺を拘束できるくらい強いのだ、貞操の危機である。

 それに比べてミコトは健全だ。うん。

 マティルダは今は大丈夫だがレイティア型になりそう……、全力でミコト型にしなければ。

 俺も彼女達が嫌いではない、むしろ好きで愛しているが拒絶(呪い)があるうちはダメだ、悲しませてしまうことが怖い。


「じゃあ勝負よ!勝った人はフリュウくんに今晩添い寝してもらえます」

「おお!やる気でてきましたよ!」

「負けないよ!」

「……」

「大変ですね」


 横から不穏な単語が飛び出てきた。

 あのー、丸聞こえなんですが。

 しかもムラマサは隣で同情するような目を向けている。

 頼むムラマサ、今晩俺と健全な男どうしの添い寝をしてやるから三人をとめてくれ。


「フリュウさんに断られたらどうするの?」


 ナイスだマティルダ、そうだぞー俺は断るぞ。

 そのまま無理的な流れにしてくれ。


「フリュウくんは優しいから、添い寝してもらえるって聞いたから頑張ったんだよって涙目で言えば絶対断れません」

「なるほど、フリュウさんの弱点につけこむわけですね」


 ああ、こりゃ無理だ。

 そんな方法とられたら断れないわ。

 頼むからレイティアだけは勘弁してくれ、ミコトかマティルダでお願いします。

 というか本人の前でよく作戦を暴露したな。


「とめなくていいんですか?」

「とめたら逆に三人相手にさせられそうで……」

「……嬉しくないんですか?」

「嬉しいけどな……、触れられない男のどこがいいんだか」


 フリュウは彼女らが自分のことを過大評価していると思っている。


「(自信がないのは知ってましたけど、ここまでとは)」


 ムラマサは逆にフリュウがどうしてここまで自信がないのか疑問なのだ。

 レイティアもミコトも美人だ、神として他の人より才能を与えられている、その中にはルックスも入っているため、神は基本的に全員イケメンか美人、少なくとも男らしい、女らしい身体を持っている。

 マティルダも大人になったら二人に負けないような美人になることも知っている。

 誰もが羨むハーレム状態だ。


「(ミコト、頑張ってくださいね)」


 ムラマサは中立として三人の恋を手伝っているが、本命はミコトだった。

 幼馴染みに幸せになってほしい、そう願ってフリュウと共に彼女達の後をつけた。




~~



「いやー、便利ですね」

「こんな使い方をすることになるとは予想外だ」


 女性陣が決戦の場所に選んだのは国から出てすぐの丘だった。

 フリュウは周りから存在を認知されることを拒絶して彼女達のことを見ている。

 もちろんマティルダが殺されそうになったら助けるためだ。


「じゃあいいわね」

「もちろんです」

「望むところよ」


 三人は一定の距離をとって睨みあっている。火花がなんとなくバチバチいってそうな雰囲気だ。


「一撃いれられたら負け、最後まで残っていた人が勝者ね」

「分かった」

「オッケーよ」


 そう言うとレイティアは金色のコインをつくると親指で弾いた。


 コインが落ちるまでの間にレイティアは 宝石の弾道(クリスタルコメット) を完成させる。

 ミコトは 星屑の終焉(ラストスターダスト) を唱えあげる。

 マティルダは 極至炎帝 を発動して身に纏った。


「おいおい……」

「大丈夫ですかね、二人」


 レイティアの「宝石の弾道」、ミコトの「星屑の終焉」は魔術認定されていない、というは人がまだ発見してない魔術だ。だが魔術認定されれば確実に帝級に分類される威力を持っている。

 だがフリュウとムラマサが心配した二人とは、レイティアとマティルダ。

 もし「星屑の終焉」をまともにくらったら確実に死ぬだろう。

 レイティアは一撃を先に入れるということを大切にして攻撃速度の速い魔術を使用した。

 だがミコトは逆、彼女はあまり速度のある魔術を得意としていない。

 ならば決まったら絶対に命中する最大魔術を使ってやろう、ということだ。


「はぁ!」


 ここは丘であり、周りは短い草で覆われているためコインが落ちる乾いた音はしなかった。

 コインが落ちると同時にマティルダはレイティアに向かって跳躍、魔力によって強化された脚力はすぐに距離を縮めた。


「ふふっ」

「なんの!」


 レイティアの放った宝石達が全方位からマティルダを蜂の巣にした。

 それをマティルダは身体を回転させて弾いていく。

 だが速度重視とはいえ帝級魔術の攻撃を何度も受けているのだ、鎧は確実に剥がれていく。


「!?」

「!?」


 何もしてこないミコトに疑問を思った二人は彼女を見た時見てしまった。

 ミコトは愛用する短い杖を天に向けている。

 その杖は短いながらも大量の魔力消費を軽減してくれる最高級の魔力付与物マジックアイテムだ。

 そして彼女の上に輝く星を。

 その星は確実に近づいている。


星屑の終焉(ラストスターダスト)

「うっそでしょ」

「くっ」


 マティルダはレイティアに蹴りを入れる、それをレイティアは光の壁でガードした。

 光の壁を蹴って方向転換して跳躍したマティルダがミコトに向かって跳ぶ。


 だが間に合わない。


「やっべ拒絶!」


 平和な夜の丘に小惑星が衝突した。

 バキッと木が折れて。

 ジュワッと蒸発して。

 ブゥオッと燃え上がった。


 レイティアとマティルダはギリギリでフリュウが拒絶を付与したため無事だった。

 判定でミコトの勝利、彼女はホクホク顔で家に帰った。




~~



「フリュウさん、今夜いっしょに寝ませんか?」


 風呂をでたフリュウは部屋に戻る途中、ミコトにとめられた。


「はぁ……話は聞いてるけどさ」

「すいません」

「分かってるならいいよ」


 フリュウはこのままミコトの罪悪感を利用して逃げ切るつもりだ。

 隕石が落ちてきて丘の一部が燃えた、町中大騒ぎだ。

 夜だというのにまだ騒がしい、兵団から国の護衛についてくれと訪ねられたが、問題ないからほかっておけと言ったら安心して帰っていった。


「フリュウさんダメ?」

「ダメ、神の能力をこんな簡単に使って」

「フリュウさん」

「ん」


 ミコトは涙目だ、水魔術で涙をつくったのだが、もちろんフリュウは知らない。

 巫女装束で肩を少し見せる、清楚な中にある色気が出ている。


「私、フリュウさんが寝てくれるっていうから頑張ったんですよ……」

「そう……か」

「レイティアがフリュウさんのサイン付きの添い寝券を持ってきまして」


 そういってミコトは一枚の紙を出した、たしかにフリュウのサインがある。

 本人は身に覚えがないらしいが。


「フリュウさん、いけませんか?」

「……部屋には、マティルダもいるし」

「マティルダなら私の部屋で寝てますよ」


 根回しは完璧ということだ。

 もしマティルダがいても二人で結託して襲ってしまおうという形に落ち着きそうだが。


「フリュウさん、お願いします」


 フリュウは敗北を確信した。

 フリュウはまっすぐで素直な目に免疫がないのだ。


「はぁ……分かったよ」

「ほんとですか!ならお風呂入ってきますねっ」


 今日一番の笑顔で階段をかけ降りるミコト、降りたところでムラマサとハイタッチしたのをフリュウは知らない。


「ご苦労様です」

「ああムラマサ、それいいのか?」


 ミコトと入れ替わりでやってきたムラマサ。

 彼の手にはフリュウの大好物の抹茶アイスが皿に盛り付けられていた。


「ここまで持ってきて食べさせないとかあり得ないでしょ?」

「それもそうか、ありがと」


 ヒョイと抹茶アイスをとるフリュウ。

 和国でのみ食べられているこの品をフリュウは故郷の味として食べている。

 晩ご飯とは比べ物にならないペースで。


「俺に何かあるのか?」

「どうして分かったんです?」

「これを持ってくる時は何か言いたいってことだろ」

「まぁ一言だけ」


 別に機嫌なんてとりに来なくてもいいのに、とフリュウは思っているが、一応フリュウはムラマサの上司だ。

 そう思いつつも誘惑に負けて抹茶アイスをパクパク食べていくのだが。


「ミコトは可愛いやつですよ」

「ああ、知ってるよ」

「では、これで」


 これだけ言って去っていったムラマサを不思議に思うが、突然のことにポカーンとしている。

 フリュウは静かに閉められたドアを見つめた。


「(やれることはしましたよ、ミコト)」


 ちなみにあの抹茶アイスは……、媚薬入りだ。


『……』

「(どうしたオニマル)」

『何でもない』

『まったく、俺の部下は……』


 オニマルは呆れながらも、愛弟子のようなミコトが幸せになることには大歓迎だ。

 もちろんフリュウの幸せが一番だが、これもその第一歩だと思っていた。


 フリュウはその夜、布団の中で、「何でもシていいよ?」という女性がいながら手を出せないという地獄のような時間を味わうのだが。

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