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永遠にリスポーンする恋物語  作者: いのりさん
第二章 名無し編 ~最強執事だ~
19/61

十八話目 【それぞれの戦場】

 アスト王国中央エリア。


「くっ、貴族様を逃がすのだ!」

「何としても食い止めろ!」

「ダメだ後退しろ!」


 高級住宅街は混乱の真っ最中にあった。

 聞こえるのは貴族の従者やどこかの騎士団の苦しそうな声、そしてルドベキア教徒の放つ血の猟犬(ブラッドハウンド)の爆裂音。

 前代未聞の侵攻にアスト王国全土が混乱しており、とりあえず国王の城や守護兵団本部にいけば安全だろうという強者にすがる人々の感情だけで行動している状態だった。


「……っ、明らかに数が多い」


 マイクがいるのはルドベキア教徒の後方。彼はその路地裏から敵を視認した。

 ルドベキア教徒、及びその協力者の数は100人ほどだろう。

 ただの100人であれば騎士団と従者合わせれば余裕で押し返せるはずだ。

 だがルドベキア教徒達は全員が中級魔術である血の猟犬(ブラッドハウンド)を完璧にマスターしているようだ。

 誘導弾と呼ばれるこの魔術は細かくバラすことも、一発の塊を飛ばすこともできる。そして細かくバラすのは高等技術となる。

 教徒達は細かくバラして貴族を人質にするようにしてジリジリと詰めていく。


「ちっ、怠け者どもが」


 マイクは騎士団を護衛につけて逃げ回る貴族に憤りを感じた。

 一般的に初級魔術を使えれば生活に支障が出ることはないため、貴族達は平和ボケして中級以上の魔術を使えない者が多かった。

 初級と中級には威力に大きな差があるため、誰一人貴族は戦力になっていないのが現実だ。


「父さんは、母さんは、ジルのやつはどこだ」


 中央エリアにはアダムズ家もある、ならば避難するはずだ。そう考えて貴族に追いつくように路地裏を走る。

 自己強化をして屋根に飛び上がり、上から確認する。


「見つけた」


 ジルは母をつれて逃げる貴族の中にいた。父のアギラは中級魔術として後退する騎士団の中にいる。

 魔術師は感覚的に普段から近くにいる魔力を何となく感知することができる。見える範囲であればだいたいとどこにいるのか、人混みの中でも感じ取れた。


「父さん!」

「マイク!お前は逃げとけ!」

「いや、俺も手伝うよ」


 マイクは屋根から飛び降りた。


「壁を展開してて」

「何……分かった」


 アギラは息子のしようとしてることが分かった。

 魔力を固めた壁をマイクのところに分厚く展開した。親としての贔屓も入っているがそれは仕方ない。


血の猟犬(ブラッドハウンド)


 マイクも教徒達と同じ魔術を使用する。

 だがマイクは上級魔術だ、威力も弾数も違う。

 マイク一人で100人の魔術師が放つ弾数の半分はあるだろう。


「くっ、壁をはれ!」


 ルドベキア教徒の悲鳴と共に彼らの前にも壁が展開される。

 マイクの血の猟犬(ブラッドハウンド)は攻めに専念していたルドベキア教徒に直撃した。

 前衛の数人は降り注がれる誘導弾をもろに受け死亡した。



「攻撃は俺がやります!守りに専念してください!」

「おう!壁を展開しろ!」

「「おおー!」」


 騎士団の雄叫びが響く、騎士団のメンバーは全員中級以上の実力はあるようだ。

 ルドベキア教徒はマイクの参戦で壁の展開に人数を割かなければいけない。

 なんとか硬直状態まで持っていくことに成功した。


「やっぱり俺が来てよかった」

「……フリュウさんはどうしている、一緒なんだろ」

「師匠はウルク騎士団を奪還しにいった、たぶん騎士団を狙ったのは武器の調達とアストの戦力を削ぐためだ」

「奪還?騎士団は制圧されたのか」

「ああ、それがどうかしたか」

「おかしいぞ」


 マイクの発言と現実の矛盾にアギラは気づいた。


「何がだ」


 マイクは魔術を行使しながら聞き返す。


「分かるだろ、ここにいるのは鎧はつけていないが騎士団だ、全員自宅のほうの装備で戦っているらしい」

「だから正装じゃないのか、それでっ」

「ウルク騎士団は襲われたんだろ、ならなぜ鎧をつけた騎士がいた」

「……!」


 マイクは思い出した、貴族の避難につきそう鎧姿の騎士を。

 ウルク騎士団の紋章である弓矢のついた鎧を着ている騎士を。

 騎士団は日頃から鎧をつけているわけじゃない、それは当たり前だ。ならなぜ鎧を着たやつがいる、ウルク騎士団は襲われたんだ、現実的に考えて平和ボケした騎士達が突然の侵入者に殺される姿は容易に想像できた。

 なら、アイツは誰なのか。

 マイクの脳裏にフリュウから聞いた言葉が浮かび上がる。

 なぜ俺だけ帰らせるような発言をしたのか。

 頭のいい彼はなんとやく真実に辿り着いた。

 時期的にルドベキア教徒は名無しと協力関係にある。

 ルドベキア教徒は平等を掲げる宗教だ、なら名無しとどこで利害が一致するか。

 ――――貴族が狙われている。


「……!」


 マイクの顔が青ざめる。

 あの鎧の中身はルドベキア教徒か、貴族を狙う名無しだと確信した。


「貴族が狙われてるんだ、あの鎧の中身は侵入者だ」

「なんだと……」

「たぶん、騎士団と貴族を引き離すのが目的だ、どうする」


 アギラの決断ははやかった。


「マイク、行け」

「え?」

「まだ見えている、お前なら追いつく、はやくいけ」

「でも」

「ふっ……」


 アギラは笑った、歯をニカッと輝かせて男前な笑みをつくった。


「大人をなめるなよ、お前が戻ってくるまで耐えてやるさ」

「くっそ」


 マイクの脳裏に母とジルが浮かんでくる、だが追いかけようとすると目の前の父の姿が脳裏に浮かぶ。


「分かった」


 騎士団と一緒なら父は耐えきれるだろう、だが逃げる貴族は非武装だ、初級しか使えない雑魚ばかりだ、マイクは父親に賭けた。

 マイクが剣を振りおろす。

 振りおろした剣から真っ直ぐ斬撃が飛んでいき、壁を容易に貫通してルドベキア教徒を三人真っ二つに切断する。

 天剣流の技の 飛ぶ斬撃 だ、魔力を蓄える魔力付与者マジックアイテムの剣を使って魔力の塊を高速で飛ばす。

 その威力は見てのとおり、中級程度の壁であれば容易く貫く破壊力だ。


「いってくる、死ぬなよ父さん」

「もちろんだ」


 名無しの目標は貴族、皆殺しを狙うなら騎士団の近くで騒がれるようなことはしないだろう、それに賭けてマイクは小さくなっていく貴族集団を追いかけた。




 ~~



 ウルク騎士団本部付近。


「……ったく、メンツ丸潰れだな」

「守護兵団は大丈夫なんですよね」

「ふふふ、うちは精鋭なんでね」


 マティルダが心配になるのも無理はない光景が広がっている。

 ウルク騎士団本部はフード達で固められ、付近の住宅の影からウルク騎士団のメンバー達が奪還の機会を伺っていた。


「こんなとこで時間を浪費してるのかよ、何やってんだ騎士様達は」

「まったくだ」


 ヒュースが文句を言いたくなるのも無理はない、現在侵攻されているわけである、防衛に人手が足りないのに何もせずに相手の隙を伺っているだけの騎士団がいるのだ。

 6人はしらないことだが、私用の安い装備で必死に貴族を守っている騎士もいるのだから騎士団くくりでは叩かないであげてください。


「結局私達任せってわけね、ノアお願い」

「もうやってるよ、送るね」


 5人の頭にノアの見てる光景が流れ込んでいく。


「……数は凄いなぁ」

「建物ごと壊した方が早くないですか?」

「そうしたいけど後で叩かれそうでな」

「フリュウさんを叩く不届きものは私が全部始末しますよ?」

「いや、マティルダの手を汚すのは」

「大丈夫です!暗殺ならバレません!」


 過激な言葉の飛び交う親子の会話に一同の体感温度が下がる。


「フリュウくん、でも本部を奪われたのは騎士団の責任だし、一刻を争うんだから気にしてられないでしょ」

「そうだぜ、なんなら俺が壊してやろうか?」

「……お前のじゃ民家は壊せてもアレは無理だろ」

「っんだとぉ」

「事実だろ」

「ははは」


 ヒュースとガイレンで喧嘩をするのはいつものことらしい、それにヘイランが加わって三人で口論するらしいが、すぐに仲直りする。マティルダは羨ましげにそれを見ていた。


「はやくマイクに加勢したいしな、マティルダ」

「はい!」

「時間はかけないで、一撃で頼む」

「はーい、任せてください!」


 フリュウの声に答えるべくマティルダの身体が赤い光を帯びた。

 騎士団本部をドーム状の膜が覆った。


 ――――ドォゴオォォォォン!!


 その膜が真っ白に光ると次の瞬間ドームの中が紅蓮に輝いた。

 炎の上級魔術、白爆発フラッシュフレア

 白爆発フラッシュフレアはドーム状の膜の中に魔力を流し、そのドームの中だけを爆発させる魔術。それをマティルダは帝級の威力で使用した。

 マイク(上級魔術師)が中級魔術の血の猟犬(ブラッドハウンド)を使用した場合、中級魔術師のものより威力が高いように、上級魔術を帝級魔術師が使用した場合も威力が上がる。

 正確には魔力総量が多いため1度に使える魔力が多いためだ。

 白爆発フラッシュフレアは基本的に直径1mの円を爆発範囲にする、これが基本なのだが、マティルダは大きめの建物1つが余裕で入るほどのドームをつくった。

 帝級一人では国と互角の戦力を持っている、見た者はそれが大袈裟ではないと分かるだろう。


「ふー、どうですかフリュウさん!私上手に調節できたでしょっ!」

「偉いぞマティルダ、民家が入らないようにセーブしたんだな」


 マティルダがフリュウの前に頭を持ってきた、何をしてほしいのか分かったようで彼女の頭をナデナデする。


「えへへー」


 マティルダは口角を吊り上げて満面の笑みだ。

 だが周りの人々はそうはいかない。


「何あれ」

「まっ平らじゃん」

「……」

「……」


 騎士団本部があった場所は何もない広々とした空間になっていた。

 あれだけの爆発を起こしておいて全力じゃないです発言をされては一般人は堪ったもんじゃない。

 もし帝級と国が喧嘩するようなことがあれば、あの爆発以上の威力の魔術が何発も放たれるわけだ、正気ではいられないだろう。


「あれは奪還とは言えないけど仕方ないな、行くぞ」

「待て!」


 マイクの増援に向かおうとするフリュウを止める声。若い男性だ。

 非武装だが騎士団メンバーだろう、影から様子を伺っていた一人だ。


「なぜあんなことをした!」


 どうやら本部を潰されたことを怒っているらしい。

 顔を真っ赤にして若い男性はフリュウとマティルダを責める。


「あなた方が弱いからです」

「何っ!」

「まぁ落ち着けよ」

「落ち着いてられるか!お前たちそれだけ強いんだろ、ならもっとやり方があるじゃないか」


 男性の言いたいことは、本部を巻き込んで丸ごと始末しなくてもいいじゃないか、ということらしい。常識的に考えればそのとおりだ。


「もっと頭を使った戦い方はできないのか!騎士団を破壊した、そらはつまり国の大きな戦力を破壊したんだ、この反逆者が!」


 この発言はフリュウは許せないものだった、そしてマティルダも許せないものだった。

 お互いがお互いを反逆者呼ばわりされたと思ったのだ。


「おいお前」

「なん……」


 ――――ピキシッ。


「……!」


 男性の身体は頭を残して凍りついた。

 彼の目の前には凍りついた心のフリュウ、その鋭い眼光に男性は恐怖を覚える。

 そしてフリュウの後ろには激昂を我慢しきれていない炎帝の姿があった。


「な、なんだよ」

「反逆者といったな」

「ああ……」

「今アスト王国は侵攻の真っ最中だ、今どこかで逃げ回る市民がいるんだ、そんな騎士団を必要としてる中でお前は何をしてた?」

「……」


 男性は答えられない、事実彼は騎士団として出動指令が出てからウルク騎士団本部を見ているだけだった。


「何もしてないだろ、俺達がこなければ逃げ回る市民をほったらかして家の影にずっと隠れていただろ」


 フリュウは騎士団の兵長として怠け者が騎士を名乗ることに腹をたてた。


「そんなこ……」

「そうしてたはずだ、なら何故戦場に出ない」

「それは武器を持って」

「武器がなくても魔術が使えるだろ、俺達は国を守るために戦ってんだ騎士団のかわりにな、戦う力がありながら何もしないお前こそ反逆者だろうが」


 フリュウは手招きしてアダムズ家方面に向かおうと男性の前から退いた。


 ――――。


 不思議なことに音はない、だが何かを感じてその場の者は全員目をやった。

 マティルダが鎧を纏って突進、男性を砕こうとして拒絶に阻まれる。

 拒絶は衝撃を全て無にする。


「マティルダ」


 憤怒の炎を纏った愛する娘の名前を呼ぶ。


「……フリュウさんは、反逆者なんかじゃない!」


 マティルダは男性を睨み付け、フリュウのほうに歩いていく。

 彼女はもう2度と振り返ることはなかった。

 愛するフリュウの守りたいものを守るために前を向いた。

 その守りたいものに入っていない彼らに彼女は興味がなかった。

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